門田祐輔が僅差の争いを制して個人総合初優勝。今村駿介はステージ2勝|ツール・ド・北海道
福光俊介
- 2022年09月14日
INDEX
今回で36回目の開催となったUCI公認の国際ステージレース「ツール・ド・北海道」。新型コロナウイルス感染拡大にともない、昨年・一昨年と中止だった大会は、じつに3年ぶりに“復活”。3ステージ・総距離530kmで争われた戦いは、門田祐輔(EFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチーム)がトマ・ルバ(キナンレーシングチーム)らとの僅差の勝負を制して初の個人総合優勝に輝いた。3ステージすべてで日本人選手が勝利するなど、明るい話題の多い大会をダイジェスト形式でレポートする。
第1ステージは3人が逃げ切り 今村駿介が1勝目
毎年、北海道各地を持ちまわる形でコース設定する大会は今回、2020年に予定されていたルートをおおむねスライド。札幌市を出発し、最終目的地を苫小牧市とする総距離530kmのコースが設けられた。
ツール・ド・北海道の特徴は何といっても、全行程で公道を使用するワンウェイルートが設定されること。国道をプロトンが通過することも多く、主催のツール・ド・北海道協会や開催地・通過地となる自治体、各所からのボランティア、警備会社、そして北海道警察の尽力なくては実現しないレースでもある。広大な大地を行くプロトンの美しさを保ち続ける最大の要因は、そこにあると言えるだろう。
3年ぶりにレースシーンに戻ってきた今大会。第1ステージは札幌市南区を出発し、小樽市、赤井川村、仁木町、余市町、古平町、神恵内村、泊村と通過し、最後は共和町にフィニッシュする171km。レース前半から標高700m級の山岳区間を2つ立て続けに通過。途中2カ所にホットスポット(中間スプリントポイント)が置かれ、レース後半に勝負どころとなりうる当丸峠の登坂が待ち受ける。
スタート直後から出入りが繰り返された中、2つ目の2級山岳・毛無峠に向かう段階でプロトンが割れ、18人の先頭グループが形成される。ここに有力な国内UCIコンチネンタルチームが選手をしっかりと送り込んだこともあり、やがて後続との差は拡大。一時は後ろの選手たちの追撃ムードが高まった時間帯もあったが、結果的に前線の選手たちの逃げ切りが濃厚になる。
当丸峠の上りでは増田成幸(宇都宮ブリッツェン)のアタックにキナンレーシングチームのルバ、山本大喜、マルコス・ガルシアがそろって追随し逃げ切りを図る場面が見られたものの、ダウンヒル区間で他メンバーが合流。そして残り10kmを切って山本のアタックに今村と増田が反応すると、そのまま3人によるステージ優勝争いへ移った。
3選手の形成は変わらず、最後はスプリント勝負へ。ここはやはりスプリント力に勝る今村が2人を振り切って一番にフィニッシュラインを通過。ステージ優勝を挙げるとともに、今大会最初のリーダージャージ着用者となった。
ツール・ド・北海道 第1ステージ(171km)結果
1 今村駿介(チームブリヂストンサイクリング) 4時間1分8秒
2 増田成幸(宇都宮ブリッツェン)+0秒
3 山本大喜(キナンレーシングチーム)
ニセコ名物・ひらふ坂で個人総合がシャッフル
第2ステージは倶知安町を発着とする186km。ニセコ連峰を縫うようにして走るコースセットで、共和町、蘭越町、豊浦町、洞爺湖町、真狩村、ニセコ町を通過。“蝦夷富士”こと羊蹄山がどこからでも一望できる雄大なスケールの中を、プロトンは走行した。
このステージの目玉は、フィニッシュ前600mから続くニセコ名物の激坂「ひらふ坂」。過去にこの大会で採用された際には、個人総合上位陣にタイム差がつくほどで、今大会も上位戦線を決定づけるクイーンステージと目された。
序盤で7人の逃げが決まると、山岳区間でタイム差が広がり、最大で4分ほどのタイムギャップに。それからは、リーダーチームのチーム ブリヂストンサイクリングのコントロールのもと、少しずつその差を調整していく。
流れが変わったのは残り70km。メイン集団のペースが上がって追撃ムードが高まると、EFエデュケーション・NIPPOディベロップメントチームが主導権を奪取。これで集団が崩れると、EF勢5人全員が追走グループに入り数的優位を作り出す。一方、前日に逃げ切った今村、増田、山本はそろって後方に取り残されてしまう。
勢いのまま進んだ精鋭メンバーは、それまで逃げていた選手たちを飲み込むと、15人の先頭グループとなって最終盤へ。細かなアップダウンを使ってアタックする選手も見られるが、どれも決定打とはならず、勝負はやはりひらふ坂にゆだねられることになる。
そして迎えた最後の600m。最初に仕掛けたのはレオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ)だったが中腹で失速。代わって先頭に出たのは門田。しかし、冷静にタイミングを計って加速した谷 順成(那須ブラーゼン)が残り300mからのアタックで門田をかわすと、そのまま一番にフィニッシュラインを通過。キャリアで初めてとなるUCIレースでの勝利を挙げた。
