山岳ステージでバルデが独走で山岳賞獲得、個人総合に変動なし|ブエルタ第14ステージ
福光俊介
- 2021年08月29日
ブエルタ・ア・エスパーニャは大会第2週後半の山岳区間へ。第14ステージは2つの1級山岳を含んだ165.7kmのコースが設定され、独走に持ち込んだロマン・バルデ(チームDSM、フランス)が逃げ切ってステージ優勝。ブエルタでは初勝利を挙げた。逃げを容認した個人総合上位陣は終盤に動きがあり、フィニッシュではタイム差が発生。それでも大きなものとはならず、順位に変動なし。オドクリスティアン・エイキング(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、ノルウェー)がマイヨロホを守り続けている。
グランツール4年ぶり勝利のバルデ、山岳賞でトップに浮上
大会第2週が始まってからは、丘陵と平坦それぞれのステージを進行してきたプロトンだが、この日から2日連続で山岳ステージをこなすことになる。ドン・ベニトからピコ・ピュエルカスまでの165.7kmは、レース中盤から上りが本格化。2つある1級山岳のうちの1カ所目となるアルト・コリャド・デ・バジェステロスは、登坂距離2.8kmで平均勾配14%。20%前後の勾配が複数あり、路面はコンクリート。これを越えてから針路を変えて、一度下った道を反対側から上る。さらに登坂を続けて、フィニッシュ地ピコ・ビリュエルカスを目指していく。これが2つ目の1級山岳となり、登坂距離14.5km、平均勾配が6.2%。フィニッシュ直前で最大勾配15%に達する。
迎えたレースは、逃げた選手たちによるステージ優勝争いが早々に濃厚となる。リアルスタート直後に9人が飛び出したのをきっかけに逃げ人数が膨らみ、先行したのは18人。メイン集団がすぐに容認したこともあり、タイム差はあっという間に広がっていく。この先頭グループがしばしスピードを緩めなかったこともあり、最初の1時間の平均時速は51.3kmを記録した。
レース中盤の登坂区間へと入り、3級山岳プエルト・ベルソカマはバルデが先頭通過。続いて上った1級山岳アルト・コリャド・デ・バジェステロスでは、タフな登坂ゆえに先頭グループの形勢が崩れながらも激坂を進み、再びバルデが一番に頂上へと到達。山岳ポイントを加算し、ステージ完走を条件に山岳賞で首位に立つ。
この後の下りで逃げていた選手はいったん1つになり、18人の先頭グループへと戻る。続いて山岳にカテゴライズされない無印の丘越えに入ってニコラ・プリュドム(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、フランス)、ダニエル・ナバロ(ブルゴスBH、スペイン)、マシュー・ホームズ(ロット・スーダル、イギリス)がアタック。直後にホームズがパンクしたため足止めとなるが、プリュドムとナバロはそのまま先頭で逃げの態勢に入った。
この形のまま前線を行く選手たちは残り距離を減らしていくが、追走していたうちのジャイ・ヴァイン(アルペシン・フェニックス、オーストラリア)がチームカーからボトルを受け取る際にバランスを崩し激しく地面に叩きつけられてしまう。下りでスピードが出ていた中での落車とあり、しばらくその場に座り込んでいたが、何とかレースに復帰し前を追いかける。
また、先頭にホームズが復帰し、セップ・ファンマルク(イスラエル・スタートアップネイション、ベルギー)も単独合流した直後の残り25km付近では、下りコーナーでオーバーランしたナバロが前を走っていたファンマルクに突っ込むようにして両者コースアウト。難を逃れたプリュドムが思いがけない形で独走状態になった。
そのまま後続に1分以上のリードを得たプリュドムは、いよいよ最後の上りである1級のピコ・ビリュエルカスへ。この段階でメイン集団とは13分以上の差となっており、逃げ切りは確定的。上りに入る前に追走メンバーからアンドレイ・ツェイツ(チーム バイクエクスチェンジ、カザフスタン)、ライアン・ギボンズ(UAEチームエミレーツ、南アフリカ)、さらには落車から復帰したナバロが抜け出し、単独先頭のプリュドムを目指す。
登坂に入ると、ツェイツがギボンズとナバロを振り切り、さらに後方ではバルデらがアタック。クラッシュ後驚異の追い上げを見せたヴァインも懸命にレースを動かす。やがて、先頭プリュドム、第1追走ツェイツ、第2追走がバルデやヴァインら7人の構図に。そして、このめまぐるしく変化する状況から決定打を放ったのはバルデだった。
第2追走から飛び出したバルデは、残り6kmでツェイツとプリュドムを一気にパス。そのまま単独トップに躍り出ると、後ろとの差を広げていく。2番手にはヴァインとエラダが上がってバルデを追うが、登坂力とこれまでの実績では他をしのぐバルデに一日の長があった。残り3kmでタイム差を40秒とすると、それを保って最終局面へ。最大勾配15%の急坂区間も難なくこなすと、1人でフィニッシュへ。ブエルタ初勝利の瞬間を迎えた。
グランツールでのステージ優勝はじつに4年ぶり。かつてはツール・ド・フランスで総合表彰台にも上がった30歳は、近年グランツールでの苦戦が続いていたが、この勝利で復調をアピール。今大会も総合では遅れをとっているが、代わりにこの日の快走で山岳賞争いで首位に浮上。今後はモンターニャを守りながら戦いを進めていく。
2位にはエラダ、3位にヴァインと続き、その後も逃げていた選手たちがステージ上位を占めた。完全に別のレースとなったメイン集団は、ピコ・ビリュエルカスに入って個人総合2位のギヨーム・マルタン(フランス)擁するコフィディスがペースアップ。一時はマルタンを引き連れて集団から数秒のリードを得る場面もあったが、後に引き戻される。チーム ユンボ・ヴィスマのペーシングが続く中から、残り3kmで個人総合5位のミゲルアンヘル・ロペス(モビスター チーム、コロンビア)がアタック。
