王者ヴィンゲゴーはじめ各ステージ勝者とメディアのユーモラスなやりとり|小玉 凌のツール取材記
Bicycle Club編集部
- 2023年07月18日
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気鋭の若手サイクルジャーナリスト、小玉 凌さんがキャリア2回目となるツール・ド・フランス取材に赴いている。熱を帯びる日々のステージとともに進んでいく3週間の旅。レースそのものにとどまらず、その傍らで起こった出来事や、“ここだけの話題”なども日本のファンに向けてレポートする。
その第4回は、思いをペダルに込め勝利に向かった選手たちと、開催地フランスでのメディアとの選手に対するシビアな評価について。
ステージ勝利した各選手
ツール・ド・フランス第10〜12ステージの現地便り。
起伏のあるステージでは故郷を離れたエウスカラたちが活躍し、平坦ではフィリプセンがまたも勝利。アルプス突入を前に素晴らしいステージ優勝争いがみられました。
-第10ステージ- 最も暑い?ステージでペリョ・ビルバオが初勝利 ジノ・メーダーへよい知らせ
休息日を明けて第10ステージは2級、3級山岳をこなす「丘」ステージでした。
タイム差がつきにくいレイアウトは総合時間争いが行われにくく、なおかつステージ優勝を狙うにはうってつけ。そのため、ほぼ全てのチームピットでローラーが出され、競争率の高さを感じます。
序盤から逃げの選別が激しく、暑さも伴ったハードな展開で力のある選手でもダメージを受けます。
スタートから冷却が追いつかなかったダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)もその一人で、程なく失速。結局メイン集団には戻っていますが、約60km苦しみました。ゴデュ、そしてティボー・ピノ(フランス)を抱えるグルパマ・エフデジは休息日時点では継続的に「総合上位狙い」を優先して戦うと発言していました。(ゴデュ個人総合8位+6:01、ピノ個人総合15位 +9:36:第9ステージ終了時点)
この日、ステージ勝利に加えて総合順位も引き上げたペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)のような、一挙両得で立ち回る作戦も有効ですが、当初の姿勢を貫くと言います。
また、今ツールでビルバオはステージ順位に応じた額を森林保護団体(BaSOS Elkartea)へ寄付するチャリティーを実施中。このプロジェクトは亡きジノ・メーダーが行なっていたもので、それを引き継ぐ形で取り組んでいるもの。2026年までの契約更新も行ったビルバオはキャリアを通じて彼と走り続けるでしょう。
-第11ステージ- ムーランでの圧勝と祭りのあと
クレルモン=フェランからムーランまでをゆく平坦ステージ。
スタート地点では地元を発つレミ・カヴァニャ(スーダル・クイックステップ、フランス)の声援が一際大きく響きました。
レース終盤にはそんなカヴァニャによる高速牽引が見られたものの、ウルフパックのフィニッシャー、ファビオ・ヤコブセン(スーダル・クイックステップ、オランダ)は残念ながら振るわず。さらに翌日にはレースを去るとの報道も。落車の痛みと睡眠不足もあってパフォーマンスが芳しくなかったようで、回復を優先させるとのこと。またしてもライバルが減り、さらに勝ち星を増やしそうなヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)。
そもそも4勝もできている要因は?と取り沙汰されていますが、リードアウターの順序変更と、山岳トレーニングが功を奏し、フレッシュな状態でスプリントができているからだそう。
ルカ・メズゲッツ(スロベニア)、ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ)と完璧な継走で挑んだチーム ジェイコ・アルウラーも惨敗。スポーツディレクターも「万全な状態で挑んで負けたのならもうどうしようもない」と実力を認めています。
また、ムーラン(アリエ県)でのフィニッシュをもってツール・ド・フランスは全ての県庁所在地を回りきりました。初登場の地だけあってか、ステージ終了後のアリエ橋はいまだ人だかりが。なにやら、ドローンを使ったナイトイベントが行われるようで、それを待っていた様子。そんな街のお祭り騒ぎが穏便に終わるはずもなく……。夜中にサイレンも鳴っていたので翌日調べると同地区の広場で乱闘事件があったとのこと。
ツールによって一度熱を帯びた街が冷めるには時間がかかることがよくわかりました。
-第12ステージ- バスクから今大会2人目の勝者とフランス籍チームの評価
ツール・ド・フランスでのステージ優勝は大変名誉ある称号です。そして、故郷が舞台となった特別な大会での勝利となればなおさら。それが2人のライダーによって成し遂げられたとなると、地元はさぞ喜んだのではないでしょうか。
また、ヨン・イサギレ(コフィディス、スペイン)の功績は、今大会コフィディスで2人目の勝者を輩出したことになります。このことをレキップ紙では、「敗者のレッテルを貼られなくなった」と、「ツール2勝」を手にしたチームへの認識を改めるような表現で紹介。
また、他のフランス籍チームの様子を「コントロールの外」と見出し、個人総合優勝圏外であることを揶揄しながらこの日の争いが振り返られています。
© A.S.O. / Charly Lopez
もう一方の戦い、個人総合優勝争いはそのままで、いったん停戦といった模様。総合上位勢には3日連続で動きに変化はありませんが、レースリーダーには1日の終わりに質疑応答が設けられます。毎日行われるやりとりともあり、話題が尽きるとやや脱線した問いかけもなされます。
ボージョレ・ヌーボーの産地を通過したこのステージでは、好みのワインの銘柄や楽しみ方を聞かれるヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)。若干戸惑いながらも真面目な回答を淡々と。この調子で、意地悪な質問も飛んでくることもなきにしもあらず。そんなときには真に受けず、適度にいなしながら、受け答えることも王者に必要な器量なのかもしれません。
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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。
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