谷と同タイムで門田が続き、ルバが3位。スタート時の個人総合トップ3がこぞって遅れたことにより、前日も上位に入っていた門田が首位に浮上。このステージ途中のホットスポットでボーナスタイムを得ていたルバが2位となり、両者の総合タイム差5秒で最終日へと向かった。
ツール・ド・北海道 第2ステージ(186km)結果
1 谷 順成(那須ブラーゼン) 4時間35分29秒
2 門田祐輔(EFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチーム)+0秒
3 トマ・ルバ(キナンレーシングチーム)+5秒
EF勢のコントロールが冴えた最終日、門田が首位を守って個人総合優勝
大会の最後を飾るのは、倶知安町から苫小牧市までの173km。共和町、蘭越町、ニセコ町、真狩村、喜茂別町、伊達市、千歳市と抜けていくルートは、前半は羊蹄山、後半は支笏湖を眺めながら選手たちが走っていく。
この日もスタート直後から活性化。個人総合での逆転を狙う今村とガルシアがアタックすると、序盤の山岳区間までに8人が追随。10選手による先頭グループが形成される。
一時はこれを容認していたメイン集団だったが、山岳の入口から増田と山本が先頭グループめがけてアタック。増田は集団へと戻ったが、山本は頂上通過後の下りでさらに加速して前線合流。個人総合上位メンバーがさらに前に位置することとなる。山本はその後、2回のホットスポットをともに1位通過。合計で6秒のボーナスタイムを獲得した。
中盤以降は先頭グループとメイン集団とのタイム差は3分前後で推移。リーダーチームのEFエデュケーション・NIPPOディベロップメントチームが徹底したコントロールでレースを統率する。
そんな中動きがあったのは、残り60km。山本が金子宗平(東京大学)を引き連れて先頭グループからアタック。完全に抜け出すまでは行かずも、アクティブになったことでメイン集団に対して4分近いリードに。状況次第では総合ジャンプアップも可能な流れを作り出す。
それでも、レースが終盤に差し掛かるにつれて、それまでのタイム差は徐々に縮小傾向に。メイン集団でのEF勢のコントロールが着々と整い、門田のリーダージャージは再び安全圏に。残り30kmで一発逆転を狙ったルバがアタックしたが、門田がきっちりと対応。トラブルさえなければ大会制覇が濃厚な情勢となった。
最終盤はメイン集団が無理に追い込まなかったこともあり、序盤から逃げていた選手たちがステージ優勝争いへ。上り基調の最終300mで抜群のスピードを見せたのは今村。今大会2勝目となるステージ優勝を決めた。2位には中井唯晶(シマノレーシングチーム)、3位にはガルシアと続いた。
今村のフィニッシュから1分4秒後、メイン集団もレースを完了。しっかりと走り抜いた門田が初の個人総合優勝を確定させた。
門田とルバの総合タイム差は5秒で変わらず。次世代を担う若手と百戦錬磨のベテランによる僅差の勝負は、ヤングパワーに軍配が上がった。
終わってみれば、3ステージともに勝者は日本人選手。出場チームの大多数が日本籍のチームだったとはいえ、経験・実績とも豊富な外国人選手も走る中で、日本人ライダーの勢いを感じさせる3日間だった。
なお、その他の賞はポイント賞が今村、山岳賞が留目夕陽(EFエデュケーション・NIPPOディベロップメントチーム)、チーム総合がキナンレーシングチーム、U26チーム総合はEFエデュケーション・NIPPOディベロップメントチームがそれぞれ受賞した。
ツール・ド・北海道 第3ステージ(173km)結果
1 今村駿介(チームブリヂストンサイクリング) 4時間14分35秒
2 中井唯晶(シマノレーシングチーム)+0秒
3 マルコス・ガルシア(キナンレーシングチーム)
個人総合時間賞(最終)
1 門田祐輔(EFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチーム) 12時間52分41秒
2 トマ・ルバ(キナンレーシングチーム)+5秒
3 松田祥位(チームブリヂストンサイクリング)+29秒
4 谷 順成(那須ブラーゼン)+1分15秒
5 今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)+3分2秒
6 山本大喜(キナンレーシングチーム)+3分12秒
7 マルコス・ガルシア(キナンレーシングチーム)+3分47秒
8 増田成幸(宇都宮ブリッツェン)+4分25秒
9 ホセ・ヴィセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)+4分32秒
10 フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)+4分57秒
ポイント賞
今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)
山岳賞
留目夕陽(EFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチーム)
チーム総合
キナンレーシングチーム 38時間41分34秒
U26チーム総合
EFエデュケーション・NIPPOディベロップメントチーム 38時間50分26秒
SHARE
PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。