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「き田たけうどん」店主直伝 大阪讃岐うどんの極意

全国的な讃岐うどんブーム、そして今や世界からも注目を集めるうどん。その個性は実に多彩で、だからこそ作り方には正解がない。パスタでもラーメンでもない、うどんだから美味しい。そんな自分史上最高の一杯を探すため、関西の雄『釜たけうどん』の門を叩いた。
※『釜たけうどん』は2017年に閉店しておりますが、当時の情報をそのままに掲載いたします。

押さえておきたい、うどんの基礎知識

シルクロードを渡って中国より伝来

諸説あるが、奈良時代に遣唐使によって伝えられたのがうどんのはじまり。当初はすいとんのような団子汁で「混飩(こんとん)」と呼ばれた。現在の形状になったのは室町時代で、江戸時代には庶民の食べ物として広まった。

「日本三大うどん」言えますか?

一般的には太麺でしっかりとしたコシが特徴的な香川の「讃岐」、細打ちでしなやかな喉越しの秋田の「稲庭」に、群馬県発祥の「水沢」、あるいは長崎生まれの「五島」を加えて「日本三大うどん」とする説が有力だ。

まだまだある! ご当地うどんあれこれ

全国各地には様々な “ご当地うどん” が存在する。三重の「伊勢うどん」や名古屋の「きしめん」、山梨の「ほうとう」などが有名で、観光客からも人気を集める。また、富山の「氷見うどん」を日本三大うどんに数える場合も。

大阪讃岐うどんの立役者に聞く、うどん作りの極意とは?

2000年代初頭より大阪から火がついた “関西讃岐うどん” を仕掛け、新たなうどん文化を創ったオリジネーターに、その極意をうかがった。

伝統ある大阪のうどんに新しい文化を作る

『釜たけ』を代表する「ちく玉天ぶっかけうどん」。その技術を惜しまずシェアするという木田氏の先進的な発想が全国での普及を促した。

「きつねうどん」や「はいからうどん」といった伝統的なうどん文化が古くより根付く大阪に新風を吹き込んだ “関西讃岐うどん”。今や大阪だけでなく、全国にも普及したそのムーブメントの立役者が『釜たけうどん』の店主・木田武史氏だ。

「今もそうですが、一言で言うと “うどんマニア” なんです」

元々うどん好きでサラリーマン時代に大阪や香川を中心にうどんを150店以上食べ歩いてブログで発信。讃岐うどんの「ぶっかけ」に感銘を受け、2003年に『釜たけうどん』をオープンした。

「狙ったのは麺の存在感のあるうどん。讃岐流のコシだけの麺そのままでは大阪で受け入れられないので、“もちもち” の食感を際立たせたんです」

舌触りはつるつるでやわらかく、噛むほどにもちもち食感のグラデーションが楽しめる斬新な極太麺を独学で開発 し、合わせるのは昆布とかつお中心の関西出汁のつゆ。さらにトッピングではなく器に入れてインパクトを出した先鋭的な「ちく玉天ぶっかけ」は、それまで冷たいうどんと言えば氷を浮かせた冷やしうどんだった大阪のうどん文化に風穴を空け、関西讃岐うどんブームを作った。その潮流にある専門店は今や大阪だけでも200を超える。

「麺打ちの段階で手触りがなめらかでないと食感も喉越しも良くなりません」

木田氏が考える美味しいうどんの条件は「茹でたて」にある。

「うどんは完成してから劣化が始まるので、茹で置きはせず釜ぬきで美味しく食べられる時間で提供することが大事です」

全国的にみても太い『釜たけ』の麺は、茹で上がりまで28分。 茹で置き麺に慣れた客を待たせないように見込みで茹で始めるが、客足によってロスがでる。そのリスクを日々背負うことで、ここにしかない味を実現させているのだ。

「すごいものを作っているという意識はありません。ただ自分が良いと思うことを少しずつ取り入れていったら結果的に尖ったものになった。作り手は、技術よりも、まず『どんなうどんを表現したいか』にこだわることが何より大切なんです」

今でも良いものがあれば柔軟に取り入れ、さらなる美味しさを追究する木田氏に、うどん作りを教わった。が、これはあくまで『釜たけ』流。正解も終わりもない “自分流のうどん” は、自分で探すべし。

釜たけうどん流 うどん作り三原則

  1. “自分のうどん” という表現を追究する
  2. 重層的なもちもち感の麺にこだわり抜く
  3. リスクを恐れず茹でたてで提供する

製麺工程を拝見!

