ラフェが大金星! 残り1kmでアタックをし第2ステージを制す|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2023年07月03日
ツール・ド・フランスの第2ステージが現地7月2日に行われ、24選手による小集団による優勝争いは、ヴィクトル・ラフェ(コフィディス、フランス)が残り1kmでアタックに成功。集団の追い込みをかわして逃げ切ってみせた。ラフェはこれがツール初勝利、キャリア通算でも4勝目。個人総合首位のマイヨ・ジョーヌは前日勝ったアダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ、イギリス)がキープしている。
最後の一撃に賭けたラフェがキャリア最大の勝利
スペイン・バスク自治州のビルバオで開幕した今年のツール。前日1日には同地を発着する第1ステージを行い、サイモン・イェーツ(チーム ジェイコ・アルウラー、イギリス)との兄弟対決に勝ったアダムが大会最初のステージ勝者に。自動的にマイヨ・ジョーヌも手に入れ、第2ステージを迎えることになった。
その第2ステージは、同じくバスク自治州のビトリア・ガスティスからサン・セバスティアンまでの208.9km。スタートして約40kmで中間スプリントポイントを通過してからは、前日同様に丘陵地帯を進む。注目は、フィニッシュ前16.5kmに待つ2級山岳ハイスキベル(登坂距離8.1km、平均勾配5.3%)。例年7月下旬に開催されるUCIワールドツアーのクラシカ・サン・セバスティアンでも勝負どころとなっていて、今回はそのレースとは逆側からの登坂。頂上通過後は一気に駆け下りて、ビスケー湾を望むサン・セバスティアンの中心部にフィニッシュする。
この日のスタートを前に、前日のステージでクラッシュし膝蓋骨の骨折が判明したリチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト、エクアドル)が未出走。同じタイミングでの落車で肩甲骨を骨折したエンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)に続くリタイア者となった。同様に前日落車したトースタイン・トレーエン(ウノエックス・プロサイクリングチーム、ノルウェー)は、肘の骨折を押して出走を決断している。
リアルスタートからいくつかのアタックは決まらなかったが、その後に飛び出したエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(トタルエナジーズ、ノルウェー)の動きが決まり、これに山岳賞のマイヨ・アポワを着るニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト、アメリカ)、レミ・カヴァニャ(スーダル・クイックステップ、フランス)が同調。3人逃げとなって、レースが進行した。
3人とメイン集団との差は少しずつ開いていき、30km地点では4分差。しばし進んで迎えた中間スプリントポイントはボアッソンハーゲンが1位通過。4分25秒差でやってきたメイン集団は、ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)が先着し、全体の4位通過。13ポイントを獲得している。
丘陵地帯に入っても形勢に変化はなく、逃げメンバーが山岳ポイントを獲得していく。通過順に3級、4級、3級、4級と上り、いずれもパウレスがトップ通過して山岳ポイント加算に成功している。この間、3つ目の登坂区間でカヴァニャが遅れ、メイン集団でもスプリンターを中心に上りに耐え切れず続々と後方へ。全体的にペース上昇傾向となり、リーダーチームのUAEチームエミレーツがミッケル・ビョーグ(デンマーク)を中心にコントロールを本格化させていく。
残り距離が40kmを切ると、集団ではラウンドアバウト通過時に落車が発生するなど、徐々に慌ただしい流れに。一時的にヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)やベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストラリア)といった総合系ライダーが足止めを食うが、いずれも大きなダメージはなく集団へと戻っている。この頃には、逃げる選手とのタイム差は2分台に。この日4つ目の上りとなる4級山岳でボアッソンハーゲンが遅れ、先頭はパウレスひとりとなった。
勝負どころであるハイスキベルに向けて、集団ではユンボ・ヴィスマ、UAEチームエミレーツ、イネオス・グレナディアーズなどが前を固めてポジション争い。上りが始まるとチーム ジェイコ・アルウラーも牽引に加わり、ペースは上がる一方。ひとり粘ったパウレスも残り19kmで捕まり、焦点は集団の動向へと移っていく。
長く集団を牽引したラファウ・マイカ(UAEチームエミレーツ、ポーランド)に代わり、頂上目前でマイヨ・ジョーヌのアダムがペーシングを担う。番手にはタデイ・ポガチャル(スロベニア)がつけ、アダムはアシストの動き。頂上まで200mのところではサイモンがアタック。これをチェックしたヴィンゲゴーとポガチャルが猛然とスプリントをはじめ、ボーナスタイム獲得を狙う。ここはポガチャルが1位で通過し、8秒のボーナスタイムを確保。続いたヴィンゲゴーは5秒ボーナスを得た。
この勢いで後続を引き離した2人だったが、下りでヴィンゲゴーが先頭交代に応じなかったこともあり逃げのムードとはならず。後ろでは集団が再びまとまって、12kmを残してポガチャルとヴィンゲゴーに合流。そこからはユンボ・ヴィスマが主に牽引し、得意の下りで抜け出しを図ったペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)や、エマヌエル・ブッフマン(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)のアタックを封じた。
残り2.5kmではマティアス・スケルモース(リドル・トレック、デンマーク)がアタックするが、ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)が引き戻し、決定打を許さない。この段階で先頭は24人。そのまま最終局面を迎えるかに思われた。
ユンボ・ヴィスマが引き続けながら最後の1kmへ。ここで飛び出したのがラフェだった。集団のスキを突く一瞬の動きで、あっという間に数秒の差が付く。そのままビスケー湾沿いの最終ストレートに入ると、集団もスプリントを開始したがわずかな時間で得た貯金を生かしてラフェが逃げる。追い込みをかわして、ツール初勝利となるフィニッシュへ飛び込んだ。
