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夢を生きる女性レースドクター「運も実力のうち」|チームスタッフ目線で見るツール・ド・フランス

7月1日に開幕した世界最大のサイクルロードレース「ツール・ド・フランス」に、国内外のチームでマッサー・ソワニエとして活躍し、現在も現役スタッフである森川健一郎さんが帯同している。

「原点回帰」として、長年の経験をフィードバックするとともに、世界のトップチームが導入している技術を自らの目で確かめるため、3週間のフル帯同を決意したという。そこで、“チームスタッフ目線”で見るツール・ド・フランスがいかなるものかを、数回にわたってレポートしてもらおうと思う。

第3回は「ツールの最前線で活躍する女性スタッフ」について。その前編として、大会のメディカルディレクターであるフロランス・ポメリー医師に話を聞いた。

 

本題の前に……いま一度ロードレースのスタッフとしての原点に立ち返る

私もその昔、自転車に乗ってはかない夢を見たこともありました。
「マッサージャー」「ソワニエ」などスタッフという仕事があることで自転車の世界に入ってきた経緯があります。

© A.S.O. / Pauline Ballet

資格を取るために勉強し、実践を積むためにさまざまなスポーツの現場に出向き、失敗を繰り返し少しづつ、少しづつ前に進んできた経験があります。あらゆるご縁がなければここまでたどり着くことはできませんでした。

先輩スタッフから多くのことを学び、自分も後進に少しアドバイスできるまでになれたのも、多くの人に恵まれ、機会をいただき、我慢強く、我慢強く育てていただいた、たくさんの方々のおかげです。

みなさんの周りにも必ずそういった方々が、いらっしゃるのではないでしょうか?

知らない世界に飛び込んで行ったとき、「まだ何者でもない自分」を受け入れてくれた多くの方々に思いを巡らす機会が、ここにきて本当に増えました。

©️ A.S.O./Charly Lopez

仕事柄、開幕当初チームスタッフの動きばかりが気になっていて、

「この人は何をしている人なんだろう?」
「この人は? この人は?」と……

チームやレースの「スタッフ」の動きにばかり目がいって……。

その視点でお伝えできたら良いのでは……と考えていたのですが、現場に立ってみて日に日に感じたことは、「女性スタッフの活躍」です。性別を問わず、多くの人材が活躍できる場であることに気づかされました。

そこで今回は、現場で輝く女性たちにフォーカスしてみました。

長年レース運営を支えてきたポメリー医師の存在

毎朝ヴィラージュ(スタート地点に設けられる、大会関係者が出入り可能な憩いの場)に向かうと、誰もが笑顔で「Bonjour!」「Merci!」と返ってくる。「オハヨーゴザイマス」「アリガト、ゴザイマス」とちゃめっ気たっぷりに返ってくることも。

とてもイキイキと、とても真剣な眼差しも。多くのエネルギッシュな女性の笑顔がある。

今回お話を伺った方々には、どういった活動をされているのか? また、ツールドフランスへの思い……「普段あまり聞かれたことないわ」ということを思い切って聞いてみることにした。

次代を担うであろう後に続く、未来の「females staff」へ、パイオニアとしてのアドバイス・何が必要なのか。そんなお話を聞くことができた。

まずは、日本でもご存じの方が多いであろう、大会のメディカルディレクターであるフロランス・ポメリー医師に、無理を聞いてもらいレース直前にインタビューに応じていただいた。

ツール・ド・フランスのメディカルディレクター、フランソワ・ポメリー医師 Photo: Kenichiro MORIKAWA

つい、「どのようなお仕事をしていますか?」と定型文的な質問をしてしまい(ジュリアン・アラフィリップに「お名前とお仕事は?」と聞いてしまうようなレベルの失礼な質問だったと反省……)、やや引きつり気味の笑顔を見せたポメリー医師だったが、丁寧に答えてくれた。主には以下のとおり。

・ロジスティック・配車・ドクターの配置、そして救急要請のある場所への派遣
・レース全体の把握
・コミッセールとの連携でレースの動きを読んで、選手の体調(猛暑のレースが多いので)の急激な変化の状況確認
・落車による負傷度合いの確認をドクターカーから行う

これらのすべてのオペレーションをコントロールする「司令塔」を担っている。

フィニッシュ地点近くに停められているメディカルトラック。ポメリー医師との連携のもと、レース中に負傷した選手などが運ばれてくる Photo: Kenichiro MORIKAWA

ツール・ド・フランスでの素晴らしいなキャリアをお持ちですが、レースのファミリーであるということを、先生はどう感じていらっしゃいますか?

「夢ね。今でも夢のようよ。想像もしていなかったことだもの。本当にそう思うの」

これからの未来に、あなたのようにツール・ド・フランスでの活躍を夢見るメディカル部門のスタッフには何が必要でしょうか? 未来のメディカルスタッフにアドバイスをお願いします。

「そうですね、ドクターやナースについて話しますね。あなたが女性であろうとなかろうと、あなたが求められるなら、病院で働くことも良いし、それ(レース現場で働くこと)ができるならそれも良いと思う。どちらがメインかということではないから。大事なのはあなたの経験と仕事のやり方ね。

私が始めた頃は女性は本当に少なかった。でも、私の経験上、緊急の現場での経験があると良いわ。緊急対応の経験を多く積み、レースの現場に来ても普段と同じようにできるようにするの、落ち着いて。普段と変わらず。

そして今、多くの女性がどんどん現場に来ている。とても良いことね。それから最後は運も実力のうちなの、だからとにかく一生懸命働くことよ」

ポメリー医師らしい力強いアドバイスだった。初めてツールに参加したときに感じた衝撃や、レースで本当に必要なことが凝縮されているアドバイスなのだと。彼女の言葉の答えは、この現場にあるのだろう。

大規模なクラッシュでいったんニュートラルになった第14ステージ。再スタートを待つ選手たちの後ろではドクター陣が負傷した選手たちの手当てに当たっていた ©️ A.S.O./Charly Lopez

最後に「先生のフォトを撮らせてくださいませんか?」と聞くと、カメラの向こうにはすてきな笑顔の一人の女性がいた。

私はとても緊張して、最後には先生がカンペをのぞき込んで「ふーん、なるほどそういう質問なのね」といって、ニコニコとそれでいて真摯な眼差しでお話いただいた。

*          *

次回は、ボーラ・ハンスグローエのプレスオフィサーであるステファニー・コンスタンドさんに話を聞きます。

森川健一郎

Photo: Syunsuke FUKUMITSU

コンディショニング・トレーナー
アスレチックトレーナー
インディバ・アクティブ セラピスト
自転車ロードレースチームスタッフ
柔道整復師
BLUE CORN SPORTS 代表

略歴
2004〜
自転車ロードレースのスタッフとして活動を始める
同時に、数多の方々の協力でイタリアへソワニエ修行のチャンスをいただく

2005〜2008
ナショナルチームスタッフとして活動

2008〜
日本国内でのスタッフ活動を中心に、主にアジア・オセアニアツアーで現在も活動
自転車チームスタッフ歴約20年

2012〜
スキー競技、アルペン・クロスカントリーのジュニア・育成年代のトレーニングに自転車を取り入れた、基礎体力育成・強化トレーニングセッションを通年で開催している

2015〜
ワールドツアーのチームや多くのトップ選手のケアにも多数導入されている「インディバ・アクティブ®️」のセラピストとして、一般の方から選手まで、ケガ等のアフターケア〜スポーツコンディショニングケアをスタッフ活動と並行して行なっている

1969年(昭和44年)生まれ
静岡県静岡市(旧清水市)出身

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PROFILE

Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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