讃岐ルーツで独自の改良を加えた麺は『釜たけ』の心臓部分。「いかに空気を残しながらグルテン組織を作るか」にこだわった加工と合理化でドラスティックな食感が実現する。

小麦粉は2種を配合し、塩はにがり成分を含む瀬戸内の海塩を使用。現在、木田氏が選んでいる粉は、オーストラリア産の製麺用粉「ASW」をベースに、北海道産小麦粉をわずかにブレンドし風味をプラス。一晩寝かせて水分を均一化させ、踏んで縦に、製麺機で横に圧力をかけてのばすことでもちもち感が出る。

材料(150人分)

小麦粉
・オーストラリア産 ASW……20.5kg
・北海道産きたほなみ……5kg

塩(海塩)……水100に対して18%(15ボーメ)
水……11.4kg

加水率

約45〜46%

茹で時間

かけ 20分/ぶっかけ 28分

麺の太さ

約4mm×4mm

麺打ちは一日にして成らず!その全工程

毎朝7時には出勤し、翌日調理分の麺を仕込む。仕込む量は平日で約100人前、週末ともなれば約150人前にも及ぶ。

ミキシング

計量した粉に、塩と水を合わせた塩水を加え、ミキサーで塊状になるまでしっかり捏ねる。グルテンを生み出す上で、この “捏ね” の工程が最も重要。加水率は気温や湿度だけでなく、粉、水、機械の温度によっても変動。

プレス

3つ折に畳んだ生地を6回に渡って踏み、機械を使ってのばす作業を繰り返す。6回は効率と味わいを追い求めて辿り着いた回数。

寝かせ

15〜16℃(季節によって変動)の熟成庫で一晩寝かせる。

のばし・切り

空気を残しながら、踏んで畳んでのばす工程だ。踏みすぎないことがポイント。

一晩寝かせた麺を踏んで波型ローラーに入る厚みになるまで踏む。

波型ローラーで粗のばしする。「波型にすると圧力が逃げるので密度が詰まり過ぎないんです」。

綿棒に巻きつけもう1台のローラーで本のばしして約4mmの厚みに揃える。木田氏の持論は「生地はのばした方が美味しい麺になる」。力を逃しながら生地を横方向にのばすことでコシが生まれ、なめらかに。

折り目がつかないようにのばしながらスライドカッターで切る。

一玉ごとに揃える。釜たけの並盛りは450g。「塩水を入れるとグルテンが発生しますが、踏むだけでは硬くなる。踏んで畳んでを繰り返し、横にのばす加工で強固かつ複雑なグルテン組織が作れるんです」

熟成にはどんな作用がある?

生地を何度も折ってのばすのは、グルテンを成長させてコシのある麺に仕上げるため。熟成させることでグルテンと生地が一体化し、さらに弾力が増す。熟成前後の麺を食べ比べると、熟成前はコシがなく、粉っぽいのがわかるはずだ。

つゆは麺・天かすと合わせた時に美味しいバランスを目指す

関西出汁の流儀に則りながら、旨味を引き出す独自の工夫で極太麺のインパクトを引き立てる『釜たけ』のつゆ。出汁に使う素材のポイントから、うどんによるかえしの違い、さらに秘密の配合まで、そのこだわりを教えていただいた。

木田氏が作るつゆの方向性は「天かすを入れた時に一番美味しく、麺を引き立てるつゆ」。出汁には味にブレが出るいりこは使わず、昆布とかつお中心の関西流。「一番のポイントは昆布。12時間水出しした後、ゆっくり火入れして約1時間かけて旨味を抽出します」。かえしは関西圏の醤油とみりん、酒のオーソドックスなものを使う。

基本の出汁

  • 真昆布
  • 鯖節
  • ウルメ節
  • メジカ節
  • 鰹厚削り節
  • 花鰹節
出汁に使う昆布は利尻、羅臼と変わり現在は北海道大船産の天然真昆布の一等級を使用。生産者にもこだわっている。

