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憧れの白馬バックカントリー|グレイトフル・デイズ
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フィールドライフ 編集部
- 2020年02月05日
初めてバックカントリーを滑ったのは、スノーボードを始めて3シーズン目。白馬の山だった。まだだれも滑っていないまっさらなスロープを求めて、再び白馬の山へスノートリップ。
スノーボードを始めたすぐのころから、気がつけば柔らかいパウダーが好きだった。雪が降れば非圧雪コースのパウダーへ果敢に突っ込み、転がり、雪まみれになりながら滑っていた。そして山をやっていた僕は、スキー場の奥に見える真っ白な山を見ながら「あそこを滑ってみたい」と、バックカントリー(BC)を滑ることに強くあこがれていた。そしてスノーボードを始めて3シーズン目、ついにそれを実現したのが白馬の山だったのだ。
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今回、これ以上にない滑り出しでカタさんも僕もいい気分だった。白馬に入った初日は、肩ならしのはずの岩岳スキー場がまさかのドパウ(ドパウダー=深雪)。2日目に滑り仲間と入った栂池BCでもいい雪を当てていた。しかも小1時間のハイクで1本目に滑った斜面は、僕にとって初めての場所で、地形も刺激的でおもしろかった。
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白馬というエリアは、ある意味で山と街の境界線が存在しない。3000m級の北アルプスの連なりが、麓の街から絵を眺めるような感覚で見渡せる。こういう環境だからこそ、白馬岳に北アルプス初の山小屋が誕生し、村全体に山の文化が根付いたのだろう。BCエリアにアクセスするにしても、リフトを利用すればハイクが30分で済んでしまう場所があるのも、白馬の特徴であり魅力だ。
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「明日は山の上どうですか?」「そうね。雪はいいとして、あとは風次第かな〜」。天気とコンディションが気になる僕らは、カラースポーツクラブのクラブハウスでトネさんにアドバイスを求めていた。
カラースポーツクラブ代表の舎川さん(トネさん)は、白馬BCのパイオニア的存在である。僕がBCを滑り初めたころ、トネさんは冬の間に白馬の麓でテント生活をしながら、山に登り次々とルートを開拓していったという、僕にとって憧れの人だ。
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雪の降り方や風の吹き方などの、そのエリア特有の気象条件と、斜面の向きや日照時間などの複雑な条件がからむ山の現況は、その地に住んで山に入っている人に聞くのが最善の方法だ。その条件次第で、いかにその日楽しい斜面を滑れるかだけでなく、雪崩や滑落などのリスクも大きく変わってくる。それらを基に自分で最終判断するのが難しければ、カラースポーツクラブも開催しているようなガイドツアーに入るのが一番である。
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八方尾根スキー場のトップに向かうリーゼングラートのリフト上で、僕らは風に大きく揺られていた。昨晩、暖かいクラブハウス内で想像していた風は、それ以上のものだった。八方池山荘で登山届を提出し、すぐにハイクを開始。まだ山のてっぺんはガスで覆われたままだ。
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しばらく黙々と歩き、下ノ樺(しものかんば)に到着。ダケカンバが生え、この尾根上で唯一、少しだけ風を避けられるこの場所で小休止を入れる。いつものチョコレートを口にしながら「風止むかな〜!?」と、ひとり言のようにつぶやくと、カタさんは上部を見つめてポツリ、「まだまだ強そうだね」とだけ言った。
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その見つめる先にある2361といわれるピークに目をやると、すごい勢いで雪煙が巻きあがっていた。急にやせ細った尾根を登りながら、北東からの強烈な風で体ごと吹き飛ばされそうになった。四つん這いで斜面にへばりつきながらなんとか進む。ふっと風が止んで後ろを振り返ると、同じように斜面にへばりついているカタさんと、下ノ樺あたりで滑走準備をしている別グループが見えた。
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この日は昼から急速に風が止み、天候も回復する予報だ。この時点で11時。僕らが目指す斜面はまだずっと上の方で、最低でもあと3時間は必要である。帰りや斜面を滑る上でのリスクを考え、斜面へドロップするタイムリミットを14時と決めていた。
2361をすぎ、丸山ケルンにやっとの思いでたどりつくと、この短い距離を進むのに30分もかかっていた。ついに姿を現した唐松岳は、雪煙で稜線が少しかすんで見えるほど風が吹き荒れているようだ。
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「今日は厳しそうっすね」。少しも弱まる気配のない風に、14時にはとても間に合わないと思った。おそらく2361あたりで気づいていたはずのカタさんも、「また今度だね」と言って、僕らは2361まで歩いて戻ることにした。
思えば初めての白馬BCもそうだった。栂池高原の雪原に張ったテントで1週間チャンスをうかがい、滑れたのはたった1日のみ。近そうに見えていた白馬の山の厳しさを思い知り、山が遠い存在に感じたのだった。
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氷化していない安全な斜面で滑る準備を整えると、ふたりともしばらく斜面を見つめ、だれも滑っていないまっさらなスロープに自分だけのラインを見出す。
「それじゃあ、あの小さい尾根の上でね」。そう言ってカタさんが先にドロップインした。風で少しパックされた雪はそれほど大きなスプレーは上がらないが、スピードに乗って気持ちよさそうにターンをつないで滑っていく。小さくなっていくカタさんが尾根の手前でひときわ大きなターンをしたとき、少し間をおいて、風の合間にはずんだ声が聞こえたような気がした。
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文・写真◎佐藤拓郎 Text & Photo by Takuro Sato
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PROFILE
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フィールドライフ 編集部
2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。
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