パイプオタク【革命を起こしたいと君は言う……】
Bicycle Club編集部
- 2019年07月18日
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東京サイクルデザイン専門学校ももう8年
渋谷にある東京サイクルデザイン専門学校(TCD)。開講してからすでに8年という歳月が流れた。今ではすっかり東京・渋谷の顔ともなり、彼らはこの街に新しい風を送り続けている。
彼らのメッセンジャーバックやカバンには普通に自転車パイプが入っており、それで通学をしている。帰り道にケルビム青山店でフレーム部分を物色したり都内の数少ない部材が買える店に寄ったりしているようだ。
危険物にもなりかねないので、少々不安もあるが、まわりの迷惑にならぬように気をつけているようだから問題はないだろう。
開校当初は、オーダーフレームの存在すら知らぬ学生もいた。しかし8年という時間もたち、オーダーフレームの世界が学校に浸透していった。いまでは在学中に生徒は立派なパイプオタクになり卒業していく。最近では「それどこで売ってるの?」と逆に私が学生に教わるほどだ。
いまさらでもあるが、自転車は非常に奥が深く、コンポやサドルにハンドル、ペダルなど自身でとことんまでカスタマイズできる。オタク気質にはたまらない趣味でマニアはあとを絶たない。さんざん愛車をいじりたおし、目的を果たした後の達成感は、なかなかほかのスポーツでは味わえない。
私も最近シューズのクリート位置と葛藤し、ここだ!という位置を見つけた。たった数ミリ動かしただけで、まったく別の乗り味になるからおもしろい。この本の読者なら理解してもらえるだろうか。
しかし自転車フレームの素材となるとどうだろう?
バイト代やおこずかいをはたいて集めてきたカーボンパイプやらチタンにスチールパイプ、ロウ材に接着剤、その肉厚の違いを分別したり購入したりして乗り味の想像を膨らます。かなりオタク指数は高い。
若者の街、渋谷のファーストフード店で仲間たちとパイプを眺めてヨダレを垂らしている10代の変態は、おそらくここにいる奴らくらいだろう……(失礼)。
10年前、渋谷で自転車パイプを持って歩いているのは、私くらいだったことを思いだす。私は教育者というにはほど遠い人間だ。しかしパイプに夢中になっている彼らを見ていると頬が緩む。オーダフレームという世界を知ってもらうことに少しはお役には立てたのではないか。
祝コロンブス社100周年!
1世紀前にイタリアのミラノ郊外て産声を上けたコロンブス社は、2019年の今年、100周年を迎えた。それを記念し限定盤 の「チェント(CENTO)」スチールチューブセットを発表した。コロンブスチューブといえば自転車製作者のわれわれからみれば、いつでも高嶺の花的な存在であり、今もなおわれわれのフレームには欠かせない存在だ。
彼らを尊敬する理由はいくつかある。ひとつめはいつでもレーシングな存在であり続けているということだ。イタリア企業全般、カンパニョーロ、フェラーリ、コルナゴにデローザ、ドゥカティそしてコロンブス。彼らはレースで使われようが使われまいが常にレーシングを追い続けている。
値段、グレードによりレーシングから離れる場合もあるが、レーシングパーツや素材で培ったノウハウを下のグレードにフィードバックする仕組みが確立されている。
もうひとつはスチールチューブの製造&研究を続けていること。パイプメーカーだからあたりまえだろうという声も聞こえてきそうだ。しかし私が仕事を始めた90年代、スチールフレームの製造台数は絶望的に少なかったし、私の仕事も危機的な状況だったことを知ってほしい。
MTBブームに始まり、台湾や中国などへの生産大移動。アルミフレームを皮切りにレースではカーボン素材がメインとなり、われわれは材料を集めることすら苦労した時代があったことを。パイプメーカーも大きなダメージを受け、実際この時期に淘汰されたブランドやビルダーは多くいる。
コロンブスもこの時期にアルミチューブ、カーボン素材にフォークにパーツなどさまざまなジャンルに手を広げこの時期を乗り越えたはずだ。しかしスチールチューブ製造、開発をやめることはなかった。
新製品こそ少なくなったが、この時期に出したマックスチューブや新素材など多くのすばらしい製品を出している。
そしていつでもビルダーの声に耳を傾け製品開発をしていことも好感が持てる。小さなビルダーの展示会などにも足を運び、近年は日本のハンドメイドバイシクルショーにもはるばるイタリアから参戦している。
コロンブス・チェントの概要
チェントの素材は現在コロンブスの主力素材「オムニクロム」を使いトップとダウンチューブにテーパードチューブを採用。そしてダウンチューブは直径44㎜のファットチューブ仕様だ。オムニクロムは溶接後に現在もっとも安定した性能を引き出せる素材だ。
特筆すべきはメインパイプのバテッド位置が3種類ずつ用意されていること。同じ外径、形状であれば乗り味をコントロールするのはバテッド位置が鍵となるからだ(バテッド処理により自転車パイプは両端の肉厚が厚く中心が薄く加工されている)
フレームサイズによりパイプは長さが変わるので、乗り味にも影響を与え製作者の頭を悩ませる。サイズによっては使えないパイプすら出てくる。
バテッド変更は金型も必要となるのでコスト的にも費用がかかる。この寸法が選べるというのはほんとうに良心的な設計だ。フォークは1.5テーパードフォークを想定している。
現代のライダーはカーボンフレームの高剛性な乗り味に慣れてしまっているので、じつはスチールに乗り換えたときに違和感を感じるライダーも少なくない。
結果、よくも悪くもカーボンのような乗り味をスチールで目指す傾向がある。その答えとなるパイプセットとも見て取れる。
全体的に高剛性なので、やはりスルーアクスルのディスクブレーキ仕様で組むのがベストだろう。
このコロンブスの歴史、そして100周年記念パイプ。チェントを見ているとハッキリとメッセージが見えてくる。それは「レーシングバイクでもっとも優れた素材はオーダースチールだ」という強い信念だ。
ケルビム・チェントレーサー
ここでちょっと宣伝。このパイプは2019年かぎりの完全オーダー限定生産品、このチェントを使った限定フレームセット「ケルビムチェントレーサー」のオーダーを受付を開始させていただいた。
このコロンブスの記念すべきパイプをぜひ一人でも多くのライダーに体感していただきたい。学生に負けないくらいのオタク指数で心を込めて製作させていただく心算だ。
Cherubim Master Builder
今野真一
東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。人気を不動のものにしている
今野製作所(CHERUBIM)
(出典:『BiCYCLE CLUB 2019年月号』 )
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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。
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