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<国境の島、未来の海>「盾」であり「窓」である対馬を、シーカヤックで旅する。【前編】|Paddle on the WILDSIDE -全天候型放浪記-

九州の北方に浮かぶ対馬は朝鮮半島からわずか50kmに位置する“国境の島”だ。
古代から重要な防御拠点であり、同時に大陸と日本とを繋ぐ文化の架け橋でもあった。
そんな「盾」であり「窓」である対馬を、シーカヤックで旅した。

文◎ホーボージュン
写真◎山田真人
協力◎対馬観光物産協会

日本史に頻出するツシマってなんだ?

博多港を深夜0時に出港する深夜フェリーに乗り込み、僕らは対馬へと渡った。ピックアップトラックには3艇のシーカヤックと1艇のダブル艇が積んである。これから野郎5人で〝国境の島〞を旅しようという魂胆だった。

今回のメンバーは福岡でシーカヤックガイドをしている〝玄海灘男〞こと松本テツ、同じく福岡在住でザ・ノース・フェイスを担当するモト、本誌編集長のヒナ、カメラマンのマコト、そして僕。何十年も共に陽に灼かれ、潮風に晒されて生きてきた中年パドラー5人組である。

ここ対馬は僕らのような旅系シーカヤッカーにとっては憧れの島のひとつだ。地形的には断崖続きの外海と瀬戸内海のように穏やかな内海を併せ持ち、リアス海岸の複雑な地形のおかげで海岸線の総延長は900㎞にも及ぶ。こんなに大きくも変化に富んだ島は日本広しといえどそうそうないのだ。

さらに博多からは航路で130㎞以上あるのに、韓国の釜山までは50kmもないという異国感も僕らの憧れを掻き立てた。

こういった地理的条件から対馬は古代から大陸との交易で栄え、3世紀に記された『魏志倭人伝』にはすでに「対馬国」として登場している。そしてその後の日本の歴史にも何度も登場する。たとえば7世紀にはここに国防の最前線として山城が築かれ、13世紀にはモンゴル帝国(元)による二度の元寇の激戦地になった。16世紀後半には豊臣秀吉による朝鮮出兵の中継地に、そして江戸時代には華やかな朝鮮通信使を迎える玄関口となり、日露戦争では東郷平八郎率いる日本海軍がロシアのバルチック艦隊を撃破した対馬沖海戦の舞台としてドラマチックに描かれた。対馬は日本の「盾」として、あるいは「窓」として、我が国の国史に欠かせない存在なのだ。

▲フェリーが着いた巌原港では「hotel jin」に投宿。155年前からある古民家をリノベしたデザイナーズホテルだ。
▲広い室内でカヤックを組み立てさせて貰った。
▲なにはともあれ乾杯&刺し盛り。おっさん旅の至福の時間。
▲ダブルキャブのピックアップに4艇のカヤックと野宿道具を積み、野郎5人で旅をする。学生時代のようで楽しい。

ツシマヤマネコの棲む深い森

対馬上陸の初日は猛烈に風が強かったのでパドリングは諦め、まずは島内探検のドライブに出かけた。

「デカいなあ。なんだか奄美かヤンバル(沖縄本島の北部)の森を走ってるみたいだ」とだれかがいう。その言葉に僕もうんうんと頷いた。

対馬は南北82kmもある大きな島で、その約90%が山岳林に覆われている。平坦な土地がほとんどなく、入り江に点在する集落以外はどこもかしこも急峻な山ばかりだ。緯度は低くないのだが、対馬海流の暖かな海に囲まれているせいか森林相は亜熱帯のようで、島を貫く国道382号線の路肩にはシイやクスノキなどの常緑広葉樹が繁り、足元はシダ類で覆い尽くされていた。

「いかにもツシマヤマネコが棲んでいそうだよね」と呟くと、案内をしてくれていた対馬観光物産協会の西 護さんが「このあたりには目撃情報も多いんですよ」と教えてくれた。

ツシマヤマネコは対馬の特有種で、アジア一帯に棲息するベンガルヤマネコの亜種とされている。約10万年前の最終氷期に対馬が大陸と陸続きだったころに祖先が移住し、その後、海面が上昇して対馬が孤島化したことで独自の進化を遂げた。

じつは対馬にはサルもクマもキツネもタヌキもいないので、島内の生態系では頂点捕食者として君臨していた。かつては全島で見られたが交通事故や棲息地の分断により急激に頭数が減ってしまった。現在の推定棲息数は100頭弱。環境省第4次レッドリストの絶滅危惧種に分類され、懸命な保護政策が行なわれている。

この日僕らは対馬野生生物保護センターにも行ってみたのだが、施設の軒下にドテッと寝そべって雨宿りをする姿はヤマネコというより近所のボス猫みたいな感じだった。額の縦ジマや灰褐色の斑点模様もイエネコっぽいし、胴長短足だからあまり精悍そうには見えないなあ……。

ちなみに沖縄のイリオモテヤマネコとは同一種だ。そして両者ともに交通事故と棲息地分断という「人間都合」で絶滅の危機に瀕しているのも共通だ。ふたつのヤマネコは遠く海を隔てながらもこうして響き合い、未来への警鐘となっている。いろいろと考えさせられるヤマネコ見学だった。

その後、僕らは対馬最北端の岬にある「韓国展望所」を訪れた。そこからの展望にびっくり。肉眼でもはっきりと釜山の高層ビル群が見えるのだ。ここからの直線距離は49.5㎞。腕のあるパドラーならシーカヤックで渡ることも可能だろう。

