22歳エヴェネプールが初制覇、残り30kmのアタック一発でレース決める|リエージュ~バストーニュ~リエージュ
福光俊介
- 2022年04月25日
春のクラシックシーズンを締めくくる伝統レース、リエージュ~バストーニュ~リエージュがベルギー現地時間4月24日に行われた。途中で大きなクラッシュが発生するなど波乱のレースは、残り30kmでメイン集団から飛び出したレムコ・エヴェネプール(クイックステップ・アルファヴィニル、ベルギー)がそのまま独走に持ち込んで、一番にリエージュのフィニッシュラインへ。初優勝と同時にモニュメントは初制覇。22歳と89日でのリエージュ優勝は史上2番目の若さとなった。
クラシック不振のクイックステップ、エヴェネプールの快走で覇権奪回
1892年に初開催され、その歴史はツール・ド・フランス(1903年初開催)をもしのぐことから、別名「ラ・ドワイエンヌ(最古参)」と言われるこのレース。今回で108回目を迎えた。
ベルギー南部・ワロン地帯がレースの舞台となり、その名のとおりリエージュを出発し、南下してバストーニュで折り返し。再びリエージュに戻ってくるコース設定。両都市を基点として8の字を描くようなルーティングが特徴で、今回はレース距離257.1km、重要な登坂区間は10カ所。
レースのプライオリティと登坂セクションの難易度から、例年グランツールレーサーやクライマーも集うのが、このレースの注目ポイントでもある。ともに今回は欠場になったが、昨年のタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)や一昨年のプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)といった、現役のグランツールスターもリエージュの表彰台で頂点に立っている。
レースはまず、バストーニュまで向かう前半戦で最大11人の先頭グループが形成される。逃げ狙いのアタックから小さなパックが複数形成され、やがて1つにまとまるとメイン集団に対して最大6分以上のタイム差とする。スタートから約100km走ったところで折り返すと、これをきっかけに先頭と集団とのタイムギャップは少しずつ縮小していく傾向に。登坂セクションを迎えるごとに先頭グループのメンバーが絞られていき、残り70kmに達しようかというところで、人数は6人となった。
タイミングを同じくして、メイン集団は慌ただしさを増していった。フィニッシュまで65kmを切ろうかというところで、数人が落車。下り基調でスピードが乗るところで地面に叩きつけられたとあり、ダメージが大きい様子。さらに、残り62kmで大規模なクラッシュが発生。前から40番手ほどに位置した選手がコースから脱輪したのをきっかけに、周囲の選手たちを巻き込むようにして次々と落車。コース端にいた選手たちは脇の草むらに飛ばされてしまうほどで、これによって大多数の選手が足止めを食うことに。落車した選手の中で特に被害が大きかったのが、優勝候補にも挙げられていたジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファヴィニル、フランス)で、そのままリタイア。のちにチームから、肋骨2カ所と肩甲骨の骨折、肺気胸との診断結果が発表されている。
落ち着かない集団だが、この間は主にバーレーン・ヴィクトリアスがコントロール。クラッシュに巻き込まれた選手たちも徐々に復帰して、重要な登坂セクションへと迫っていく。
そんな流れのままやってきた残り43kmのコート・ド・デニエ(1.6km、8.1%)で、ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)がアタック。集団を崩すほどではないものの、活性化するには十分なアクション。続いてチームメートのワウト・プールス(オランダ)も仕掛けて、バーレーン・ヴィクトリアスがレースを動かしにかかる。
残りは約30km。やってきたのはコート・ド・ラ・ルドゥット(2.1km、8.9%)。例年プロトンに変化が生まれるこの上りだが、先に到達した先頭グループはブルーノ・アルミライル(グルパマ・エフデジ、フランス)だけが残る形に。他の逃げメンバーはすべて置き去りにして単独先頭となる。その1分後にやってきたメイン集団では、大きな局面が訪れていた。
コントロールを引き継いだクイックステップ・アルファヴィニルが、マウリ・ファンセヴェナント(ベルギー)を前へ出して上りでのペーシング。集団を縦長にすると、頂上手前でエヴェネプールが猛然とアタック。一瞬ニールソン・ポーレス(EFエデュケーション・イージーポスト、アメリカ)が反応したが、その勢いについていくことができず。あまりに早い動きに誰も続けず、エヴェネプールはそのまま独走状態に持ち込んだ。
早い段階から逃げていた選手たちを拾って、残り22kmではついに先頭のアルミライルにも追いつく。しばらくはアルミライルも粘ったが、それすらも構わずにエヴェネプールは突き進む。メイン集団は30秒ほどの差で追っていたが、最後の難所でもあるラ・ロシュ・オ・フォーコン(1.3km、11%、最大勾配13.2%)に入っても追撃ムードがいまひとつ広がらない。
