廻り目平キャンプ場をベースに小川山、そして瑞牆のマルチピッチルートへ|筆とまなざし#333
成瀬洋平
- 2023年06月28日
岩間に咲いた黄色い可憐な高山植物「ホソバタカネニガナ」
最近は小川山へ行くことが多い。梅雨時、笠置山の岩は濡れていることが多く、瑞浪は熱中症になるくらい暑い。近場の岩場はすっかりシーズンオフとなり、仕事でもプライベートでも、乾きが早くて比較的涼しい小川山へ向かうのである。新しいトポが出たことも小川山通いの理由。天気予報が悪くても意外と登れたりするのがこの時期の小川山。とにかく現地に行ってみることが大切である。
ということで、廻り目平キャンプ場をベースにして講習しながら、仕事の前後でプライベートで登るという生活を送っている。今回は5日間滞在し、明後日からはまた4日間滞在の予定。おかげで体も少しずつ引き締まってきてくれたようだ。岐阜は雨ばかりで蒸し暑い。やっぱりこの時期は小川山だなーと、その爽やかさを感じながら毎年のように思うのである。
先日はひさしぶりに、マルチピッチを登るために瑞牆に出かけた。瑞牆マルチは昨年の秋以来。今回は大面岩のとあるルートを登ることにした。グランドアップで初登され、瑞牆でも屈指の好ルートだと、トポには書かれている。
少々湿度は高いが、曇天のおかげで暑すぎない。核心ピッチを越え、少し濡れたチムニーを這いずりあがり、高度感のあるダイクをトラバース。第二核心のカンテ状のフェイスからスラブを登ると、あとは易しい1ピッチで頂上台座へ抜けるところまでやってきた。ふと、目の前のフェイスを見上げると、岩間に黄色い可憐な花が咲いていた。グルーブに溜まったわずかな土を苗床にして咲く花は、無機質な岩のなかでひときわ鮮やかに見えた。登りながらしばし見惚れる。梅雨時は岩のコンディションは決して良くはないけれど、この時期だからこそ見られる風景である。
帰宅後、図鑑で調べると「ホソバタカネニガナ」という高山植物だとわかった。クライミングに出かけると、ついついルートしか目に見えなくなってしまう。ルートが登れたかどうかだけでなく、クライミングという行為を通して自然そのものを味わいたい。ホソバタカネニガナはそう語りかけているかのように、逞しくもしなやかに咲いていた。
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