独走になったロペスは、そのままフィニッシュへと到達。静観していたメイン集団も最終局面で個人総合3位プリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ)、同4位エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)、同6位ジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス、オーストラリア)、同7位エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)がパックを組んで頂上へ。ロペスから4秒差でステージを終えた。次々と選手たちが走り終える中、マイヨロホのエイキングも粘ってロペスから24秒差でフィニッシュラインを通過。これで、個人総合首位のキープが決まった。
選手間の総合タイム差に変動があったものの、順位はそのままで次のステージへと進む。なお、新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)は92位でステージを完了している。
29日に行われる第15ステージはナバルモラル・デ・ラ・マタからエル・バラコまでの197.5km。スタートから約50km走って山岳区間へと入り、1級、2級、1級、3級とカテゴリー山岳を越えていく。最後は登坂距離8.6kmの3級山岳プエルト・サン・フアン・デ・ナバを上り、その後5.4km下ってフィニッシュへ。このステージを終えると2回目の休息日がやってくる。
ステージ優勝 ロマン・バルデ コメント
「一歩一歩進んだ結果だ。追走グループでの協調が上手くいかなかったので、プリュドムを追うのに苦労した。それでも、私たちはスポーツディレクターのマット(ウィンストン)とスマートに戦うことができたと思う。彼は急坂区間でどう攻撃すべきかを正確に教えてくれた。チームはみんな疲れを感じつつも精神面ではよい状態を保っている。チームとして3勝目を挙げられ、複数の上位フィニッシュもできている。そのようなグループの一員であることが誇らしい。毎日できる限りのことをしているが、このステージで勝てたことは最高の気分。グランツールで勝つことを長いこと望んでいたが、それが今日だとは思わなかった。全力を尽くすことに集中していたが、勝てなくても山岳賞ジャージを得られることは理解しながら走っていた」
マイヨロホ オドクリスティアン・エイキング コメント
「終始コントロールされていたレースだったので、最後の上りでもその状況が続くことを期待していた。ただ、そのとおりにはならず多くの苦しみを味わうことになった。勾配はさほど急ではなかったが、逆風が強かったのでできるだけスリップストリームを利用する判断をした。ギヨーム・マルタンが攻撃したが、それは風との戦いになるであろうことはわかっていた。フィニッシュまで残り3kmでもう1日リーダージャージを着られると確信した。明日もジャージを守ることができると思うが、他チームの動き次第でいくらでも状況は変化すると思う」
ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 第14ステージ 結果
ステージ結果
1 ロマン・バルデ(チームDSM、フランス)4:20’36”
2 ヘスス・エラダ(コフィディス、スペイン)+0’44”
3 ジャイ・ヴァイン(アルペシン・フェニックス、オーストラリア)ST
4 トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+1’12”
5 クレモン・シャンプッサン(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、フランス)+1’14”
6 マシュー・ホームズ(ロット・スーダル、イギリス)+1’16”
7 アンドレイ・ツェイツ(チーム バイクエクスチェンジ、カザフスタン)+1’19”
8 ケヴィン・ゲニエッツ(グルパマ・エフデジ、ルクセンブルク)+1’46”
9 ニコラ・プリュドム(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、フランス)+2’04”
10 ヤン・トラトニク(バーレーン・ヴィクトリアス、スロベニア)+2’15”
92 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス、日本)+24’07”
個人総合(マイヨロホ)
1 オドクリスティアン・エイキング(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、ノルウェー) 55:03’17”
2 ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)+0’54”
3 プリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)+1’36”
4 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+2’11”
5 ミゲルアンヘル・ロペス(モビスター チーム、コロンビア)+3’04”
6 ジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス、オーストラリア)+3’35”
7 エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)+4’21”
8 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+4’49”
9 セップ・クス(チーム ユンボ・ヴィスマ、アメリカ)+4’59”
10 フェリックス・グロスシャートナー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストリア)+5’31”
126 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス、日本)+2:10’41”
ポイント賞(プントス)
ファビオ・ヤコブセン(ドゥクーニンク・クイックステップ、オランダ)
山岳賞(モンターニャ)
ロマン・バルデ(チームDSM、フランス)
新人賞(マイヨブランコ)
エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)
チーム総合成績
イネオス・グレナディアーズ
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。