俄然優勢になったエヴェネプールは、この上りでアルミライルを引き離して完全にひとり旅。頂上からリエージュのフィニッシュラインまでは約13km。小さな上りこそあるが、おおむね下りと平坦の最終盤は、タイムトライアルを得意とする彼らしく、独走力を生かして逃げ切りを目指した。
優勝候補がひしめいたメイン集団は、アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ、ロシア)が単独で追うシーンもあったが、流れを引き寄せることはできず。たびたび牽制気味になり、ラ・ロシュ・オ・フォーコンで遅れていたワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)ら後続メンバーも数人復帰。そのまま2位狙いにシフトしていく形になった。
残り2kmでは優勝を確信したエヴェネプール。横につけたテレビカメラにもガッツポーズする余裕を見せて、いよいよリエージュの街へ。最後の直線に入ると涙を浮かべながらのウイニングライド。一発のアタックで勝負を決めた22歳が、初のリエージュ~バストーニュ~リエージュ制覇を成し遂げた。ベルギー勢のリエージュ優勝は、2011年のフィリップ・ジルベール(現ロット・スーダル)以来11年ぶり。
勝ったエヴェネプールはジュニア時代から頭角を現し、アンダー23カテゴリーを飛ばしてプロ入りした逸材。プロ1年目の2019年にはクラシカ・サン・セバスティアンを制するなど、その能力は誰もが認めるところ。個人タイムトライアルでもトップレベルで、今回見せた登坂力や一発で勝負を決めるアタックも含めて、将来的にはグランツールレーサーとしての活躍も見込まれている。今回はアラフィリップとの共闘に注目が集まっていたが、そのアラフィリップが落車負傷でレースを去ったこともあり、チームとして勝負するのはエヴェネプール一択の趣きがあった。また、お家芸である春のクラシックで今季1つも勝てていなかったクイックステップ・アルファヴィニルとしても、起死回生のビッグタイトルになった。
エヴェネプールの勢いに屈したメイン集団は結局48秒差でのフィニッシュ。最後は13選手によるスプリントになり、ラ・ロシュ・オ・フォーコンからの下りで前線復帰していたクイントン・ヘルマンス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、ベルギー)が殊勲の2位。優勝候補にも挙がっていたファンアールトは3位。結果的に、地元ベルギー勢が表彰台を独占した。
これで今年の春のクラシックシーズンは閉幕。戦いの場は主にステージレースへと移っていく。
リエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝 レムコ・エヴェネプール コメント
「自転車に乗るようになって最高の日になった。今朝目覚めたときに、今日は良い日かもしれないと感じていた。レースはハードだったが、チームメートが素晴らしく、常にストレスを感じずに走ることができた。これらのおかげで、最後の1時間で思い切って勝負できた。何年も前からこのコースは把握できていて、上りの重要なポイントも理解していた。ラ・ロシュ・オ・フォーコンからのダウンヒルでは全力を出した。頂上からの向かい風は苦しかったが、とにかくプッシュし続けた。
私たちはウルフパックの精神を示すことができた。信じられないほどの強さとともに、自分自身を信じ続けた。ここまで苦しいレースが続いていたが、いつだってベストを尽くしてきた。家族がフィニッシュラインに来ていて、みんなで喜び合えたことが本当にうれしい。一生忘れられない一日になりそうだ」
リエージュ~バストーニュ~リエージュ2022 結果
1 レムコ・エヴェネプール(クイックステップ・アルファヴィニル、ベルギー) 6:12’38”
2 クイントン・ヘルマンス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、ベルギー)+0’48”
3 ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)ST
4 ダニエル・マルティネス(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)
5 セルヒオ・イギータ(ボーラ・ハンスグローエ、コロンビア)
6 ディラン・トゥーンス(バーレーン・ヴィクトリアス、ベルギー)
7 アレハンドロ・バルベルデ(モビスター チーム、スペイン)
8 ニールソン・ポーレス(EFエデュケーション・イージーポスト、アメリカ)
9 マルク・ヒルシ(UAEチームエミレーツ、スイス)
10 マイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック、カナダ)
- CATEGORY :
- BRAND :
- Bicycle Club
- CREDIT :
- TEXT:福光俊介 Photo:A.S.O./Gautier Demouveaux Luc Claessen / Getty Images A.S.O./Maxime Delobel
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。