ミランが総合トップ。ヴィンゲゴーも好位置で追う 前半戦レビュー|ティレーノ~アドリアティコ
福光俊介
- 2024年03月08日
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ティレニア海からアドリア海まで、2つの海をつなぐ春の重要レース「ティレーノ~アドリアティコ」。サイクルロードレースの最高峰・UCIワールドツアーの1つに位置づけられ、例年プロトンのトップライダーが集結。今年は現役ツール・ド・フランス王者ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク、デンマーク)の参戦で大きな注目を集める。全7ステージ中、本記執筆時点で4ステージまでを終了。選手たちがアグレッシブに動いた大会前半戦をレビューするとともに、注目ステージひしめく後半戦も展望していこう。
トリアイナをかけた7日間のステージレース
ティレーノ~アドリアティコは、ジロ・デ・イタリアやミラノ~サンレモなどと同じくRCSスポルトが主催し、シーズン前半戦の主要レースに位置付けられている。大会名はティレニア海とアドリア海からきており、イタリア半島の西に広がる前者を見ながら出発し、同じく東の後者を目指して進んでいくルートがとられる。その間、内陸の丘陵地帯や山岳区間を走行し、全7日間で覇権が争われる。
大会の覇者には三叉の矛「トリアイナ」が贈られる。これは、ギリシャ神話においてポセイドンが海の神であったことにちなみ、2つの海をつなぐレースの勝者であることの証である。
今回はヴィンゲゴーの参戦で一気に注目度が高まっているほか、対抗馬としてベン・オコーナー(デカトロン・アージェードゥーゼールラモンディアル、オーストラリア)やジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストラリア)、リチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)らが出場中。スプリンターでは、昨年のツールでポイント賞を獲得したヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)やティム・メルリール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)、マーク・カヴェンディッシュ(アスタナカザクスタンチーム、イギリス)などがステージ優勝を目指して戦っている。
バーレーン・ヴィクトリアスでは、新城幸也がメンバー入り。チームへの貢献度の高い走りや日々の状況については、チームユキヤ通信をご覧いただきたい。
アユソがガンナらを下してオープニングウィン
大会の特徴のひとつとして、初日か最終日に短い距離の個人タイムトライアルが設定されることが挙げられる。近年は初日に設けられることが増え、そこで発生したタイム差をもって翌日からのロードレースステージに向かっていく形だ。
10kmで争われた第1ステージ。ルートはほぼフラットであるものの、この日はレース途中から雨風が強まるとの予報があり、有力視選手たちの多くが早い順番でのスタートを選択。
個人総合優勝候補の筆頭であるヴィンゲゴーはチーム一番手、全体の3人目でコースへ出て、11分46秒でフィニッシュ。実質このタイムが基準となった。
数人がヴィンゲゴーを上回ったなか、総合争いのライバルとなるフアン・アユソ(UAEチームエミレーツ、スペイン)が11分24秒で走破。すると、このタイムを上回る選手が最後まで現れず。このステージの最右翼と目されたフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ、イタリア)も、1秒届かなかった。
大会最初のリーダージャージ着用者となったアユソ。ヴィンゲゴーに対し22秒差をつけて、ロードレースステージへと駒を進めた。
199kmに設定された第2ステージは、スプリンター向けのレイアウト。4人の逃げは距離を経るごとに人数を減らし、フィニッシュまで36kmのポイントで最後の1人も吸収された。
スプリント態勢へ移りつつあったメイン集団では、カヴェンディッシュが残り18kmでパンクし戦線離脱。残り5kmでは数人が絡むクラッシュが発生し、クリストファー・フルーム(イスラエル・プレミアテック、イギリス)が巻き込まれた。
混迷の集団はそのままフィニッシュ前の勝負へ。最後のコーナーを抜け、残り300mでメルリールが早めの仕掛けに出るが、これをすぐにチェックしたフィリプセンが先頭へ。ライバルスプリンターがうまく加速できない中、さすがの勝負強さで今季初勝利をつかんだ。
スプリンターが躍動の大会前半戦
第3ステージ(225km)からは本格的に内陸部へ。逃げが2人と少なかったこともあり、集団は長い時間容認し、最大で11分までタイム差が広がる。断続的に雨が降るなか、中盤から本格的にペースをコントロールしたメイン集団は、残り22kmで逃げをキャッチした。
