ピドコックが独走逃げ切りで初優勝! 残り51kmで集団飛び出し、最後の20kmを単独走|ストラーデ・ビアンケ
福光俊介
- 2023年03月05日
イタリア・トスカーナ州の丘陵地帯を走るレース、ストラーデ・ビアンケ(UCIワールドツアー)が現地3月4日に開催され、トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)が初優勝を飾った。コースの3分の1を未舗装の「白い道」が占めるレースにあって、残り51kmでアタックし逃げを試みると、最後の約20kmを独走。ライバルの追撃を許すことはなかった。
大会前の雨で締まった“白い道”を選手たちが走る
ストラーデ・ビアンケは2007年に初開催と、ビッグレースにしては新興の部類に入るが、トスカーナ州の各地にある未舗装で白砂の道を舞台にこれまでも数々の名勝負が生まれている。
昨年はタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)がフィニッシュまでの50kmを独走する驚愕の走りを見せた。今回はそのポガチャルや、2020年に勝っているワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)は欠場。それでも、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク、オランダ)ら優勝経験者5人がエントリー。豪華な顔ぶれがスタートラインにそろった。
シエナのメディチ要塞前をスタートしたプロトンは、全行程184kmを走って再びシエナへと戻ってくる。この間、丘陵地帯を行き、その途中では“白い道”と言われる未舗装区間を駆け抜ける。“白い道”は全11セクション・総距離63km。コースの3分の1がグラベル区間になる。また急坂も多く、獲得標高は3200mにのぼる。
レースはまず、3人の逃げで始まる。30km地点を前にスヴェンエリック・ビーストルム(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、ノルウェー)、アレッサンドロ・デマルキ(チーム ジェイコ・アルウラー、イタリア)、イバン・ロメオ(スペイン、モビスター チーム)が先行。それからしばらくはメイン集団と4分ほどの差で進んだ。
中盤に入り、距離の長い未舗装区間が次々出てくると、集団内の慌ただしさも増していく。残り70kmでは3人が絡むクラッシュが発生しカルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ、スペイン)が巻き込まれ、いたるところでバイクトラブルに見舞われる選手の姿も。ペースアップを図るチームも現れ、先頭3人との差が縮まるとともに、集団の人数も絞られていった。
こうした流れから、フィニッシュまで51kmを残したタイミングで新たな局面がやってきた。アルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・イージーポスト、イタリア)が集団から抜け出すと、すかさずアンドレア・バジオーリ(スーダル・クイックステップ、イタリア)がチェック。さらにピドコックが追いかけて合流すると、そのまま追走パックに。さらに、8番目の未舗装セクター、上り勾配10.3%のモンテ・サンテ・マリエでピドコックがスピードを上げると、ベッティオルとバジオーリはついていけず。ピドコックは単独での追走に移る。
ときを同じくして、メイン集団では急坂区間でジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ、フランス)が脱落。直後にはベッティオルらが引き戻され、ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)らがスピードアップ。集団メンバーがシャッフルしながら、精鋭メンバーだけが残っていった。
こうしている間にも、ピドコックは先頭とのタイム差を縮めていく。長く逃げていた選手たちでは、ロメオが遅れ、ビーストロムとデマルキの2人に減っていたが、残り42kmでピドコックが合流すると、再び逃げの機運が上昇。ここはやはりピドコックが牽く時間が長く、攻めの姿勢を貫く。
後続の猛追をかわしたピドコックが初優勝
ピドコックに追いつきたいメイン集団。未舗装の急坂区間でマチューが満を持してアタックしたかに思われたが、厳しいチェックにあい、さらには他選手のアタックに反応できない。アンドレアス・クロン(ロット・デスティニー、ベルギー)の動きをきっかけに数人がアクションを起こすと、残り30kmを前に追走グループは10人となる。
先頭では、ピドコックのペースに合わせられなくなったビーストロムが脱落。しばしピドコックとデマルキがローテーションをしながらペースを維持するが、セクター9の急坂ポイント・モンテアペルティでピドコックがデマルキを突き放す。この時点でフィニッシュまでは23km。逃げ切りをかけて独走が始まった。
後続も追走を急ぐ。モンテアペルティでティシュ・ベノート(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)がアタックすると、ヴァランタン・マデュアス(グルパマ・エフデジ、フランス)とルイ・コスタ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、ポルトガル)が続く。さらにクイン・シモンズ(トレック・セガフレード、アメリカ)の動きに反応したアッティラ・ヴァルテル(ユンボ・ヴィスマ、ハンガリー)もスピードを上げ、ベノートらに合流。6人がピドコックを追った。
