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カナダの北、ユーコン準州での犬たちとの暮らし|ユーコンで力こぶ

カナダの北、ユーコン準州での生活から見えてくる季節折々の日常をご紹介。今号のテーマは「犬たちとの暮らし」。

文・写真◎熊谷芳江 Text & Photo by Yoshie Kumagae
出典◎フィールドライフ No.58 2017 冬号

冬の一大イベントユーコンクエスト

ユーコンの冬でもっとも大きなイベントといえば、毎年2月に開催されるユーコンクエストである。
これはカナダ、ユーコン準州の州都ホワイトホースと、アメリカ、アラスカ州の州都フェアバンクス間の1600㎞をマッシャーたちが犬ぞりで走り抜けるインターナショナルレースだ。

出発地は毎年入れ替わり、2018年はフェアバンクスがスタート地点、ホワイトホースがゴール地点となる。レース中は地元の新聞やラジオがレースを特集する。また2011年以降、出場するマッシャーには、トラッカーというGPSで位置情報を確認できるデバイスを所持することが義務づけられたので、ウエブサイトで随時レース状況を世界中の人々がチェックできるようになった。

このため「クエストマッシャー」は地元ホワイトホースではよく知られる存在で、そのなかでもとくに有名なのがハンス・ガットだろう。

ユーコンクエストのレースで、ユーコン川の支流、タキニ川を走る。ハンスは、ユーコンクエストで過去最多の優勝4回。また、このレースのフルコース最速記録保持者でもあり、2010年に9日間26分という驚異的な速さで優勝している(レースは10日から16日間で終了することを予測して開催)。

私が初めてハンスを見たのは、やはりユーコンクエストのときだった。
レースの出発前には見物客も最終準備をするマッシャーたちを見学したり、話をしたりすることが許されている。

勢いのある犬たちとにぎやかにスタートするハンス。

私はその時間に、素人目から見てもソリに積まれた荷物がとてもコンパクトにパッキングされ軽そうに見えるソリに目をとめた。持ち主のマッシャーはそのときテレビの取材を受けていたのできっと有名な人なのだろうと思っていたが、後にそれがハンス・ガットだと知ることになる。

プロのドッグマッシャー

ハンス・ガット。

私はその後、縁あってハンスと知り合いになることができた。レース前に見たハンスは物静かな印象だったけれど、知りあってみるととても気さくな人だった。

ハンスもやはりユーコンの自然に惹かれてここに移住してきたひとりだ。彼の犬ぞりレースのキャリアは故郷のオーストリアで始まった。犬ぞりの大きなレースというのはアラスカやカナダで開かれることが多く、彼は27年前、オーストリアから犬40匹とともにカナダに移住することを決意した。

移住してすぐに、レースで結果を出し始め、スポンサーも付いた。ユーコンでのプロマッシャーとしてのキャリアが始まったのだ。

犬たちの移動に使う手作りのドッグトラック。窓のあるひとつひとつが小部屋になっている。

彼はいま、50匹の犬を飼っている。
「年間にかかる費用は、犬のエサ代だけで250万円ほど。獣医代が多いときで100万。それ以外にも装備費や諸経費がかかる」

多くのマッシャーたちは、これらの経費を稼ぐために仕事をする必要があり、犬ぞりのトレーニングと両立しなければならない。しかしハンスは、カナダ移住からレースをリタイアするまでの約24年間、すべての経費をスポンサーからのサポートで賄えた数少ないマッシャーだ。

過酷な犬ぞりレース

ドッグヤードは広く清潔。

彼にこれまで出場したなかで一番心に残っているレースを尋ねると、やはり最速記録を出した2010年のユーコンクエストだと言った。
「あの年はドッグチームもトレイルの状態も良く、また自分のレース計画にもまったくミスがなかったんだ」と目を輝かせた。

トレイルの状態や気候というのは、マッシャーにはどうしようもないことだ。ひとつのレースのなかでも、プラスの気温から、マイナス40℃まで下がることもあるという。ハンスは、いままでさまざまな気候条件のなかでレースを行なってきたし、その条件にいかに対応できるかは、勝負の決め手のひとつだという。過去のレースで経験した最低気温を尋ねたら、マイナス52℃というとんでもない答えが返ってきた。

そして、彼にとって犬ぞりレースでのチャレンジで最大の心配事は、レース中、いかに犬たちの健康状態を保つかだという。
「とにかく、ドッグファーストだ。彼らは僕のベストフレンドだから。レース中は、ユーコンやアラスカの雄大なウィルダネスで自分と14~16匹の犬だけの世界になるんだ。犬たちはいつも自分の側にいてくれる、とても愛おしい存在になるし、犬と僕との関係は言葉では言い表せないものなんだ」

マッシャーたちは、レースが始まれば夜通し犬と走り続けることも多い。彼らはレース中、どんなことを考えているのか。やはり暖かいベッドや食事が恋しくなるのだろうか。
「自分のことなんて考えることはない。走っているときは犬の健康状態のことかレースの駆け引きしか頭になく、常に時計をチェックしているよ」という答えが返ってきた。

つまり、10日前後の間、ずっと緊張状態にあるということで、体力はもちろんのこと、彼の精神力のタフさに恐れ入った。
そんなハンスも、3年前には本格的なレースからリタイアした。理由は、指などに数々の凍傷があり、もう昔のようにマイナス40℃、50℃のなかでベストの状態でレースをすることができなくなったからだという。

餌の時間。ドッグハンドラー(犬の世話の手伝いをする人)のもとに犬たちが駆け寄る。

「メタルなどを触ると、痛みが激しくてとてもレースを続けられないんだ」
70代になってもレースを続けている人もいるけれど、ハンスにはそのつもりはないそうだ。
「自分の年齢を考えても、僕にとってマッシャーとしてのベストタイムはすぎた。そのことを受け入れたんだよ」

しかし、レースからリタイアしても、彼の暮らしは犬、そして犬ぞりとともにある。いまは自分がデザインしたソリを作って売ったり、また昨年から飼い主の留守中に犬を預かるビジネスも始めた。このための建物も「犬小屋」ではなく「ドッグホテル」のような立派なものを、こだわりや愛情を込めて手作りで仕上げた。

さらに今年から、ツーリスト向けの犬ぞりツアーも始めた。まったく新しい試みだけれど、ガイドとして経験をシェアすることはとても楽しいという。
彼が犬を飼い続けるのは、やはりそこに深い愛情があるからだ。ハンスが犬たちを抱く姿を見ると、その思いが伝わってくる。

そして、犬との暮らしは日々の暮らしに冒険も与えてくれる。「今度、いっしょに犬ぞりに行こう」とハンスが誘ってくれた。世界的なマッシャーとともに、ユーコンの森を走る日が楽しみだ。

熊谷芳江(くまがえ・よしえ)

カナダ・ユーコン準州ホワイトホース在住。Sweet River Enterprises 代表 カヌーガイド。北に憧れ、この地に住み始めて22年。カナダでのアウトドアライフを楽しみつつ、相変わらず世界各地も旅して回っている。語学留学やカヌーツアーで当地を訪れる日本人から「屈強な姉さん」と呼ばれながら、ユーコンの魅力を伝えている。www.yukonriver.com

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PROFILE

フィールドライフ 編集部

フィールドライフ 編集部

2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。

フィールドライフ 編集部の記事一覧

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