かけうどんのつゆは、かえし1:出汁11

かけ用のかえしには関西で馴染み深い薄口醤油を使用し、出汁と合わせて約1時間寝かせたものを使用。透き通った琥珀色のつゆは、飲み干せる味わいに仕立てている。

ぶっかけうどんのつゆは、かえし1:出汁3

ぶっかけ用のかえしには濃口醤油を使用。かけ用のつゆより醤油感が強調されるので、出汁と合わせた後、1日寝かせて醤油のとがりを抑え、まろやかにしたものを使う。

極太麺に負けないように一般的なつゆより少し濃い目に仕立てたつゆは、ぶっかけ用(左)とかけ用で濃度がまったく異なる。

基本のかけ、ぶっかけこそうどんの奥義なり

シンプルだからこそ誤魔化しのきかない「かけうどん」と「ぶっかけうどん」は『釜たけ』の真骨頂である麺の醍醐味が味わえる基本。その表情の違いは、茹で加減によって作られる。「自分が美味しいと思う茹で加減を定めることが大事」

かけうどんの作り方

通常より早めにあげ 温かいかけつゆの熱で火を通すことが肝。

1

沸騰させたお湯に麺を入れ、器を温めておく。

2

20分後、麺を取り出して器に入れ、整える。20分茹でた麺は、表面は透明だが、中心部はまだ茹できれた状態ではない。

3

かけ用のつゆを回しがけ、小口切りの青ネギをのせて完成。温かいつゆの中で火入れするので、茹で上がる前にあげるのがポイント。

ぶっかけうどんの作り方

硬くならないように流水締めはサッと、が基本。提供前にキュっと締める。

1

沸騰させたお湯に麺を入れる。空気が残っているので3分ほどで浮いてきて10分経つと角が透明になる。

2

28分後に取り出し、流水で軽く流す。水で締めると少し縮む。表面はつるつる、中は何層にもなった凸凹の断面に。

3

提供前に氷水で表面を締め、整えながら器に盛り、ぶっかけ用のつゆを回しかける。小口切りの青ネギ、すりおろし生姜をのせ、カットレモンを添える。

釜たけうどん推奨「釜たまうどん」の作り方・食べ方

人気の高い「釜玉うどん」は、卵を固めて風味を良くし、醤油味の天かすで食べることで、極上のB級うどんになる。

作り方

1 沸騰させたお湯に麺を入れ、温めた器に卵を割り落とし、よく溶いておく。

2 24分後に麺を取り出し、器に入れる。

3 小口切りの青ネギをのせて完成。卵を溶いて敷くことで温かい麺の熱で火が入り、風味が際立つ。

食べ方

1 卵が固まるように底から麺をよく混ぜる。

2 全体に卵が絡んだら、天かすをたっぷりかける。

3 麺ではなく天かすに醤油をかけてよく混ぜる。醤油をかけた天かすと一緒に食べることでよりコクのある味に。

「釜たけうどん」のトッピングの妙

見た目も味わいも個性的なトッピングを覚えていつものうどんに差を付ける。

この天ぷらが再現できれば最高!
「ちく玉天ぶっかけ」

誰もが愛する天ぷらの組み合わせ。ネギとおろし生姜もたっぷり添える。

材料(1人分)

うどん(茹であげ)……400g
ちくわ……1/2本
半熟卵……1個
天ぷら粉……適量
ぶっかけ用のつゆ……90cc
青ネギ(小口切り)……適量
おろし生姜……7g
レモン(縦切り)……1/8個

作り方

1 天ぷら粉を水で溶いて衣を作る。縦半分にカットしたちくわと半熟卵に小麦粉をまぶし、天ぷら衣に通す。

2 1を約170°Cの油で3分ほど揚げる。

3 茹で上がったうどんを冷水で締めて丼に盛り、ぶっかけ用のつゆを張る。

4 揚げたての2を盛り付け、ネギ、おろし生姜、レモンを盛り付ける。

丼からはみ出る!? 特大ちくわの天ぷら「ちく天」

ちくわの天ぷらといえば、讃岐うどんには欠かせないトッピング。釜たけうどんで使うのは約20cmサイズにも及ぶ巨大ちくわ。揚げたてのサクサクした食感もいいが、時間が経って衣に出汁がジュワ〜ッと浸みたちく天も美味い。

1 縦半分に切ったちくわにまんべんなく衣を絡め、中温に熱したキャノーラ油の中へ。

2 ちくわが膨らみ、溝がくっきり見えるようになったら裏返す。

3 揚げ時間は約2分、両面にほのかに焦げ目が付くまで揚げる。

割ればとろ〜り半熟の黄身が流れ出す「玉天」

この店にしかないものを、と考案したのが半熟卵の天ぷら「玉天」。衣をまとっているせいか、揚げても黄身は半熟のまま。ただし、揚げ時間はちくわよりも短めに。黄身をうどんやちく天に絡めて食べても、また旨い。

高速殻むき秘技に刮目せよ!