ひとり逃げ続けるピドコックに、この追走メンバーが急激に迫ったのは最終のセクター11。最大勾配18%の上りをダンシングでクリアしたピドコックだが、そのすぐ後ろには追走メンバーの姿が。マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス、スロベニア)が仕掛けると、これをヴァルテルがカウンターでかわし、ピドコックとの差が9秒まで縮まる。ただ、ここで追いつくことはできず、それから追走グループはアタックとキャッチの繰り返しに。それを尻目に、ピドコックは得意の下りを攻めて、後続との差を徐々に再拡大していく。
一時は追いつかれるのは時間の問題かと思われたピドコックだったが、力走の甲斐あって最終盤に入ってタイム差を広げることに成功。残り3kmで25秒差。残り1kmでは29秒差に。そして最後の難所、シエナのカンポ広場へ向かう最大勾配16%の上りでもペダリングは衰えず。大歓声が響き渡るカンポ広場に一番に到達。最後はその声に応えながら、両手を掲げてのウイニングセレブレーションを決めた。
ロードレースにとどまらず、バックボーンであるマウンテンバイクやシクロクロスでもいまなお活躍するピドコック。この冬はシクロクロスシーズンを早めに切り上げて、2月半ばからロードシーズンをスタート。序盤の目標レースの1つにこの大会を挙げており、有言実行の快勝になった。
追走グループは最終的に表彰台争いへとシフトすることになり、マデュアスがわずかに抜け出して2位を確保。2018年に勝っているベノートが今回は3位に入った。
女子はフォレリングが初優勝
男子に先立ってスタートした女子レース「ストラーデ・ビアンケ ドンネ」も、最後の最後まで白熱したレースになった。
フィニッシュまで32kmを残し、クリステン・フォークナー(チーム ジェイコ・アルウラー、アメリカ)が独走を開始。メイン集団に対し、最大で1分40秒ほどのリードを得る。
この状況を静観していたメイン集団だが、残り17kmでのデミ・フォレリング(チーム SDワークス、オランダ)のアタックで均衡が破られると、最終セクターに入った残り12kmで前回覇者のロッタ・コペッキー(チーム SDワークス、ベルギー)も仕掛けて、チーム SDワークス勢2人による追走へ。
何とか逃げ切りたいフォークナーだったが、徐々に貯金は減っていき、残り1kmで5秒差まで迫られる。そして、カンポ広場への上りで追走2人がフォークナーに追いつき、そのままパス。
最後は、チームメート2人による優勝争い。残り300mで前に出たコペッキーに対し、フィニッシュ前の直線で並んだフォレリング。チーム SDワークス勢によるマッチスプリントは、写真判定の結果フォレリングの優勝と決まった。
優勝 トーマス・ピドコック コメント
ストラーデ・ビアンケは、景色・路面・ファンがすべてそろった大好きなレース。勝つことができて本当にうれしい。コースは私に合っていたと思う。最後の20kmは痛みとの戦いでもあったけど、それ以外はすべて楽しめた。終盤の痛みはシクロクロスとはまったく異なるもの。すべてを出し切っての勝利にこそ価値がある。
自分から仕掛けることはせず、前に出た選手の存在を確認してから追うことにした。フィニッシュを目前に、後ろが迫っていることを知ったときは大きなミスを犯したと思った。仕掛けが早すぎたと感じたけど、結果的にはそれがうまくいった。これで春のクラシックシーズンは十分成功だけど、もっと勝てるように努力してみようと思う。
ストラーデ・ビアンケ 結果
男子
1 トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス) 4:31’41”
2 ヴァランタン・マデュアス(グルパマ・エフデジ、フランス)+0’20”
3 ティシュ・ベノート(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)+0’22”
4 ルイ・コスタ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、ポルトガル)+0’23”
5 アッティラ・ヴァルテル(ユンボ・ヴィスマ、ハンガリー)
6 マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス、スロベニア)+0’34”
7 ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)+1’04”
8 ロマン・グレゴワール(グルパマ・エフデジ、フランス)+1’18”
9 ダヴィデ・フォルモロ(UAEチームエミレーツ、イタリア)+1’23”
10 アンドレアス・クロン(ロット・デスティニー、ベルギー)+1’35”
女子
1 デミ・フォレリング(チーム SDワークス、オランダ) 3:50’35”
2 ロッタ・コペッキー(チーム SDワークス、ベルギー)+0’00”
3 クリステン・フォークナー(チーム ジェイコ・アルウラー、アメリカ)+0’18”
4 セシリーウトラップ・ルドヴィグ(FDJ・スエズ、デンマーク)+2’01”
5 アネミエク・ファンフルーテン(モビスター チーム、オランダ)
6 ピック・ピーテルセ(フェニックス・ドゥクーニンク、オランダ)+2’15”
7 カタジナ・ニエウィアドマ(キャニオン・スラム レーシング、ポーランド)+2’16”
8 リアヌ・リッペルト(モビスター チーム、ドイツ)+2’27”
9 リーアンヌ・マルクス(ユンボ・ヴィスマ、オランダ)+2’36”
10 フェイファー・ジョルジ(チーム ディーエスエム、イギリス)+2’39”
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。