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高山植物(山の花好き)ライター・成清 陽の「ヤマノハナ手帖」#26 コマクサ・後編

登山&撮影をライフワークとする花ライターがお送りする、高山植物の偏愛記。静かに、しかしアツ~く、お花をご紹介します!

コマクサ前編をお送りした前回。なんと、1週間で最多アクセスを記録したとか!これには「さっすが女王様!」という言葉が編集部からも漏れました。そう、やっぱりクイーンはひと味違う。そして、これからお送りする後編の内容も、そのマニアックさにおいては、日本随一……もとい、かなりのモノといえるでしょう。さあ、では参りましょう。特別編・コマクサ後編です!!

「駒」に似ているコマクサみっけ!

Data
コマクサ(ケシ科)
一般的な花期:6~7月
おもな生育場所:高山の岩場など

さて、前回からお送りしている高山植物の女王・コマクサ。さっそくトップ写真に上げたのは、馬(駒)の顔に花のカタチが似ているという絵。ただしこれ、ツボミなんですよねー。「ツボミのほうが駒に似てる……いや、むしろツボミはバレンタインのハートか?あ、今年チョコもらえなかったっけ……」。そんなボヤきが筆者からだだ漏れますが、モテないのは仕方ないので、さておき。今回も専門家にコマクサのいろはを教えていただきましょう!!

今回教えてくれる方は……

さて、前回に引き続いてコマクサについて教えていただいたのは、大町山岳博物館の学芸員・千葉悟志さん。この博物館、前回もご紹介したとおり、コマクサはもちろん、付属園(高山植物園)をもつほか、エントランスにほど近いロックガーデンでコマクサなどを栽培中という入れ込みよう。千葉さんは同博物館に就職後、蓮華岳のコマクサ群落での研究や博物館でのコマクサ育成、そのほか高山植物の研究などを手がけてきました。いわば、その道のプロフェッショナルです。では、さっそく千葉さんにお話を伺っていきましょう!!

意外すぎる発芽の姿と、根っこの真実

さて、千葉さんが取材中に見せてくださったのが、この研究成果。こちら、2006年の「コマクサ生活史研究」において、博物館でわかったことをまとめたものだといいます。

「コマクサの発芽は、まず『異形子葉』から始まります。山麓では一年目にこの異形子葉が出てから本葉、そして次々に葉を増やすことがわかりました。対する高山では、異形子葉のままか、あるいは本葉をひとつもって一年目を過ごし、その後は少しずつ葉が増えていきます。また、博物館では根があまり深くならず、横に広がる傾向があることも判明しました」。ツンツン頭(?)の葉っぱがトレードマークのコマクサ、発芽がこんなにも意外な姿とは。そして、「コマクサの根は1mにも達する」という説をよく聞きますが、これはどうしたことでしょう??

見てきました、異形子葉!

異形子葉と根っこ、どうしても気になりますよね。取材後、山岳博物館からほど近い、爺ヶ岳のコマクサ生育地を訪れ、目を凝らしてみました。すると……ありました、ありました! これぞ、コマクサ一年目の姿。葉っぱの長さは1cmに満たないほど。教えていただいていなければ、まったく気づかないレベルでした。そしてもうひとつのナゾ・根っこはというと……。株を引っこ抜きたいキモチを、めっちゃこらえたワタクシでした。

「まさにコマクサの異形子葉ですね。根っこについては、抜いていい場所は国内にはまずありませんから、諦めるしかないです。参考に、これを読んでみてください」。こうしていただいたのが過去の研究論文。そこにも、蓮華岳でのコマクサの根の長さは4~25cmあまりという記述が。うーむ、でもこれは一部の結果のはず。どなたか、正式な認可受けてアングラ研究やってみませんか~!?

コマクサの花を目指す昆虫って?