この展望台のすぐ前には航空自衛隊の大きなレーダーサイトがあった。双眼鏡でのぞくと制服姿の隊員の姿も見る。ここのほかに島内には陸上自衛隊や海上自衛隊の警備隊も駐屯し、監視・防衛活動を行なっている。東京にいるとピンとこないが、有事の際は最前線になる〝国防の島〞でもあるのだ。

「島の人たちは自衛隊を歓迎しているみたいですね。まあ、元寇の経験があるから、いまでもいろいろ緊張感があるでしょうね」と福岡生まれの玄海灘男がつぶやく。

文永の役では船900艘・4万人、弘安の役では船4400艘・14万人もの大軍が対馬、壱岐、そして福岡に襲いかかり、わずか80騎の戦力しか持たなかった対馬警備隊は全滅。島民は獰猛な元軍によって大きな被害を受けた。21世紀のいまはさすがにそのようなことはないにしても、その史実や恐怖心が消えることはないだろう。

▲対馬野生生物保護センターにいるツシマヤマネコの「かなた」くん。福岡市動物園生まれで2019年に故郷の対馬に帰ってきた。大きな体格でだいぶおっとりしていた。
▲対馬最北端にある韓国展望所。韓国の建物をイメージして作られた。晴れた日には釜山市の街並みが望める。
▲大陸を眺めながら作戦を練る。

美しい砂浜を埋め尽くすゴミの山

翌日から僕らは沿岸ツーリングに出かけた。まずは島の東側に広がる外洋を漕ぎ進み、三浦湾に浮かぶK島という無人島を目指す。2日目も少々風がありところどころに白波が立っていたが、今回のメンバーにとってはそれほど大きな問題ではない。空は晴れ渡り、気持ちの良いパドリングができた。

外洋には碧く大きなウネリがあった。これが有名な対馬海流だ。これは黒潮が東シナ海を北上する過程で分岐し、それが日本海へと流れ込んでいるもの。いわば黒潮の支流といっていい。

しかし黒潮に較べると流速はそれほど速くはない。海図を見ると速い場所でも1ノット(時速1.8㎞)程度だ。パドリングに不安を与えるようなことはない。

水面に手を差し込むと海はとても暖かかった。ざっくり26〜27℃ほどだろうか。この暖流が運ぶ栄養豊富な海水がプランクトンの繁殖を促し、それを餌とする魚類が集まって来る。だから対馬周辺はとてもよい漁場になっているのだ。

県外からの釣り客も多く、フェリーの乗客は自衛隊員と釣り客ばかりだった。船の中で博多から来たおっちゃんと話をしたが、春はアジやメバル、夏はイカやアナゴ、秋から冬にかけてはブリやヒラマサがよく釣れるそうだ。でもおっちゃんの目当ては巨大なクエ。沖の磯場に渡船で渡して貰うと20kgとかの超大物が狙えるらしい。20kgっていったらウチの小学1年生よりだいぶ重い。そんなのいったいどうやって釣り上げるのだろうか。

釣り好きの玄海灘男もカヤックの上から竿を出している。けっこう大きなジグを引っ張っているようだけど、どうなるかな。あまりデカい魚だとカヤックごとひっくり返るぞ。対馬の海はそんな心配をしてしまうほど豊かなのだ。

***

その日は予定通り、狙っていたK島に到達することができた。ここは灘男が海図と航空写真で見つけてきた無人島なのだが、三日月型の島の内側が広い白砂のビーチになっていてシーカヤックで上陸するのに具合が良さそうだった。また弧の両端はちょっとした岩山になっていてどちらから風が吹いても風裏に逃げ込める。海底も白砂なのか、湾内はエメラルドグリーンに輝いていた。ビバーク地としては最高の島に思えた。

ところが……。「ヒャッホー!」と雄叫びをあげて近づいた僕らは目を疑った。白砂のビーチを埋め尽くしていたのは、ゴミ、ゴミ、ゴミ……。ペットボトルやコンテナ、プラスチック容器、発泡スチロール、そしてのたうち回る漁網やロープ。どれも典型的な漂着ゴミだった。

「ナニコレ……」

あまりの状況にみんな絶句している。東シナ海沿岸やトカラ列島では中国語やハングルが書かれた漂着ゴミを見ることもめずらしくはないし、僕もこれまでずいぶん沢山の「ゴミ海岸」を目の当たりにしてきた。しかしこの状況は尋常じゃない。まるでゴミの島に上陸してしまったみたいだ。海はおそろしく美しい。ビーチも極上。それだけにそのコントラストが強烈に脳裏に刻まれた。

▲衛星写真で見たときは白砂のビーチが広がる夢のような島だったのだが……。タイドラインにプラスチックの漂着ゴミがあふれていた。
▲漂着ゴミを避けるようにしてキャンプスペースを確保。暗くなってしまえば、いつもと同じキャンプ風景だ。
▲この夜のメニューは博多名物の水炊きとプルコギ的まぜゴハン。日韓対決である。いや間違えた。日韓交流である。
▲流木も死ぬほど流れ着いている。だから調理はもっぱら焚き火で行なった。
▲メンバーはみんなすっかり白髭になってしまったが、無駄に腕力と体力だけはある。向かい風でも逆潮でも元寇でもなんでも来い!
▲釣り好きの玄海灘男はヒマさえあればロッドを振っていた。対馬海流に洗われるこの島は、巨大カンパチや20~30kgクラスのクエなどの大物釣りの宝庫。

 

【後編】では…

対馬を拠点とする方をガイドに、浅茅湾を漕ぎ進む。そして、K島で目にしたおびただしい数の漂着ゴミについて質問してみると……。今回のシーカヤックツーリングの装備リストも掲載しています。

※※※

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フィールドライフ 編集部

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2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。

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