ユンボ勢がブエルタで総合トップ3独占 第2週レビュー|ロードレースジャーナル
福光俊介
- 2023年09月12日
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vol.65 山岳・TT好走のクスがマイヨ・ロホをキープ。バッドデイに見舞われたレムコは個人総合2連覇が絶望的に
国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。熱戦が続くブエルタ・ア・エスパーニャは、本記執筆時点で第2週が終了。残すところ6ステージとなった。大会中盤戦も激動で、個人総合首位のマイヨ・ロホで第1週を終えていたセップ・クス(ユンボ・ヴィスマ、アメリカ)がトップを快走するのとは対照的に、昨年の覇者レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)が第13ステージで大きく遅れ、大会連覇は絶望的に。ユンボ勢の盤石度合いが際立った第2週を振り返るとともに、最後の1週間の見どころも探っていく。
終始ユンボ・ヴィスマが主導権を握ったブエルタ第2週
大雨に数度見舞われた第1週では、タイム計測ポイントを変えるなどのイレギュラーな措置がなされたが、打って変わって第2週は予定どおりに進行。第6ステージからマイヨ・ロホを守るクスが、どこまでジャージをキープできるかが焦点だった。
総合系ライダーのシャッフルが起こると思われていたのが、第2週幕開けの第10ステージ。25.8kmの個人タイムトライアルで争われたレースは、フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ、イタリア)が勝利。チームリーダーのゲラント・トーマス(イギリス)が苦戦する中にあって、プロトン屈指のTTスペシャリストが気を吐いた。
注目された総合勢の走りでは、ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)やアレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)らがまずまずの走りを見せた一方で、ヴィンゲゴーが伸びずステージ10位に終わる。前月にこの種目で世界選手権を制したレムコはガンナに迫る勢いで走り、16秒届かなかったもの総合系ライダーでは一番のタイムでステージ2位。ログリッチはガンナから36秒、レムコから20秒差の3位でまとめた。
最終走者としてコースへ飛び出したクスも好走。“リーダージャージマジック”か、決してTTが得意ではないものの遅れをどうにかとどめて走り抜いた。ガンナから1分29秒差のステージ13位。第1週終了時からの貯金を残して、マイヨ・ロホを守った。
ブエルタならではのカテゴリー、「平坦ステージ頂上フィニッシュ」だった第11ステージ(168.2km)。最大26人に膨らんだ逃げがリードを保ってステージ優勝争いへ。前日勝利のガンナがアシストに回ってトーマスのステージ優勝を狙うが、勝ったのは巧みに勝負どころを見定めたヘスス・エラダ(コフィディス、スペイン)。今大会最初の地元スペイン勢の勝者となった。総合勢には大きな変動はなく、クスがトップを維持。
この週唯一の平坦ステージだった第12ステージ(150.6km)は、セオリーどおりのスプリント勝負になり、フアン・モラノ(UAEチームエミレーツ、コロンビア)が昨年の最終ステージ以来となるブエルタでのステージ優勝。今大会はルイ・オリヴェイラ(ポルトガル)が最終リードアウトマンを務めており、ついにホットラインが完成した。ポイント賞争いでダントツ首位のカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク、オーストラリア)は、ステージ2位だった。
衝撃は第13ステージ(134.7km)で起こった。4つのカテゴリー山岳のうち、超級が2つ、1級が1つ、獲得標高4020mの完全山岳デーだったこの日。序盤の3級山岳通過と同時にフランスに入国し、ツール・ド・フランスでおなじみのオービスク峠やトゥルマレを目指した。レース前半で迎えたオービスク峠でリーダーチームのユンボ・ヴィスマがコントロールする中、最大のライバルであるレムコが苦しみ始める。メイン集団の後方へと下がっていくと、やがてアシスト陣とともに遅れだしてしまった。
その後の下りや次の登坂区間・スパンデル峠で総合上位陣が加速したことで、レムコは完全に後退。ユンボ・ヴィスマが主導権を握ってトゥルマレに入ると、残り8kmでヴィンゲゴーがアタック。ライバルたちの追撃を許さずに一番に頂上へ。抑えに回っていたクスやログリッチがフィニッシュを前にアタックすると、ユンボ勢のワン・ツー・スリーフィニッシュが決まった。
勝って愛娘の誕生日を祝ったヴィンゲゴーに、マイヨ・ロホを守ったクス。ログリッチも個人総合2位に上がり、彼らがトップ3を占める格好に。レムコはほぼ未体験だったピレネーで沈み、この日だけで27分遅れ。個人総合2連覇の夢はついえた。
個人総合成績の芽こそなくなったレムコだったが、翌日の第14ステージ(156.2km)で意地を見せた。前日と同様にピレネーの山々を走った1日は、超級2つ、1級1つと上級カテゴリーを登坂。獲得標高は3700mを数えた。レムコはたびたび逃げを企て、レースをリードすることに成功。やがてロマン・バルデ(チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ、フランス)との2人逃げとなり、そのまま両者のステージ優勝争いへ。最後の上りである1級山岳ベラグア峠に入ってレムコがバルデを引き離すことに成功。前日のブレーキの悔しさを晴らす涙のステージ優勝を飾り、同時に山岳賞で首位に立った。
メイン集団では個人総合4位につけるフアン・アユソ(UAEチームエミレーツ、スペイン)が仕掛けたものの、ユンボ・ヴィスマの牙城を崩すまでは至らず。トップ3に変動はなかった。