マイヨ・ジョーヌ候補らビッグネームを差し置いて大金星を手にしたラフェは、プロ6年目の27歳。これまでのキャリアでは3勝を挙げており、2021年にはジロ・デ・イタリア第8ステージで逃げ切り勝利を挙げている。今季は4月に1勝しており、春のクラシックの1つであるラ・フレーシュ・ワロンヌでも6位と健闘。前日の第1ステージでは、ポガチャルやヴィンゲゴーとともに先頭に立つ見せ場を作って6位フィニッシュ。好調をアピールしていた。
これにより、ラフェはポイント賞で首位に立ち、マイヨ・ヴェールに袖を通している。大会序盤でホスト国フランスにもたらしたその走りは、今大会のダークホースとなるかもしれない。
ラフェを追い込みながらわずかに届かなかったメイン集団は、同タイム扱いでのフィニッシュ。ワウトがステージ2位となり、ポガチャルが3位で続いた。ポガチャルはこの日だけで12秒のボーナスタイムを得たことになる。
このステージを終えての個人総合は、アダムがトップをキープ。6秒差でポガチャルが2位に浮上し、同タイムでサイモンが3位につける。大活躍のラフェが総合タイム差12秒で4位に浮上。ヴィンゲゴーは同17秒差の6位としている。
総合系ライダーでは、オコーナーがラフェから58秒差の第2グループでのフィニッシュとなり、ティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ、フランス)も後退。早くも個人総合で上位進出が厳しい情勢となっている。
翌3日は、いよいよフランスへ入国。バスク自治州のアモレビエアタ・エチャノを出発し、レース後半にフランスへと入ってバイヨンヌにフィニッシュする。今大会最初の平坦ステージにカテゴライズされるが、周辺地域の道路事情により、当初予定のコースからフィニッシュ前16km手前のポイントでルートが変更。距離が約6km伸び、193.5kmで争われる。
ステージ優勝、ポイント賞 ヴィクトル・ラフェ コメント
「アタックがうまくいくかは想像できていなかった。フィニッシュラインに近づくにつれてパワーが落ちていっていたけど、結果的にうまくいった。本当に信じられない。昨日、ポガチャルとヴィンゲゴーについていった場面は想定していなかったけど、今日のアタックは計画していたこと。そのために、丘ではトップライダーにひたすら食らいついていった。コフィディスがツールでステージ優勝を挙げられて本当にほっとしている(2008年以来の勝利)。チームに入って以来、この状況について何度も耳にしていたし、ようやくプレッシャーから解放される。個人的にはもっともっと勝ちたいし、チームとしてもブライアン・コカールがいるから、自信をもって走っていける」
個人総合時間賞 アダム・イェーツ コメント
「アップダウンの連続で、1日を通して慌ただしかった。ラウンドアバウトや道路標識に注意を払う必要があったが、マッテオ(トレンティン)がコーナーで落車する不運があった。他チームの協力が得られず、レースのほとんどを私たちがコントロールしたが、チームとして素晴らしい働きだった。ハイスキベルではタデイがボーナスタイムを獲れるようセットアップし、予定どおりに走ることができた。もしタデイがステージ優勝していれば、マイヨ・ジョーヌは彼のものだったが、チームとして保持できていれば問題ない。ここから2日間は、理論上ジャージのキープは可能だが、やってみないと分からない。テクニカルなコースが続くし、集中して走っていきたい」
ツール・ド・フランス2023 第2ステージ結果
ステージ結果
1 ヴィクトル・ラフェ(コフィディス、フランス)アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ、イギリス) 4:46’39”
2 ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)ST
3 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
4 トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)
5 ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)
6 マティアス・スケルモース(リドル・トレック、デンマーク)
7 マイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック、カナダ)
8 ロマン・バルデ(チーム ディーエスエム・フェルメニッヒ、フランス)
9 ディラン・トゥーンス(イスラエル・プレミアテック、ベルギー)
10 ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストラリア)
個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ、イギリス) 9:09’18”
2 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)+0’06”
3 サイモン・イェーツ(チーム ジェイコ・アルウラー、イギリス)ST
4 ヴィクトル・ラフェ(コフィディス、フランス)+0’12”
5 ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)+0’16”
6 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)+0’17”
7 マイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック、カナダ)+0’22”
8 マティアス・スケルモース(リドル・トレック、デンマーク)ST
9 ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストラリア)
10 ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)
ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ヴィクトル・ラフェ(コフィディス、フランス)
山岳賞(マイヨ・アポワ)
ニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト、アメリカ)
ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
チーム総合時間賞
ユンボ・ヴィスマ 27:29’00”
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。