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絵心に触れるなにかが秘められた風景|筆とまなざし#366

白い主稜の向こうに広がる八ヶ岳の森。描きたいと思う風景はいつになっても変わらない。

南沢大滝には先行パーティーがいた。彼らが下るのを待って登り始める。気温が高めで氷は柔らかいし、あちこちに穴が空いているので登りやすい。上半部は氷が水っぽくなり、スクリューを打ち込む場所に少々迷った。無事に登り切って左岸の立木をアンカーとした。

さて、次はフォローで登る妻の番である。途中から傾斜がきつくなるため「登れるところまで登る」と言っていたものの、ロープは順調に上がってくる。やがて抜け口からひょっこり顔が現れた。「穴にアックスを引っ掛けられたし足も多かったから登りやすかった」とのこと。懸垂で下って無事にひとつ目のミッションを達成。パッキングし直して行者小屋へ向かった。

すでに大学生は春休みになっているのだろう、テント場には山岳部らしき大きなテントがいくつか張られていた。眺めの良い場所をショベルで整地し、サマヤのテントを張る。このテントのこだわりを挙げたらきりがないのだけれど、大きな特徴はフロア部分などにダイニーマが使われていること。クライミングのスリングにも使用されるダイニーマは軽量でありながら非常に強い。前室もダイニーマ製でとても大きく、調理場としてもギア置き場としても使いやすい。冬山でのシングルウォールは結露の凍結が心配だったが思ったよりも少なくて快適である。やっぱりこのテントは山岳地帯での使用に本領を発揮してくれる。今年はサマヤのテントが似合うような場所へクライミングトリップに出かけたいものである。

翌日は朝から快晴だった。風も穏やかで快適なコンディションのなか、赤岳主稜を登る。赤岳主稜は八ヶ岳のバリエーションルートのなかでも人気が高く、ぼくも10年以上前に山岳会の友人と登ったことがある。人気の理由は、難易度が易しいこと、岩稜と雪稜の変化に富んだルートであること、そして最後は八ヶ岳の最高峰である赤岳の頂上に突き上げることだろう。雪面のトラバースをして核心ピッチの岩場を登り、雪稜から再び岩稜へ。稜線までわずかなところでロープがいっぱいになり、適当な岩を見つけてピッチを切った。2月とは思えない暖かい日差しを感じながらビレイした。振り返ると、白い主稜の向こうに八ヶ岳の森が広がっていた。

しばらくすると稜上に妻の姿が現れたので、絵の素材にと何枚か写真を撮った。かつて友人と登ったときもこの風景に佇む友人の姿を描いたことがある。いつになっても、描きたいと思う風景は同じなのだろう。この風景には、ぼくの絵心に触れるなにかが秘められている。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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