ポガチャルがリエージュ~バストーニュ~リエージュ初制覇 ツールに続くタイトル獲得
Bicycle Club編集部
- 2021年04月26日
春のクラシックシーズンを締めくくる伝統のレース、リエージュ~バストーニュ~リエージュが現地時間4月25日にベルギー南部・ワロン地方を舞台に開催された。11カ所の登坂区間と幾多のアップダウンを経ての優勝争いは、最後まで残った5人のスプリントでタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)が真っ先にフィニッシュへ。初のワンデークラシック制覇を飾った。
ラ・フレーシュ・ワロンヌ欠場の悔しさ晴らす大きな勝利
昨年は新型コロナウイルス感染拡大によって大幅にレーススケジュールが変化し、秋開催だった大会だが、今年は無事に定位置である春に“復帰”。前回大会から6カ月という短いスパンで、クラシックシーズン最高級の戦いが繰り広げられることになった。
この大会が初開催されたのが1892年。その歴史はツール・ド・フランスよりも古く、「ラ・ドワイエンヌ(最古参)」との別名もある由緒あるイベントは、これまで数多くの名勝負を生んできた。今回もアルデンヌの厳しいコースを舞台に、この春の王者を決める戦いが展開された。
この数年で定着したリエージュを発着とするコース設定。前半は南下してバストーニュの街を目指す。それを折り返し地点として、今度はリエージュへと戻るべく北上。選手たちの脚を試す主要な上りは、この後半のルートに集中。11カ所の登坂区間のうち、残り約35kmで上るコート・ド・ラ・ルドゥット(登坂距離2km、平均勾配8.5%、最大勾配13%)と、その12km先に待つコート・デ・フォルジュ(1.3km、7.8%)はレース展開を大きく揺るがすポイントとして注目が集まる。そして、最後の登坂区間となるコート・ド・ラ・ロシュ・オ・フォーコン(1.3km、11%、13.2%)が、勝負の行方を決める最重要局面。この頂上からフィニッシュまでの約13kmには小さな上りが潜んではいるものの、あとは下り基調とあって、アタックを成功させた選手がそのまま逃げ切ることも少なくない。
全長259.1kmの長き行程の大部分は、7人の逃げが先導し続けた。スタートから1時間後にはメイン集団に対し10分以上のリードを確保したのは、ローレンス・ハイス(ビンゴール・パウエルスソース・WB、ベルギー)、マティス・パースヘンス(ビンゴール・パウエルスソース・WB、オランダ)、ロイック・ヴリーヘン(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、ベルギー)、ロレンツォ・ロータ(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、イタリア)、セルゲイ・チェルネツキー(ガスプロム・ルスヴェロ、ロシア)、トーマス・マルチンスキー(ロット・スーダル、ポーランド)、アーロン・ファンパウク(スポートフラーンデレン・バロワーズ、ベルギー)。バストーニュの折り返しを過ぎてから、メイン集団が徐々にその差をコントロールするが、それでもしばし十分な差を保って先行した。
静かに進んでいるかに思われたメイン集団だったが、例年よりも早く本格的な駆け引きが始まった。フィニッシュまで80km以上残したコート・ド・ワンヌの上りでオマール・フライレとルイスレオン・サンチェス(ともにアスタナ・プレミアテック、スペイン)がスピードアップしたのをきっかけに、断続的にアタックする選手が現れる。フィリップ・ジルベール(ロット・スーダル、ベルギー)やグレッグ・ファンアーヴェルマート(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、ベルギー)といった実力者の動きを、有力チームのアシスト陣が抑える場面も見られた。
こうした中から、残り60kmを前にしたコート・ド・ロジエの上りを利用してマーク・パデュン(バーレーン・ヴィクトリアス、ウクライナ)、マーク・ドノヴァン(チームDSM、イギリス)、ハーム・ファンフック(ロット・スーダル、ベルギー)が集団から抜け出し追走を開始。メイン集団はドゥクーニンク・クイックステップを中心としたペーシングで、彼らとさらに前を行く逃げメンバーとを射程圏内に捉えながら残り距離を減らしていく。
逃げ・追走・メイン集団の形勢で、コート・ド・ラ・ルドゥットを迎える。ここまで200km以上先頭を走り続けた選手たちには厳しく、逃げグループがついに崩壊。前線に残ったのはハイスとロータ。その後の下りでヴリーヘンとマルチンスキーが再合流し、先頭は4人となる。一方、メイン集団ではイネオス・グレナディアーズが猛然とペースアップし、メンバーのふるい落としを試みる。これによって集団前方で中切れが発生し、これによって先日のラ・フレーシュ・ワロンヌを勝ったばかりのジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ、フランス)が後方に取り残されたほか、前回覇者のプリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)もイネオス勢がスピードを上げるグループへと慌てて合流するなど、急速に活性化。その後アラフィリップらは復帰を果たすが、メイン集団の人数は一気に絞られた。