使う道具は曲線がなだらかなスプーン。まず半熟卵の上下を割り、下(曲線が緩やかな方)から白身と膜の間にスプーンを滑り込ませるように入れる。卵の上に向かって殻をめくったら、卵を横方向に回しながら残りの殻をすべてむく。

関西うどんの名脇役「天かす」の流儀

関西のうどんには欠かせない天かすは、サクサクを超えた独特のカリカリした食感が最後まで持続するように仕立てる。オープン以来、揚げ場を司るのは讃岐で修行した大原明子氏。まさに職人技としか言いようがない。

「普通の天ぷら粉を使って袋の通りの配合で作っています」と大原氏。感性だけで作る天かすが、うどんに美味しさを加える。

個人から大手まで多くの店が導入したアイディアの源流
「キムラ君」

2011年に木田氏がキムチとラー油を使った「キムラ君」を作り、ライセンスフリーにしたことで全国140店以上が取り入れた。キムチは酸味があるものを使い、相性の良いラー油と豚肉、醤油と合わせた。遊び心あふれるネーミングは業種の垣根を超えた一大ブームに。

材料(1人分)

うどん(茹であげ)……400g
豚バラ肉(スライス)……50g
白菜キムチ……50g
自家製ラー油……15g
青ネギ(小口切り)……適量
おろし生姜……7g
いりゴマ……スプーン1杯
だし醤油……適量

作り方

1 小鍋にかけ汁を沸かし、豚肉を茹でておく。

2 茹でて冷水で締めたうどんを丼に盛り、1の豚肉、キムチを盛り付ける。固形状のラー油をのせ、万能ネギ、おろし生姜を盛る。いりゴマをたっぷりふりかけてだし醤油とともに提供。

自家製ラー油の作り方

【材料】作りやすい分量

韓国唐辛子……100g
すりゴマ……270g
砂糖……90g
コチュジャン……150g
醤油……90g
フライドガーリック……180g
フライドオニオン……270g
ゴマ油……1.65L

【作り方】

材料を混ぜ合わせ、170°Cに加熱したゴマ油を加えてしっかり混ぜる。

生姜の辛味と豚肉の甘みの妙に尖ったセンスを発揮!
「とんがり君」

讃岐で定番の薬味である生姜(ガリ)を細切りにして際立たせた辛味と、豚(トン)バラ肉の甘みのコントラストがクセになる。生姜を細切り天にする発想は大原氏によるもの。キャッチーな名前と体が芯まで温まる味がファンを獲得し、冬期限定メニューから定番に。

材料(1人分)

うどん(茹であげ)……400g
生姜(スティックに切る)……50g
天ぷら衣……適量
豚バラ肉(スライス)……50g
かけ汁……300cc
九条ネギ……適量
中挽き韓国唐辛子……適量

作り方

1 生姜は皮を剥き、スティック状に切る。九条ネギは頭部分を斜め薄切りにする。

2 天ぷら粉を水で溶いて衣を作る。1の生姜に小麦粉をまぶして天ぷら粉の衣に通し、170°Cの油で約1分半ほど揚げる。

3 小鍋にかけ汁を沸かし、豚バラ肉を入れて火を通す。

4 茹で上がったうどんを丼に入れ、かけ汁をかける。天ぷら、豚肉、青ネギを盛り付け、中挽き韓国唐辛子を振って完成。

生姜は高知産の土生姜を使用。「商品開発の基本は、まずあるもので考えること」と木田氏。

教えてくれた人

『き田たけうどん』店主 木田武史
大学卒業後、家電量販店に入社し23年勤めた後、『釜たけうどん』をオープン。革新的なうどんが話題となり全国に名を轟かせる。同業者と情報・技術交換を行う交流会『新麺会』主宰し、うどん文化の向上に邁進する。

き田たけうどん(きだたけうどん)
住所/大阪府大阪市浪速区難波中2-4-17
TEL/06-7509-4392
営業/火〜日 11:00〜15:00(売り切れ次第終了)
休み/月曜・祝日
http://kamatakeudon.kt.fc2.com/

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buono 編集部

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使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。

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