ところで、コマクサの花は縦に割れるギミックを備えています。これ、じつは昆虫に花粉を運んでもらう仕組み。ちょうど、駒の“鼻”にあたる部分に雄しべが隠れており、それを足がかりにハチが花の奥めがけて潜り込むと、パカッと縦に割れている間から雄しべが現れ、おなかに花粉をペタリ。とはいうものの、ハチって高山にいましたっけ。

「ちょうど夏山シーズンには、多くのハチがいますよ。とくにコマクサと関係するといわれているのはマルハナバチの仲間たち。なかでもナガマルハナバチは、その口吻(ストローのような口)がもっとも適しているとされています。コマクサで蜜を吸うハチを見たことないですか?」。ホントすみません。見たことないです……。

ハチの姿を求めて、今度は乗鞍岳へ!

爺ヶ岳ではハチの姿を一瞬見かけたものの、まさかのピンボケ。ということで、今度は乗鞍岳にハチ探しの旅へ。そして、ホントにいました、いました。足に花粉カゴをつけたオシゴト中のマルハナバチ!これですよね、千葉さん!!

「これは、オオマルハナバチですね。なお、コマクサに訪れたという記録があるのは本種とナガマルハナバチ。そしてデータは少ないですが、ニッポンヤドリマルハナバチ。この3種類でしょうが、研究者がおらず、訪花昆虫についてはまだ調査が不十分です」。ふ、深すぎます~!!これぞ、沼!

蜜ドロボウの痕跡も発見!

最後にご紹介したいのは、この一枚。乗鞍岳で見つけたしぼみかけのコマクサですが、とにかくキズ多し。とくに注目したいのは、左右対称の穴、つまり「盗蜜行動」の痕跡でしょう。真っ正直に花粉をもらいにくる正直者もいれば、楽をして蜜だけほしがる無法者もいるようです。千葉さんに教えていただかなければ触れられなかった、コマクサの深い深い世界。それでもまだ、高山植物ワールドへの情熱は尽きないようです。

「研究のなかで、コマクサはほかの花から花粉をもらう他家受粉のほか、自身の花粉でも種をつくる自家受粉が可能な、『混殖性』であることもわかってきました。それでも、なぜ花の咲く順番が決まっているのかなど、まだわからないことが多いです。コマクサ以外にも、ミヤマオダマキの訪花昆虫がわかっていなかったり、マルハナバチがなぜ同所的に生えているイワオウギやシロウマオウギ、タイツリオウギ、リシリオウギの酷似する花を瞬時に識別できるのか。興味深いことばかりです」。なんだかお話を聞いていたら、研究員になりたくなった筆者なのでした。コマクサならずとも、またお話を伺わせてください、師匠!!

 

さてさて、今回のコマクサフィナーレ。いかがでしたでしょうか?エキスパートの手引きによって生活史まで踏み込んでみると、まだまだコマクサという植物が本当に“知られているようで知られていない”ということが身に沁みました。でもこれは、まだまだコマクサ沼のエントランス。きっと、より深い沼は、これから未来の研究者が踏み込んでくれることでしょう。そして、ここまで読んでくださったみなさんも、きっと山岳博物館に行きたくなったはず。ぜひアルプス登山の前後に、博物館を訪れてみてくださいね!!

Data
大町山岳博物館
住所:長野県大町市大町8056-1
TEL0261-22-0211
開館時間:9:00~17:00(4~11月)、10:00~16:00(12~3月)/閉館30分前までに入場
定休日:毎週月曜および祝日の翌日、年末年始/7、8月は無休
料金:大人450円、高校生350円、小中学生200円
※団体はそれぞれ50円引き。各種割引についてはHPをチェック
https://www.omachi-sanpaku.com

 

それでは、また。
みなさまのココロに、すてきな花が咲き誇りますように。

 

花ライター
成清 陽
持ち前の強い好奇心で、大学時代から山・海・島を渡り歩いてきた個性派。自然ガイド、環境コンサル、アウトドア誌編集者、市営公園管理人、企業の森づくりなどなど、自然にまつわる職を転々としたのちにフリーランスに。好きな山は尾瀬、白山、御嶽、北岳。2023年春から岐阜県山間部のプチ古民家に移住し、半隠居ライフを通じて、どこまでユルく生きていけるのか絶賛お試し中です!

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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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