初の本格山岳ステージはストーラー逃げ切り、バルベルデらリタイア|ブエルタ第7ステージ
福光俊介
- 2021年08月21日
第1週が進行中のブエルタ・ア・エスパーニャは現地8月20日に第7ステージを実施。今大会最初の本格的な山岳ステージで、6つの登坂に挑んだ1日をマイケル・ストーラー(チームDSM、オーストラリア)が逃げ切りで制した。プリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)が安定した走りで個人総合首位のマイヨロホを守った一方で、昨年のこの大会3位のヒュー・カーシー(EFエデュケーション・NIPPO、イギリス)と今大会好調だったアレハンドロ・バルベルデ(モビスター チーム、スペイン)がリタイアし、大会を去っている。
激坂で独走に持ち込んだストーラーがグランツール初勝利
地中海に面したガンディアから、バルコン・デ・アリカンテまでに設定された152kmのステージ。そこに、6つの山岳が詰め込まれた。スタート直後から1級の上りが待ち受け、それを超えたと思ったら3級、2級、2級、3級と立て続けに登坂区間がやってくる。締めは、ブエルタでは初登場の1級山岳バルコン・デ・アリカンテ。登坂距離8.4kmで、平均勾配は6.2%とされるが、実際は途中で下りをはさんでいることもあって、数字以上に上りはタフとの大方の見立て。特に頂上フィニッシュまでの4kmは、主催者発表では最大14%だが、瞬間的に30%近いポイントもあると言われる。道幅が狭く、新たに舗装し直した箇所もあり、簡単には攻略させてくれない。
そんな、ブエルタらしさを思わせるステージへ、182選手がスタートを切った。
リアルスタート直後から上りが始まるとあって、これまでのステージと比較して慎重な入りとなったプロトン。1級の登坂へ入るとアタックが多発するが、なかなか逃げが決まるまでは至らない。反対に、スプリンターを筆頭に集団から遅れる選手が続々と現れ、序盤からサバイバル化のムード。
この頂上付近で約20人がわずかにリードすると、その後の下りを経て4人が先行。さらに2人が合流し、これで逃げが決まる。その後ろでは、20人を超える追走グループが生まれ、先行する6人に迫る。2つ目の山岳となる3級の上りに入る手前で、追走グループが前の6人に合流。これで29人の先頭グループに膨らんだ。
いったん形勢が固まると、先頭グループでは山岳ポイントを狙った動きをはさみながら残り距離を減らしていく。なかでも、ロマン・バルデ(チームDSM、フランス)やケニー・エリッソンド(トレック・セガフレード、フランス)が積極的に山岳ポイントを狙う。上りをこなしていくたびに少しずつ人数が絞り込まれていく。残り50kmを切ってからは、単発のアタックも見られ、複数人を先頭に送り込んだチームやステージ優勝を意識し始めた選手たちの思惑が見えてくる。
この間、メイン集団は3分から4分の差で進行。リーダーチームのチーム ユンボ・ヴィスマがコントロールを続ける。こちらも残り45kmを切ろうかというところから少しずつアクションが見られはじめ、バルベルデやリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)らが一時的に集団から抜け出す場面も。さすがに集団も見過ごすわけにはいかず、すぐに合流するが、少しずつ活性化してきた矢先にアクシデントが起こった。
集団の合流を見たカラパスが再びアタックすると、真っ先にバルベルデが反応。しかし、直後の右コーナーでわずかな段差にタイヤをとられたバルベルデがオーバーラン。そのままスリップするような形でコースアウトしてしまった。これで完全に戦線から脱落したバルベルデは、ドクターのチェック後にアシストにともなわれ再出発するが、状態は芳しくなく再びストップ。思わぬトラブルに見舞われて大会を去ることとなってしまった。
この間もメイン集団は活発に動き、ミゲルアンヘル・ロペス(モビスター チーム、コロンビア)のペースアップにはログリッチ自ら反応。集団も追随し、再びユンボ勢が中心になって状況をまとめていく形をとった。
逃げ切りの可能性が高まりつつある先頭グループにも変化。この日4つ目の登坂でる2級山岳の頂上を通過した直後、ローソン・クラドック(EFエデュケーション・NIPPO、アメリカ)が下りを利用してアタック。しばし独走を続けたのち、同様に抜け出したストーラーとパヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ、ロシア)が合流し、3人逃げとなる。
残り16kmでアタック直後にチェーン落ちに見舞われたシヴァコフだったが、すぐに先頭に復帰。上りで一度遅れたクラドックは下りで復帰したものの、最後の上りである1級山岳バルコン・デ・アリカンテに入って早々に脱落。そのままストーラーとシヴァコフの一騎打ちになるかと思われたが、この上りに入ってすぐに追走グループからアンドレアス・クロン(ロット・スーダル、デンマーク)とカルロス・ベローナ(モビスター チーム、スペイン)が猛追。残り7kmでついに先頭2人に合流を果たす。
この頃にはメイン集団との差も十分にあり、4人の中からステージ優勝者が出るのは濃厚に。特にベローナが再三のアタックで3人を振り払おうと試みるが、ストーラーだけが労せず対応を続ける。逆に、残り3.2kmでベローナをかわして先頭に出ると、そのまま独走態勢に。急勾配でもその勢いは衰えることはなく、完全な単独走に持ち込んだ。
前半から逃げ続けて勝機をつかんだストーラー。最後は笑顔で頂上のフィニッシュラインに到達。今大会へは、7月末にフランスで開催されたツール・ド・ランで個人総合優勝を果たして、好調を維持してスペインに乗り込んでいた。来季のグルパマ・エフデジ移籍が決まっており、4年間所属した現チームへ置き土産となるグランツール初勝利となった。
かたやメイン集団は、急坂でアダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)のアタックをきっかけに個人総合上位陣が前線へ。イェーツの繰り返しの攻撃もあり、残ったのはマイヨロホのログリッチ、エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)、エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)、ロペス、ダビ・デラクルス(UAEチームエミレーツ、スペイン)、ルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、南アフリカ)の面々。7人がまとまってフィニッシュラインを通過。一方で、アレクサンドル・ウラソフ(アスタナ・プレミアテック、ロシア)が13秒、ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)が30秒の遅れを喫した。