以降、数チームが入り乱れてのポジション争いが激化。集団には多くの選手が残り、スプリントフィニッシュのムードが高まる。前日勝利のフィリプセンやジョナサン・ミラン(リドル・トレック、イタリア)らが単騎でポジション確保に動く一方で、最後に主導権を確保したのはバーレーン・ヴィクトリアス。最終コーナーを抜けるとケヴィン・ヴォークラン(アルケア・B&Bホテルズ、フランス)がスプリント開始。その脇からフィル・バウハウス(バーレーン・ヴィクトリアス、ドイツ)も加速。ミランがそれを追い、懸命に踏みとどまっていたフィリプセンは他選手と接触し最終コーナーで落車した。
上り基調のスプリントはミランらの追い上げをかわしたバウハウスに軍配。2023年のツアー・ダウンアンダー以来の勝利で、久々のポディウムで笑顔がはじけた。
このステージで惜しくも2位だったミランは、翌日の第4ステージ(207km)で見事に雪辱を果たした。最大6人の逃げで始まったレースは、フィニッシュまで30kmを切って3選手がアタックし抜け出す。フィニッシュ地点を含む周回コースに入ったところで、その差は約1分。しかし先頭の3人は粘りに粘り、1分差を最終盤までキープした。
フィニッシュへ向かう間、登坂区間でメルリールが遅れ脱落。最終局面へとつながる上りでは逃げていたうちの2人が捕まり、あとはヨナス・アブラハムセン(ウノエックス・モビリティ、ノルウェー)ただひとり。集団はすぐ目の前まで迫っているものの、上りで大多数のチームがアシストを使い切ったこともあり、エーススプリンターたちがお見合い。アブラハムセンとの差が再び開きつつある状態で最終のストレートに突入した。
トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)の加速をきっかけに集団はスプリントを開始。逃げ切りの可能性が高まったかに見えたアブラハムセンだったが、こうなると勢いは集団が勝る。アブラハムセンをパスし、伸びてきたのはミラン。リドル・トレック移籍1年目のスピードスターが、ついに今季のワールドツアーで勝ち名乗りを上げた。
リーダージャージはミランが着用。大会後半戦は山岳メイン
第1ステージの個人TTから連続で上位入りしていたミランが、第4ステージまでを終えて個人総合トップに。第4ステージの勝利が決め手となって、アユソからリーダージャージを奪取した。
大注目の個人総合争いは、第5ステージから本格化するとみられる。登坂距離11.9km・平均勾配6.2%・最大勾配11%のサン・ジャコモを越え、いったん下ったのちに再度上り基調となる144kmのコースで総合系ライダーたちがアクションを起こすだろう。
続く第6ステージは、前半からラ・フォルチェッタ、ピアン・ディ・トレッビオ、モリアの3つの登坂区間をクリア。そして最後に上るのは、登坂距離10.1km・平均勾配8.0%・最大勾配12%のモンテ・ペトラーノ。頂上にフィニッシュラインが敷かれる今大会のクイーンステージだ。
そしてフィナーレは、例年最終目的地となるサン・ベネデット・デル・トロントでの平坦ステージとなっている。
後半3ステージの模様は、改めてレビューします。
ティレーノ~アドリアティコ2024 途中経過(第4ステージ終了時)
個人総合時間賞
1 ジョナサン・ミラン(リドル・トレック、イタリア) 15:06’02”
2 フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ、スペイン)+0’04”
3 ケヴィン・ヴォークラン(アルケア・B&Bホテルズ、フランス)+0’18”
4 アントニオ・ティベリ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)+0’21”
5 ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク、デンマーク)+0’26”
6 ロマン・グレゴワール(グルパマ・エフデジ、フランス)ST
7 ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストラリア)+0’28”
8 ニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト、アメリカ)+0’30”
9 マックス・プール(ディーエスエムフィルメニッヒ・ポストNL、イギリス)ST
10 レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)ST
ポイント賞
ジョナサン・ミラン(リドル・トレック、イタリア)
山岳賞
ダヴィデ・バイス(ポルティ・コメタ、イタリア)
ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
ジョナサン・ミラン(リドル・トレック、イタリア)
チーム総合時間賞
UAEチームエミレーツ 45:19’16”
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。