続くコート・デ・フォルジュに向けて、先頭ではヴリーヘンが独走に持ち込んでいたが、上り始めたところで脚が攣って失速。数秒後ろで追っていたロータらがそのままパスしていく。ただ、逃げ続けていた逃げメンバーの粘りもここまで。再びテイオ・ゲイガンハート(イギリス)らイネオス・グレナディアーズが集団を牽引し、前を走っていたメンバーをキャッチするとともに、前線の人数を絞り込みにかかる。ここでも中切れが発生し、ログリッチやアラフィリップ、アレハンドロ・バルベルデ(モビスター チーム、スペイン)が後方に残され、アシスト陣が追う状況となる。
この流れで先頭に位置したのは15人ほど。イネオス・グレナディアーズはさらに畳みかけようと、リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)がアタックし独走に持ち込む。ただ、アラフィリップらが残っていたメイン集団が、まず先行していた約15人を捕まえると、さらに勢いを増してカラパス吸収を図る。いよいよ迎えたコート・ド・ラ・ロシュ・オ・フォーコンでは、その差17秒。上りが始まるとカラパスは失速し、集団は労せずキャッチした。
優勝争いに転化する大きな動きは、この直後にやってきた。マイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネイション、カナダ)がアタックすると、これに反応したのがポガチャル、アラフィリップ、バルベルデ、ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)の4人。ログリッチらを引き離して、そのまま頂上を通過。その後の小さな上りでもウッズはペースを上げて、後続とのタイム差を広げる。戦前から優勝候補に挙げられていた5人がパックを組んで、フィニッシュまでの残り約10kmを急いだ。
下りでさらに勢いを増した先頭の5人。後ろではログリッチやマテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス、スロベニア)らが追撃を図るが、どれも単発で前に迫るまでには至らない。やがて逃げ切りが濃厚となり、最終局面を意識した牽制ムードが高まる。5人それぞれの思惑がぶつかり、先頭交代のローテーションにも時折変化が見られた。
残り1kmを切って横並びになるなど、互いを見合いながら仕掛けどころを探る先頭の5人。バルベルデが押し出されるような形で先頭に出ると、ウッズ、ゴデュ、アラフィリップ、ポガチャルの並びで最後の数百メートルを進む。そして残り200m、バルベルデの加速を合図にスプリントが始まると、アラフィリップが先頭へ。しかし、その脇からさらに伸びたのがポガチャル。ホイール半分ほどの差でフィニッシュラインを通過すると、すぐに優勝を確信して喜びを爆発させた。
昨年のツールを制した22歳にとっては、これがワンデークラシックの初タイトル。昨年のこの大会でも優勝争いに加わりながら、スプリント時にラインをふさがれ勝利を逃していた。また、4日前のラ・フレーシュ・ワロンヌでは、チームに新型コロナウイルスの陽性者が出たため欠場。そうした悔しさをすべてぶつけたレースで、ビッグタイトルをもぎ取ってみせた。
初優勝を狙っていたアラフィリップは2位、ゴデュがこの大会初の表彰台となる3位を確保。また、日本勢で唯一の参戦となった中根英登(EFエデュケーションNIPPO)は、途中でバイクを降りている。
優勝 タデイ・ポガチャル コメント
「なんと表現したらよいのか分からない。このレースが本当に大好きで、優勝することが夢だった。ビッグネームたちに先着し、目標が果たされたことがただただうれしい。
最終局面はアラフィリップをチェックすることに集中した。彼を追い抜けるかどうかは分からなかったが、残っていた力と少しの運で何とかやり遂げた。
ツール・ド・フランスで優勝し、ハイレベルな他のレースでも勝つことができ、リエージュ~バストーニュ~リエージュのタイトルも獲得した今、まさにサイクリストとしての夢を生きている。今後はいったん休養し家族としばらく過ごしてから、ツール・ド・フランスへの準備を始めたいと思っている」
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2021(259.1km)リザルト
1 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)6:39’26”
2 ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ、フランス)ST
3 ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)ST
4 アレハンドロ・バルベルデ(モビスター チーム、スペイン)ST
5 マイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネイション、カナダ)ST
6 マルク・ヒルシ(UAEチームエミレーツ、スイス)+0’07”
7 ティシュ・ベノート(チームDSM、ベルギー)ST
8 バウケ・モレマ(トレック・セガフレード、オランダ)ST
9 マキシミリアン・シャフマン(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)+0’09”
10 マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス、スロベニア)ST
DNF 中根英登(EFエデュケーション・NIPPO、日本)-
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