これらの結果から、個人総合順位がシャッフル。ログリッチのトップは変わらないが、逃げでレースを展開してステージ7位で終えたフェリックス・グロスシャートナー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストリア)が8秒差の2位に浮上。マス、ロペスと続き、ステージ10位のヤン・ポランツ(UAEチームエミレーツ、スロベニア)が個人総合5位としている。また、総合から遅れていたジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス、オーストラリア)とセップ・クス(チーム ユンボ・ヴィスマ、アメリカ)も同7位と8位まで浮上し、上位争いに加わるチャンスを取り戻している。
なお、この日はバルベルデのほか、カーシーら5選手がリタイア。レイナルト・ヤンセファンレンズバーグ(チーム クベカ・ネクストハッシュ、南アフリカ)は制限時間内にフィニッシュできず、タイムオーバーとなっている。
新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)は128位でステージを完了。引き続きチームメートのサポートに徹しながらレースを進めていく。
21日に行われる第8ステージは、サンタ・ポーラからラ・マンガ・デル・マール・メノールまでの173.7km。第7ステージとは打って変わって、ほぼ全行程フラットの平坦ステージ。終始海岸線を走るだけに、海風には注意が必要だ。また、最後の10kmは砂州ラ・マンガを走行。幅が平均100mと細く、トラブルに見舞われると大きなロスとなることが想定される。最後まで気が抜けないコースが用意された。
ステージ優勝 マイケル・ストーラー コメント
「ステージ優勝ができるとは思っていなかった。体調がよく、何をすべきかは分かっていたが、本当に難しいステージを勝つことができて喜びと同時に驚いている。さすがに最後の1kmは楽しめなかったが、勝った今はその余韻に浸っている。
当初の予定は積極的にレースを展開することだった。結果的に、逃げに複数のメンバーを送り込むことができ、チームメートの働きにも満足できるものとなった。リスクだとは思わなかったし、勝つための最高の戦術だと感じていた。準備した通りのレースができ、モチベーションも高まった。チームとしては、今後もより多くのチャンスを探っていくことができると思う。この勝利にとどまらず、毎日トライを続けていくつもりだ」
マイヨロホ プリモシュ・ログリッチ コメント
「とても暑く、タフな1日だった。1つ目の上りから激しく、動きが活発だった。そんな中でもチームはそれぞれがよい働きができたし、継続して最善を尽くしていきたい」
ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 第7ステージ 結果
ステージ結果
1 マイケル・ストーラー(チームDSM、オーストラリア)4:10’13”
2 カルロス・ベローナ(モビスター チーム、スペイン)+0’21”
3 パヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ、ロシア)+0’59”
4 セップ・クス(チーム ユンボ・ヴィスマ、アメリカ)+1’16”
5 ジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス、オーストラリア)+1’24”
6 ロマン・バルデ(チームDSM、フランス)+1’32”
7 フェリックス・グロスシャートナー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストリア)ST
8 アンドレアス・クロン(ロット・スーダル、デンマーク)+1’37”
9 ステフ・クラス(ロット・スーダル、ベルギー)+2’17”
10 ヤン・ポランツ(UAEチームエミレーツ、スロベニア)+2’29”
128 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス、日本)+26’29”
個人総合(マイヨロホ)
1 プリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア) 25:18’35”
2 フェリックス・グロスシャートナー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストリア)+0’08”
3 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+0’25”
4 ミゲルアンヘル・ロペス(モビスター チーム、コロンビア)+0’36”
5 ヤン・ポランツ(UAEチームエミレーツ、スロベニア)+0’38”
6 エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)+0’41”
7 ジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス、オーストラリア)+0’57”
8 セップ・クス(チーム ユンボ・ヴィスマ、アメリカ)+0’59”
9 アレクサンドル・ウラソフ(アスタナ・プレミアテック、ロシア)+1’06”
10 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+1’22”
142 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス、日本)+51’52”
ポイント賞(プントス)
ヤスパー・フィリプセン(アルペシン・フェニックス、ベルギー)
山岳賞(モンターニャ)
パヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ、ロシア)
新人賞(マイヨブランコ)
エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)
チーム総合成績
モビスター チーム
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- Bicycle Club
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- TEXT:福光俊介 Photo:Luis Angel Gomez / Photogomezsport Cxcling
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。