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イネオスが採用するレース後のリカバリー方法|チームスタッフ目線で見るツール・ド・フランス

7月1日に開幕した世界最大のサイクルロードレース「ツール・ド・フランス」に、国内外のチームでマッサー・ソワニエとして活躍し、現在も現役スタッフである森川健一郎さんが帯同している。

「原点回帰」として、長年の経験をフィードバックするとともに、世界のトップチームが導入している技術を自らの目で確かめるため、3週間のフル帯同を決意したという。そこで、“チームスタッフ目線”で見るツール・ド・フランスがいかなるものかを、数回にわたってレポートしてもらおうと思う。

第2回は「レース後のリカバリー」について、前回と同様に、イネオス・グレナディアーズのケアラー、ヤチェック・ヴァルツァック(Jacek WALCZAK)さんに話を聞いた。

要素の異なる2種類のクールダウン

レースフィニッシュ直前の忙しい中だったが、ヤチェックは快くクーラーバンの中を見せてくれた。彼は「レース直後のクールダウン」、そして「冷却としてのクールダウン」と、2つのクールダウンについて興味深い話をしてくれた。

ヤチェック・ヴァルツァックさん(イネオス・グレナディアーズのチームウェブサイトから)

マッサージャー、ケアラーのフィニッシュ地点での主たる仕事として……、

①イネオス・グレナディアーズでは、フィニッシュラインでの選手へのドリンク渡し(私もチームスタッフとして行っているようなフィニッシュ直後のドリンク渡し)などに加えて、Kicker(いわゆる固定ローラー)を設置し、アイスベストを着せた状態でクールダウンをフィニッシュライン付近で行う(気温・状況などによって対応は異なる)。

加えて、フィニッシュした先のパドック(日本ではチームピットとも呼ばれる)内に置かれたチームバスの周りには、3~4台のローラー台をセットしている。たいていのチームがこのような対応をしているようだが、ロット・デスティニーについては3本ローラーが置かれていた。

②クーラーバンに向かう選手のケアをする。

クーラーバンはステンレス製バスで、水温10度程度の水浴を10分程度行う。水温は温度計で徹底的に管理される。構造としては、バンのトランク部に2基のステンレスバスが置かれる。それらのサイズは、90(L)×50(W)×70(H)。見た目としては楕円形の小さめの風呂桶のような印象である。

③クールダウンを終えた選手をチームバスに戻し、着替えを済ませて宿泊先のホテルへ。

改めてクーラーバンについて掘り下げると、水浴及び冷却機能をもつ機材(冷蔵庫など)を設置した専用のバンに水を張り、温度管理のうえでレースを終えた選手たちがアイシングができるものである。イネオス・グレナディアーズの場合、ベース車両としてシトロエン・ジャンパーの保冷車を用いており、ステンレスバスが設置できるようスペースが3分割された状態。

アイスバスの準備を進めるヤチェックさん Photo: Kenichiro MORIKAWA

具体的には……、

・運転席(2人乗り)
・運転席後部の用具保管スペース(アイスベストやタオル、その他の用具、氷やペットボトル用の冷凍庫が置かれる)
・トランク部分に水浴用のステンレスバス2基、車載用冷蔵庫1基

といったつくりになっている。

ツール・ド・フランスに持ち込まれているイネオス・グレナディアーズのクーラーバン Photo: Kenichiro MORIKAWA

出場レースや天候によって設置方法やオペレーションが異なるものと考えられるが、確かなことは「原理原則に忠実に行っていく」点である。

説明だけでは、日本のレース時との違いはさして大きくないとの印象を抱くこともあるかもしれないが、やはり読む・聞く・観るに加えて「本物の現場で何を感じるか」が加わることで、得られるものが一層充実することを実感している。

「文字だけの知識を超えて、本物を手に取り始めて自分のものになる」

NHKの朝ドラのセリフの一説なのだが、それをいま、リアルに感じている。

アイスバス準備風景。車内奥にあるステンレスバスに水を汲む(左)。水温10度で徹底管理される(右) Photo: Kenichiro MORIKAWA

ちなみに、この大会最初の本格山岳であった第5ステージ(ポーからラランスまでの162.7km)で、この基本準備を粛々と行っていたのがイネオス・グレナディアーズとUAEチームエミレーツ。ヤチェックに言わせれば、「これがスタンダードなのだよ」とのこと。

ただ、その言葉から確たる自信が明確に映ったのは、私も日頃チームスタッフとして働いているからなのかもしれない。

イネオス・グレナディアーズでは、レース前後にアイスベストを着ての体温調整に積極的に取り組んでいる Photo: Syunsuke FUKUMITSU

森川健一郎

Photo: Syunsuke FUKUMITSU

コンディショニング・トレーナー
アスレチックトレーナー
インディバ・アクティブ セラピスト
自転車ロードレースチームスタッフ
柔道整復師
BLUE CORN SPORTS 代表

略歴
2004〜
自転車ロードレースのスタッフとして活動を始める
同時に、数多の方々の協力でイタリアへソワニエ修行のチャンスをいただく

2005〜2008
ナショナルチームスタッフとして活動

2008〜
日本国内でのスタッフ活動を中心に、主にアジア・オセアニアツアーで現在も活動
自転車チームスタッフ歴約20年

2012〜
スキー競技、アルペン・クロスカントリーのジュニア・育成年代のトレーニングに自転車を取り入れた、基礎体力育成・強化トレーニングセッションを通年で開催している

2015〜
ワールドツアーのチームや多くのトップ選手のケアにも多数導入されている「インディバ・アクティブ®️」のセラピストとして、一般の方から選手まで、ケガ等のアフターケア〜スポーツコンディショニングケアをスタッフ活動と並行して行なっている

1969年(昭和44年)生まれ
静岡県静岡市(旧清水市)出身

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PROFILE

Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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