ログリッチが本格山岳で貫録勝ち、マイヨジョーヌへ王手|パリ~ニース第7ステージ
福光俊介
- 2022年03月13日
UCIワールドツアーのステージレース、パリ~ニースは現地3月12日に第7ステージが行われた。1級山岳コル・ド・チュリーニの頂上を目指した戦いは、個人総合の上位選手たちによるステージ優勝争いに。最後は地力の違いを見せたプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)がライバルを振り切ってステージ優勝。マイヨジョーヌを着用しての勝利で、総合タイム差を広げることに成功。残り1ステージで初の大会制覇を目指す。
最後の200mで“本気”を出したログリッチ
パリ郊外を出発し日々南下してきたプロトンは、ついに最終目的地のニースへ。とはいっても、まだ2ステージを残している。第7ステージは、ニースを出発してコル・ド・チュリーニの頂上にフィニッシュする155.5kmに設定された。コースレイアウト的に、この1級山岳にすべてが集約される。登坂距離14.9km・平均勾配7.3%の上りは、1km単位で緩急が変化するのが特徴。今大会のクイーンステージとの見方も高く、マイヨジョーヌ争いの形成も大筋見えてくるはずだ。
迎えたレースは、ファーストアタックをきっかけに18人が先行する。メイン集団は大人数の逃げを容認。しばらくは先頭グループとメイン集団とに大きな変化がないまま残り距離を減らしていった。
残り50kmを切ったところで、先頭とメイン集団とのタイム差は1分20秒。集団はイネオス・グレナディアーズがペースメイクし、前線の選手たちを射程圏内にとらえる。10km進むごとに10秒程度タイム差を縮める絶妙なペーシングで、重要な局面を目指していく。
コースが上り基調になって1人、また1人とメンバーを切り離しながら先を急ぐ先頭グループ。メイン集団とは1分ほどの差でコル・ド・チュリーニへ。この上りを迎えて、メイン集団ではリーダーチームのユンボ・ヴィスマがコントロール役を担い、エースのログリッチのために状況整備を始めた。
フィニッシュまで10kmとなったところで、3人に絞られた先頭グループではグレゴール・ミュールベルガー(モビスター チーム、オーストリア)がアタック。そのまま独走を図る。一方、メイン集団ではアダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)が先陣を切って飛び出し。これをマイヨジョーヌのログリッチ自ら追い始めると、個人総合9位につけるナイロ・キンタナ(チーム アルケア・サムシック、コロンビア)と同4位のダニエル・マルティネス(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)が追随。3人はアダム・イェーツに追いつくと、すぐさまマルティネスがアタック。キンタナもカウンターアタックを繰り出すが、どれもログリッチが読み切ってきっちり抑える。この間に、同3位のピエール・ラトゥール(トタルエナジーズ、フランス)が完全に脱落している。
残り6kmではログリッチがアタック。逃げ残りのミュールベルガーをパスしてトップに立つと、マルティネスも追いついて先頭パックを形成。これをキンタナと個人総合2位のサイモン・イェーツ(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ、イギリス)とで追走。やがて先頭2人に追いついて、ステージ優勝と個人総合ともに意識しながら終盤の駆け引きへと移っていった。
それからは4人がそれぞれにアタックを試みて、ライバルの様子をうかがう。たびたびキンタナの反応が遅れるが、牽制状態になったところで合流を繰り返す。決定打が生まれないまま、最後の1kmへ。後方から猛追したジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)が追いつき、5人が先頭で最終局面を迎えることとなった。
個人総合上位陣によるステージ優勝争いが決したのは、残り200m。図ったようにログリッチがアタックすると勝負あり。ここまで一緒に走ってきた選手たちを振り切って、一番にコル・ド・チュリーニ頂上に敷かれたフィニッシュラインへ。マイヨジョーヌを着ながらの勝利は、貫録漂うものとなった。
ログリッチといえば、昨年のこの大会でもマイヨジョーヌを着用しながら、大会最終日のクラッシュでタイトルを逃す悔しさを経験。これまでいくつものビッグタイトルを獲得しているが、不思議とフランス開催の主要レースでは栄冠と縁がない。そのジンクスを今回で払拭できるか。残り1日に、パリ~ニース初戴冠をかける。個人総合2位のサイモン・イェーツとの総合タイム差は47秒。3位以下とは1分以上の差があり、順当に走ればタイトルをつかめるはずだ。
春を告げる伝統のステージレースは、13日が大会最終日。全8ステージの最後を飾るのは、恒例のニースステージ。同地を発着とする116kmのコースは、2級3カ所・1級2カ所のカテゴリー山岳が立て続けにそびえる。この大会ではおなじみの1級山岳エズ峠(登坂距離6km、平均勾配7.6%、最大勾配13.5%)を最後に上ると、あとはニース市街地へ向けてのダウンヒル。レース距離こそ短いが、タフな登坂が待ち受けていることから個人総合争いに変動が起きる可能性はまだ残されている。マイヨジョーヌをキープしたいログリッチ、最後のチャンスにかける他の選手たちとの駆け引きをしっかりと見届けよう。
ステージ優勝、個人総合時間賞 プリモシュ・ログリッチ コメント
「最大のサポーターである息子の前で勝つことができて最高の気分。(ポディウムでの)テレマークポーズを一緒に決められて本当に幸せだ。もっときれいなポーズになるよう、彼と練習しないとね!
今日はスタート直後からハイペースでハードだった。ただ、速いペースが自分に合っていたし、終盤に勝負できるだけの脚が残っていたので良いレースができた。上り途中での攻撃は決まらなかったが、最後はスプリントに集中して勝利に結びつけられた。
ここまで多くの犠牲を払い、トレーニングを積んできた。個人総合優勝の可能性が高まっている今、特別な感情を抱いている。(最終日に落車し脱落した)昨年の経験は忘れていない。だから、最後の最後まで集中しなければならない。明日については、特別な戦術があるわけではないけれど、スタートから全力で走らないといけないと思う。終盤で走るエズ峠に向けても気を抜けない。とにかく、うまく走れるよう祈っている」
パリ~ニース2022 第7ステージ結果
ステージ結果
1 プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ、スロベニア) 4:02’47”
2 ダニエル・マルティネス(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)ST
3 サイモン・イェーツ(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ、イギリス)+0’02”
4 ナイロ・キンタナ(チーム アルケア・サムシック、コロンビア)+0’09”
5 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)+0’11”
6 ブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツ、アメリカ)+0’25”
7 ジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス、オーストラリア)+0’27”
8 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+0’29”
9 ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)+0’44”
10 ワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス、オランダ)+0’56”
個人総合時間賞
1 プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ、スロベニア) 26:26’11”
2 サイモン・イェーツ(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ、イギリス)+0’47”
3 ダニエル・マルティネス(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)+1’00”
4 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+1’50”
5 ナイロ・キンタナ(チーム アルケア・サムシック、コロンビア)+2’04”
6 ジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス、オーストラリア)+2’12”
7 アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ、ロシア)+2’22”
8 ピエール・ラトゥール(トタルエナジーズ、フランス)+2’56”
9 ヨン・イサギレ(コフィディス、スペイン)+3’13”
10 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)+3’29”
ポイント賞
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)
山岳賞
ヴァランタン・マデュアス(グルパマ・エフデジ、フランス)
ヤングライダー賞
ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。