第2週最終日の第15ステージ(158.3km)も逃げメンバーがステージ優勝争い。2日連続で先行したレムコらとの駆け引きから、ルイ・コスタ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、ポルトガル)とサンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス、コロンビア)が抜け出すことに成功。そこにレナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)が合流。ケムナは最終盤の下りで落車したものの、フィニッシュ前1kmで追いついて、3人の勝負に。スプリントはコスタが制し、ブエルタでは初めて、グランツールでは10年ぶりとなる勝利を挙げた。フィニッシュ前で猛追したレムコは4位に終わったものの、山岳賞ではリードを拡大。総合上位陣は一団のまま走り終えて、第2週終了時のマイヨ・ロホはクスで確定した。
ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 第2週終了時 個人総合順位
1 セップ・クス(ユンボ・ヴィスマ、アメリカ) 54:38’42”
2 プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)+1’37”
3 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)+1’44”
4 フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ、スペイン)+2’37”
5 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+3’06”
6 マルク・ソレル(UAEチームエミレーツ、スペイン)+3’10”
7 ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)+4’12”
8 アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)+5’02”
9 キアン・アイデブルックス(ボーラ・ハンスグローエ、ベルギー)+5’30”
10 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)+8’39”
ポイント賞
カーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク、オーストラリア)
山岳賞
レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)
ヤングライダー賞
フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ、スペイン)
チーム総合時間賞
ユンボ・ヴィスマ 163:24’07”
ブエルタ第3週の見どころ
2023年シーズンのグランツールも残すところ1週間。最後の6ステージで、すべてが決する。焦点はユンボ・ヴィスマ勢の個人総合ワン・ツー・スリーなるか、そして各賞の行方だ。
今大会2回目の「平坦ステージ頂上フィニッシュ」となる第16ステージ(120.5km)。週の幕開けは短距離ステージで、最後の上りに集約される印象だ。頂上にフィニッシュラインが敷かれる2級山岳ベヘスは、上り口から14%の急坂で、中腹でいったん緩むものの、最後の2kmで再び14~15%に。上りに向けたポジション争いや激坂アタックが見ものになる。
第17ステージ(124.5km)では名峰アングリルへ。中盤・後半と1級山岳を1つずつ越えるが、それは前座でしかない。それらを越えた先にそびえるのは、登坂距離12.4km、平均勾配9.8%、最大勾配24%の「壁」である。この上りの前半部こそ緩斜面だが、中腹から一気に20%超の急坂区間へ。断続的に20%台の上りをこなして、最後は少しばかりの下り基調。ブエルタで8度登場し、7回は勝者がひとりで頂上のフィニッシュラインへとやってきている。
山での戦いは終わる気配がない。第18ステージ(179km)は、5つのカテゴリー山岳越え。上りのたびに集団の人数が絞り込まれていくことだろう。最終登坂の1級山岳ラ・クルス・デ・リナレスは登坂距離8.3km、平均勾配8.6%。上りの入口で15%に達し、断続的に緩斜面が出てくるがおおむね10%超の区間がほとんど。道幅が細く、舗装状態も良くないとされ、フィニッシュに向かって各選手の脚の差がはっきりしてくるかもしれない。
今大会4つしかない平坦ステージのうちの3つ目が第19ステージ(177.5km)で登場。山はなく、ひたすら平坦路を進むが、場所によっては強い風が吹くことも。最終局面は約2kmの直線である。
事実上の最終決戦である第20ステージは、今大会最長の208km。カテゴリー山岳はすべて3級ながら11カ所にも上る。ひとつひとつを見ていくと難所はほとんどないものの、これらがジャブのように効いてくると……。獲得標高は4270mで、コースレイアウト的にクラシック風のコースとの声も多い。このステージを終えた時点での個人総合順位が、そのまま最終成績に反映されると思って良いだろう。
最終・第21ステージ(101.5km)では、基本的には総合争いは展開されない。今回も最終目的地・マドリードを目指してのパレード走行が見込まれる。3週間の戦いの労をねぎらいながら、スペインの首都までの“勇者たちの行進”。マドリード市街地では周回コースが用意され、フィニッシュ前52.2kmからは少しばかりのレースに。1周5.8kmの周回コースをめぐって、最後はシベレス広場でのスプリント。すべての選手がフィニッシュすると、全成績が確定。暗闇を照らす美しい光とともに、マイヨ・ロホが勝者に授与され、ブエルタ・ア・エスパーニャの閉幕を迎える。
ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 公式ウェブサイト
https://www.lavuelta.es/
福光俊介
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。
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- Bicycle Club
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- TEXT:福光俊介 PHOTO:Unipublic UNIPUBLIC / SPRINT CYCLING AGENCY UNIPUBLIC / CXCLING NITIDESA
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。