ツール・ド・フランスのTV視聴者、過去最大の870万人|小玉 凌のツール取材記
Bicycle Club編集部
- 2023年07月26日
INDEX
気鋭の若手サイクルジャーナリスト、小玉 凌さんによるキャリア2回目のツール・ド・フランス取材。熱を帯びる日々のステージとともに進んでいく3週間の旅。レースそのものにとどまらず、その傍らで起こった出来事や、“ここだけの話題”なども日本のファンに向けてレポートする。
その第6回は、個人総合争いのまさかの結末とファン心理に寄り添う主催者の取り組みについて。
双方互角の戦いを振り返る
タイムトライアル、アルプス最終戦で事実上総合争いが決されました。長い戦いに終止符を打った3日間を振り返ります。
-第16ステージ- デザインされたタイムトライアル
万全のチーム戦略に加え、耐え忍ぶ走りから守備的と紹介されがちなヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)が攻めの走りで総合優勝を手繰り寄せます。第1計測区間からトップタイムを出すとそのままリードを築き上げました。
最終的にタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)から1分38秒を奪ったパフォーマンスを説明するのは「準備」でした。
ツールを連覇する上でユンボ・ヴィスマがかなり重要視していたというのがこの第16ステージ。第1、2セクションでヴィンゲゴーがみせたタイトなダウンヒルも、入念なキャンプとテストに裏付けられてのもの。
ノーマルバイクでの登坂が有利とも言われた第3セクションでもTTバイクのまま走りきります。この選択はかなり前の段階からチームで決まっていたようで、TTポジションでも高い出力が出せるパイロットの特性も乗じて、好タイムに結んだそうです。
ただあまりの速さに本人も最初の区間は出力を疑い、パフォーマンスディレクターも心配したようです。万全の下準備でコート・ド・ドマンシーも料理したユンボ・ヴィスマ。
パドックの様子からもウォームアップの空間を作り込んでおり、その準備は際立っていました。「機材スポーツ」と言われている自転車競技ですが、機材のアップデートは当然のこと、これからは乗り手のコンディションにも一層目が向けられていきます。
-第17ステージ- わずかな足止め
コル・ド・ラ・ローズから独走に持ち込んだフェリックス・ガル(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストリア)がステージ初優勝。アージェードゥーゼール・シトロエンチームは翌日のチーム拠点シャンベリーを通過する前に、良い知らせを届けました。
「最後の1kmまで信じられなかった」と言うガル。単独で先頭に立ち、サイモン・イェーツ(チーム ジェイコ・アルウラー、イギリス)らに追われる時間はとても長く感じたでしょう。
そして、UAEチームエミレーツにとっても長い一日でした。
不調に泣いたタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)に引導を渡したヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)がどれだけの差をつけるのかが注目されました。結果的に、総合時間で7分35秒と大差がつきますが、アクシデントがなければ、さらに秒数を稼ぐことができたでしょう。
コル・ド・ラ・ローズでオフィシャルカーとメディアモトに進路をふさがれたヴィンゲゴー、ウィルコ・ケルデルマン(オランダ)、ティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ、フランス)がタイムロス。そしてこのアクシデントの発端は、フランス国営放送のモトペア(トマ・ヴォクレールとバイククルー)との裁定。罰金と翌日のコース取材が禁じられました。
「観客の安全を考慮してのアクシデントだった」とヴォクレールのコメント。山頂付近での人だかりを見るに、この言い分はよくわかりますが、3度目の休息日を与えられてしまいました。残念なことに第14ステージ以来、2回目となった進路妨害問題。
観客はあくまで、コース状況として捉えられており、臨機応変な対応がレース帯同者には求められますが、今後何らかの対策が施されるのでしょうか。
-第18ステージ- 世界から注目されるフランスの国民的スポーツ
連日更新されるレースコミュニケではリタイアする選手の名が連ねられ、集団がスリムになっていることがわかります。
第18ステージスタート前にはアントニー・ペレス(コフィディス、フランス)が不出走。そして、ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)もこの日の出走を取りやめました。
さかのぼること9日前の第10ステージにも途中リタイアする噂が広がっていましたが、事実となります。チームリリースの動画よりワウトは新しい家族の出生に立ち会うための撤退で、妻とチームに対するリスペクトを繰り返し述べました。
レースでは優勝したカスパー・アスグリーン(スーダル・クイックステップ、デンマーク)を含んだ4名の逃げと集団の構図が長く続きます。
ツール・ド・フランスには、本格的なチェイスが始まるまでの時間も席をたたせない仕掛けが随所でみられます。
今年はチームラジオがテレビ中継やインターネット上で聞けるようになりました。補給タイミングの指示など、基本的に選手とスタッフの真面目なやりとりが抽出されますが、一笑いを起こすような内容も取り上げられています。
また、フランス国営放送ではサン・ジェルヴェ・モン・ブランを駆け上がった第15ステージで870万人の視聴があり、これは過去最高の数値とのこと。そもそも一大コンテンツとして地位を確立していますが、レース運営を務めるA.S.O.の細かな戦略がさらなる人気を呼んでいます。
SHARE
PROFILE
Bicycle Club編集部
ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。
ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。