【発酵】職人が愛情込めて作る、世界で最も硬い発酵食品「本枯れ節」
buono 編集部
- 2022年06月13日
和食の味の決め手となるだしに欠かせない鰹節。なかでも“世界で最も硬い発酵食品”としてカビ付け作業を繰り返してつくられるのが「本枯れ節」だ。鹿児島県指宿市で本枯れ節にこだわり製造を続ける「坂井商店」を訪ね、その製造工程を見学させていただいた。
職人の手作業で一本一本丁寧に製造
日本の伝統的な保存食としてつくられてきた鰹節。ひと括りに鰹節と呼ばれているが、鰹を煮て燻製にした“荒節”とそこにカビ付け作業を行う“本枯れ節”に大きく分けられ、なかでも本枯れ節は高級品とされる。
今回訪ねた「坂井商店」は、本枯れ節の生産量日本一を誇る鹿児島県指宿市に昭和25年創業。「やさしい節づくり」を掲げ、本枯れ節にこだわり製造に取り組んでいる。「祖父の代から受け継がれる製法を守り、我が子を育てるように手間を惜しまず、一本一本に愛情を込めて製造しています」と代表取締役社長・坂井弘明さん。機械化せず、熟練した職人の手作業でつくられる本枯れ節は、全国鰹節類品評会で最高賞とされる農林水産大臣賞を連続受賞するなど、高く評価されている。
「旨みが凝縮された品質の高い本枯れ節を作るには、確かな目利きで選び抜かれた良質な鰹を使用することが大事です」と坂井さん。そのため坂井さん自ら指宿市内の山川港で水揚げされた鰹を競り落とし、原料として使用している。
その鰹の頭と内臓を取り除いて三枚におろし、98度で80〜120分かけて煮熱したら骨抜きを行い、骨を抜いた跡に鰹のすり身を塗りつけて整形作業を施すといった丁寧な仕事が光る。坂井さんは「この下処理を終えたら、カシやクヌギなどの堅木で20〜30日かけて焙乾します。脂肪酸を多く含む魚肉は空気に触れると酸化しやすく、油焼けなどを起こしやすいのですが、この焙乾を行うことにより、カビ付けを繰り返して天日干しする際に変質を防いでくれます。とても重要な工程のひとつです」と説明する。
鰹節の旨みと風味を引き出すカビ付け作業
焙乾の工程を終えて“荒節”が完成すると、いよいよカビ付け作業だ。荒節の表面を削った裸節に優良カビ菌を噴射し、一定の湿度と温度に保ったカビ付け倉庫で20日前後寝かせ、天日干しを行う。通常は2回行うことが多いが、坂井商店では4回繰り返すことでじっくりと旨みを引き出している。
「この作業には鰹の旨みを作り出すという重要な働きが隠されています。カビ付け作業をする際に節の表面に自然とカビが生えてきますが、均等に生えてくるわけではなく、節が含んでいる水分量に応じた量だけカビが生えてくるため、何度も繰り返して水分を少なくしていきます。言い換えるとカビによって水分を除去し、鰹節の旨みと風味を引き出す作業なのです」と坂井さん。
鰹をおろす作業から始まり、本枯れ節に仕上がるまでおよそ6カ月。水分がすっかりなくなり“世界で最も硬い発酵食品”が完成する。削るとふわふわ、口に含むと鰹の上品な風味が広がり、冷奴やほうれん草のお浸しなどの料理にかけていただくのもおすすめだ。
■DATA
坂井商店
鹿児島県指宿市山川福元6146
TEL.0993-34-0070
https://katsuobushiou.com/
⽇本⾷の未来地図をデザインするために、発酵醸造に特化したシンポジウム。「Fermentation Future Forum(F3)」が2022年再始動します。
http://fermentationfutureforum.org/
当記事に掲載されている情報は、2017年にスタートした「F3|発酵醸造未来
フォーラム」の活動で取材された当時のものです。
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PROFILE
buono 編集部
使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。
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