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【発酵】若狭湾の漁村に伝わる郷土料理「鯖のへしこのなれずし」

鯖街道の起点、福井県小浜市の東部に位置する田烏地区は、古くから「鯖のへしこのなれずし」の里として知られる小さな漁村集落。民宿を営みながら「田烏さばへしこ・なれずしの会」の代表として郷土に伝わる「鯖のへしこのなれずし」の伝承に取り組む森下佐彦さんを訪ねた。

鯖の“へしこ”を“なれずし”に二重発酵

へしこ小屋で仕込み作業を行う「田烏さばへしこ・なれずしの会」代表の森下佐彦さん。

かつて若狭湾で大量に水揚げされた鯖を京の都へ運んだ鯖街道。その起点とされる福井県小浜市の中心部から車で15分ほど走ると、小さな漁村集落の田烏地区にたどり着く。この地区は、古くから鯖の巾着網漁で栄えた地。目の前に広がる若狭湾の美しい海から水揚げされる新鮮な鯖を使い、冬場に味わう郷土料理としてつくられているのが「鯖のへしこのなれずし」だ。

「“へしこ”とは樽に重石をかけて漬け込む“圧し込む(へしこむ)”に由来した言葉といわれています。樽の中で1年以上かけて熟成させた鯖のへしこをさらに米と麹で漬け込む保存食として、この地域一帯で親しまれています。また、古代ずしともいわれ、寿司のルーツとされています」と説明するのは『田烏さばへしこ・なれずしの会』の代表・森下佐彦さん。“へしこ”から“なれずし”に二段階の発酵を経てつくられる保存食品は全国でも珍しく、その製作技法が小浜市の無形文化財に指定されている。

「鯖のへしこ」の糠推し(ぬかおし)作業。使用する糠も自家製だ。

「鯖のへしこのなれずし」で重要とされるのが、鯖の鮮度。10〜4月の冬場に獲れる脂の乗った新鮮な鯖を使用し、まずは秋から春先にかけて鯖のへしこの仕込みが行われる。丁寧にさばいた鯖の腹に塩と糠を仕込んだら、樽の中に糠と鯖を交互に重ね入れる糠推し(ぬかおし)を行い、1年以上漬け込む。夏の暑さが発酵を促し、冬の寒さが熟成を深めるため、一夏一冬かけてじっくりと旨みを引き出すという。「発酵が進むにつれて鯖から茶色い水分が上がってきますが、これは鯖の旨味成分。捨てずに一緒に漬け込みます」と森下さん。こうして鯖のへしこが出来上がると、いよいよなれずしの仕込み作業が始まる。

完成まで2年! 熟成を深めた究極の鯖のなれずし

塩抜きした「鯖のへしこ」の腹に米麹をたっぷり詰め込む。

なれずしの仕込みで最初に行うのが、塩抜き。鯖の糠を落としたら、氷水に繰り返し漬けて塩分濃度が1%になるまでしっかりと塩抜き作業を行い、薄皮を剥く。下処理を終えたら米一升と麹5合を混ぜ合わせて鯖の腹に詰め込み、樽に再び並べ入れて2週間から20日ほど重石をしながら漬け込む。

「麹の割合を多めにするのがまろやかな味わいに仕上げる秘訣。米麹の粒々が小さくなるまで漬けます。寒い時期に旨みが増すため、秋からが作業のピークです」と森下さん。鯖をへしこにする作業から始まり、なれずしに完成するまでおよそ1年半から2年。ゆっくり、じっくりと旨みを凝縮させた「鯖のへしこのなれずし」は、地域内の各家庭でも作られ、新年を迎える正月料理として親しまれている。

米麹を詰め終えた鯖のへしこを樽に隙間なく並べ、重しが均一に行き渡るように三つ編みした稲藁で周りを塞ぎ、内蓋をして重石を乗せる。
鯖の生臭さは一切なし。旨みが凝縮されたまろやかな味わいがお酒と相性抜群。

気になるのが、その味と食感。「鯖のへしこのなれずしは、食べやすい大きさに切って米麹がついたまま味わう。まずはそのまま楽しんで」と森下さん。箸でひと切れ持ち上げると断面に見えるのが、鯖のへしこの身と身の間に厚い層を作る米麹。口に運ぶとヨーグルトのようにねっとりとしていて、芳醇な酸味とほんのりとした甘さが伝わってくる。その味わいは“海のチーズ”とも呼ばれ、日本酒はもちろん、ワインとも相性よし。この美味しさは、秋から春先までの期間限定のお楽しみ。ぜひ贅沢な味わいを堪能してほしい。

 

■DATA

年間民宿 佐助
福井県小浜市田烏36-47
営業時間:10:00〜17:00
TEL.0770-54-3407
https://minsyukusasuke.com

⽇本⾷の未来地図をデザインするために、発酵醸造に特化したシンポジウム。「Fermentation Future Forum(F3)」が2022年再始動します。
http://fermentationfutureforum.org/

当記事に掲載されている情報は、2017年にスタートした「F3|発酵醸造未来
フォーラム」の活動で取材された当時のものです。

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buono 編集部

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使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。

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