雨予報でクライミング講習がなくなった水曜日は映画館へ。|筆とまなざし#332
成瀬洋平
- 2023年06月21日
『ライフ・イズ・クライミング』を観るために名古屋の小さな小さな映画館へ。
数あるアウトドアアクティビティのなかでも、フリークライミングほど雨と湿度に悩まされるものはないだろう。トレーニングと割りきってジムに行くのも良いけれど、インストラクター業をしていると話が違う。近くにリードジムがないため、岩場講習が雨で中止になるのはまさに死活問題。収入はゼロか百か。なんともギャンブルのようである。
水曜日から3日間の日程で小川山講習の予定だったのだが雨予報。確実に晴れそうな金土に縮小して延期することにした。思いがけず予定が空いた水曜日、これはチャンスだとばかりに名古屋へ向かった。今話題の映画『ライフ・イズ・クライミング』を観るためである。先日の「クライムオン!!」でも、この映画に登場するふたりのトークショーが行なわれ、観る機会を伺っていたのである。
映画の内容が気になる方はぜひ観ていただくことにして、おどろいたのは映画館である。現在(といっても6月16日まで)、この映画を上映しているのは愛知県では名古屋駅の近くにある「シネマスコーレ」のみ(ちなみに岐阜県ではやっていない)。なににおどろいたのかというと、この映画館、入り口がどこかもわからないほど小さかったのである。自分史上最小の映画館。当然スクリーンはひとつしかないので前の映画が終わるまで外で待機。チケット売り場の向こうにトイレがあり、トイレに行くには売り場を一旦閉じなければいけない。定員は51名。脇には小さな補助椅子がいくつも積み重ねられている。スクリーンはなんともかわいいサイズ感。1983年に映画監督によって立ち上げられたそうで、日本映画、アジア映画、インディーズ作品などを中心に上映しているのだという。端々に映画への愛が満ちている、そんな空間だった。
田舎で育った少年期のぼくには、映画を観るという習慣がなかった。電車で1時間以上かけて名古屋まで来なければ映画館がなかったからだ(映像表現に興味のあった兄は度々映画を観にいっていたようだが)。だから、ぼくにとって映画館はいまでもちょっと粋な場所。とくに小さな映画館にはなんだか大人の香りが漂っているように感じるのである。
名古屋にはほかにも小さな映画館が残っているらしい。映画の内容もさることながら、このような文化が根付いていることに感動した一日だった。
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