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【発酵】野生酵母を使ったパン&ビールが大好評の「タルマーリー」の発酵ライフ

天然酵母のパン好きの間では絶大な人気を誇る「タルマーリー」。菌に最適な環境を求めて千葉、岡山そして自然豊かな鳥取に移り、パンだけではなくカフェやクラフトビールづくりと活動の幅を広げている。最近は宿の運営にも関わるなど、新展開の真っ只中だという。

里山の自然の恵みを生かしたパンづくり

全体の93%が森林という鳥取県智頭町は、自然豊かで子育て環境も最適。パン以外の発酵食品の可能性も感じて、2015年、「タルマーリー」はこの地に移転してきた。店は廃園になった保育園を利用。内装を中心にセルフリノベーションして、保育園だった面影を残しつつ温かみある店舗に生まれて変わらせている。

「2011年、東日本大震災を機に千葉県いすみ市から岡山に移住して、そこで天然麹菌の自家採取に成功しました。しかし、菌にとって快適な環境は店内だけでは限界がありました。子育て環境、菌環境の最適な土地を探すなか、私自身がパンづくりで培った技術をビールづくりに活かせるんじゃないかと思い始めて。そうなるといろいろと手狭になるのも移転した理由のひとつです。今じゃ私はもうパン職人じゃなく、ビール職人ですよ」

そう笑いながら語る店主の渡邉格さんと、その横で微笑む共同経営者である奥様の麻里子さん。岡山在住時に発売された著書『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社)が話題になるなか2015年に移転。そしてパンからビールへの“転職”に、今も「なぜ?」「どうして?」の質問が絶えない、と苦笑する。

移転後、岡山では天井が低くて導入できなかったロール製粉機を取り入れ、クラフトビールづくりの過程で出る澱をビール酵母として利用し、長期間の冷蔵発酵に耐えるパン生地を生み出せようになったという。純粋培養菌を一切使わず、酵母、麹菌、乳酸菌、野生の菌を自家採取するユニークなパンづくりは、智頭町で合理化され、スタッフに任せられるまでに進化している。

自然豊かな環境にもあった意外な落とし穴

店内にはカフェスペースがあり、パンやピザそして自家製クラフトビールを味わうことできる。自治体が自然栽培農家をバックアップする政策をとったことで、町内に米や野菜の自然栽培に取り組む農家も出てきた。順風満帆のようではあるけれど、移転当初には大きな誤算があったという。なんと麹菌の採取が難しかったというのだ。

「初年度はうまくいったのですが、その後は失敗続きでした。原因を調べてみると農薬を空中散布する時期やゴールデンウィークや学校行事などで車移動が活発な時期に麹菌ではない黒や灰色のカビが増えることがわかりました。それとつくり手の気持ちが落ち込んでいる時も同様です。時期をずらしたり、辛い時は休んだりして改善したことで、きれいな緑色の麹菌ができるようになりました」

野生の麹菌は冷凍保存も可能で、鳥取大学で科学的な安全性を確認してから使用しているという。この麹菌と自然栽培の米をかけ合わせて米糀を仕込み、パンを発酵させる酒種をつくる。

現在、「タルマーリー」ではビール酵母、酒種、レーズン酵母、ルヴァン種を使い分け、九州と岡山県産の小麦粉と塩、水を主体に、風味豊かな体にすっと馴染むパンをつくり出している。

「ビールは今も試行錯誤中で、まだスタッフに引き継いでもらう段階に至りません。でも、タルマーリーらしいビールはできつつあります。ビールは鮮度が命のようにいわれますが、うちのビールは“熟成”が肝。寝かせることで旨味、風味が増すんです。レストランやバーからの引き合いも多いですが、つくれる量がまだ限られているのでごく一部に卸している程度です」

周囲からビールの評価は得ているものの、格さんはまだ納得がいっていない様子だ。

店内から地域へ。発酵環境を整えて地域を活性化

移住した当初から市外、県外からも店に訪れる人が後を絶たない人気店であるけれど、麻里子さんはずっと気にしていたことがあった。それは遠方からわざわざ足を運んでくれるにもかかわらず、訪れた人たちの町内の滞在時間が短いことだった。

「町には素敵なお店や見所がたくさんあるのに、立ち寄らずに帰ってしまうのはもったいないなぁと思っていました。それに車で来られる場合、ドライバーの方はせっかく来ていただいているのにビールを飲むことができません。近くに宿泊施設もあまりなく、日帰りの短時間の滞在になってしまっていました」

全国的にある少子高齢化や過疎化の波は智頭町も例外ではない。増えていく空き家の利活用と観光客誘致ができないかと、麻里子さんを含めた町内の4人の女性経営者が立ち上がり、「智頭やどり木協議会」を発足。さらに、2022年春には、古民家をリノベーションした1日1組の限定宿「やどり木の家」をオープンさせる予定なのだそうだ。

「智頭町は宿場町としても栄えた歴史があります。まちをひとつの宿と捉えた『まちやど』という発想で、宿に併設したカフェでは『タルマーリー』のパンやビールだけではなく、地域の農作物やジビエを使ったメニューも提供したいと思っています」

移転当初から掲げてきた発酵と地域内循環が、ここに来てさらに加速し始めている。2022年にはビール工場を拡張し、麦芽工場も新設し始める予定。さらにやどり木の家とは別に、廃校になった小学校をホテルと銭湯に改装するプロジェクトが立ち上がり、それに麻里子さんも関わるなど、まちぐるみの活動も活発になってきている。

「圧倒的に人員不足です(笑)。でも、採用を急いでもあまりうまくいかないことは経験上わかっているので、まずは1カ月のインターンシップを設けてお互いを理解しながら進めていけたらと思います」(麻里子さん)

菌と対話しながらつくるパンやビールから、地域の“発酵”へとスケールが広がり、これからますます里山に新たな豊かさを育んでいきそうだ。

 

■DATA

タルマーリー
鳥取県八頭郡智頭町大背214-1
営業時間:パン11:00〜17:00、カフェ11:00〜15:00L.O.(ピザは14:00(L.O.)(休日はそれぞれ1時間延長)
定休日:火、水曜
TEL.0858-71-0106
https://www.talmary.com

⽇本⾷の未来地図をデザインするために、発酵醸造に特化したシンポジウム。「Fermentation Future Forum(F3)」が2022年再始動します。
http://fermentationfutureforum.org/

当記事に掲載されている情報は、2017年にスタートした「F3|発酵醸造未来
フォーラム」の活動で取材された当時のものです。

 

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buono 編集部

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使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。

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