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旅して楽しむ「自転車と釣り」 ライド&フィッシュin天草

「自転車で釣りに行く」、ライド&フィッシュは身近なアウトドア遊びだ。四方を海に囲まれ、内陸には無数の川が流れる日本では、都会田舎を問わず、必ず自転車で遊べる魚たちがいる。春に横浜でアジを釣ったときは、こんな都会でも身近に魚がいることに驚いたものだった。

本格的な夏を迎えようとしている今日このごろ、旅に出たくなる。せっかく自転車もあるし、釣り竿もある。自転車旅をしながら、知らない土地で釣り竿を振るなんてぜいたくな遊びではないか。問題はどこへ行くかだ。日本は広い。とにかく縦に長い。北と南では釣れる魚も、走る風景も変わってくるから、どこに行くかは重要だ。

ライド&フィッシュの旅を考えていると、シマノスクエアの蔭山店長が自分も行きたいと言ってきた。彼とは昨年に日本の北端、北海道は宗谷岬で自転車と釣り旅をしてきた。そのときのライドと釣果が忘れられないようだ。

行き先は九州・熊本!

昨年は北に行ったから、今年は南という至極シンプルな思考回路で、九州に行くことにした。じつは熊本県にはシマノの釣り竿を製造する工場があり、蔭山さんのはからいで特別に見学取材をさせてもらうことになった。大人の工場見学を組み込んだ、ライド&フィッシュの旅へと出発!

阿蘇くまもと空港で落ち合った我々のバイクは共にグラベルロード。旅と釣り道具一式を積むのに、積載性に優れながらロードバイク的な軽快性を誇るグラベルロードは使い勝手がいい。ライド&フィッシュをプッシュしているシマノスクエアのイチオシもグラベルロードだという。

▲ライター小俣の愛車キャノンデール・Topstone Carbon 4は正統派グラベルバイク。

一路、シマノ熊本工場へ向かうと、出迎えてくれたのは坂本哲也さん。熊本ローカルにして、九州地方のバスフィッシングトーナメントでは幾度もチャンピオンに輝く凄腕の釣り人だ。このシマノの工場で釣り竿製作に携わって13年になるという。

▲シマノの熊本工場で現在は塗装を担当する坂本哲也さん。20年以上のキャリアで、さまざまな釣り竿製造に携わってきた。バスフィッシングの強豪トーナメンターとしても活躍中。

坂本さんの案内で、早速工場を見学させてもらう。内部の撮影がNGなため、写真でお伝えできないのは残念だが、驚くほど多くの人たちが、手作業で釣り竿を仕上げていくのには驚かされた。釣り竿は工業製品としてオートマチックにできるものだとばかり思っていた。各工程で担当の方が入念に作業をしているのを見ると、それはまさしく職人の仕事であって、大量生産品だとは到底思えない。

大量生産品、という言葉は適切ではないかもしれない。というのもこの熊本工場で製造される釣り竿は、シマノが誇るハイエンドモデルだけなのだ。40万円を超える(!)という鮎の友釣り用の竿から、ブラックバス、海のジギング、へらぶな、対大物用のべ竿まで、シマノの技術の粋を詰め込んだ高級ロッドだけがここで人の手によって生み出されている。

たしかにそれらの釣り竿のプライスタグだけを見ると高額だが、この工場見学を経たあとでは、むしろなぜこの金額で売ることができるのか不思議であった。強度試験を行なう施設もあり、これでは販売はできないと最終段階で弾かれた製品も散見された。メイドインジャパンのクオリティはこうやって担保されているのだと、胸のすく思いがした。

熊本の釣りポイントは天草

あらゆる釣りに精通する坂本さんに、熊本での釣りポイントを聞く。天草地方は釣りの絶好のポイントだという。熊本市街に住む人にとっても遠い場所だ。自転車で走るにも、世界遺産でもあり独自の文化が息づく天草なら新しい風景に出会えるだろう。旅の行き先は、天草となった。

▲坂本さんのポイント解説を熱心に聞く旅人2人。

天草の海岸線を自転車で走る。そこかしこに現れる看板には「イルカウォッチングツアー」の文字。どうやら眼の前に広がっているのは、相当に豊かな海らしい。そして釣り人は、水辺を見ると我慢ができない。めぼしい漁港で早速釣り竿を出すことに。

夕マズメのチャンスを狙ったが、残念ながら反応は無し。今日の宿へと急がねばならないから、再び自転車に乗って天草地方を南下する。明日はたっぷり釣る時間があるから焦らず、ライドを楽しむ。

天草は熊本の西の外れに浮かぶ大きな離島だ。関東の民としては、社会科で習った「島原の乱」での記憶が強い。現在は「島原・天草一揆」と呼ぶようになっているそうだが、17世紀にこの地で蜂起したキリシタンたちを率いた天草四郎の名前も思い出される。

2018年に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界遺産に登録されたように、日本の風景に西欧風の教会が混ざり込んだ独特の景観をもつエリアでもある。釣り場を求めて自転車で走っていると、意図せずそうした遺産にぶつかる。

そして自転車でこの地を走ってみると、迫害されたキリシタンたちがなぜこの地へと逃れてきたかがよくわかる。想像していたよりもずっと山深く、隠れ里という表現がぴったりな集落が山間にときどき現れる。県道では新たなトンネル掘削工事が行なわれていたが、いまもなかなかの峠越えをしないと南へたどり着かない。いわんや400年前のこの地の辺境さは想像に難くない。

魅力的な崎津集落

しかし、山を越えて港町まで下っていくと、その印象も一変する。港町であるからか、崎津集落はどこか開けていて、住人の方たちも自転車姿の私たちに陽気なあいさつをしてくれる。日本の港町の景色のなかに、西欧風の教会が自然となじんでいる。不思議な場所だ。

あとで知ったことだけれど、この崎津集落は件の一揆のときにも、あまりにほかの地域と隔絶していたために乱があったことが伝わっていなかったのだという。どこか暗い影が薄いように見えたのは、そのせいかもしれない。入り組んだ湾の入口に位置する崎津は漁村としても栄えた場所。魚影は濃いに決まっている。

▲崎津集落。教会堂が見下ろす港町の景観。だいぶ南なはずなのに、どこか北欧的にも見える。

前日に工場を案内してくれた坂本さんとこの崎津で再び合流した。クルマでも熊本市内から2時間以上かかるから、「本当に自転車で釣りをしに来たんですね」と少々驚いているようす。ルアーを投げるその動作のむだのなさは、「釣りウマ」のそれだ。

この漁港ではハマチやカンパチの幼魚(九州ではツバスやネリゴとそれぞれ呼ばれる)、あるいはカサゴやハタなどの根魚が釣れるという。我々は意気揚々とメタルジグやミノーを投げ込んでいく。はるばる九州、それも熊本の人でも「けっこう遠いですよ」という天草までやってきたのだから、いつ竿が絞り込まれてもおかしくない。

……のだが、なかなかアタリは来ない。

▲すぐ釣れると思ったのだけれど……。

たまに水面を魚がばちゃばちゃっと跳ねるが、肝心のルアーをなかなか食べてくれない。蔭山さんも僕もじりじりとしてくる。そんななかで結果を出したのは、やはり地元アングラーの坂本さんだった。

「全然小さいですけど」と言いながら釣り上げたのはキジハタ。九州ではアコウと呼ばれる美しいハタだ。その後、この釣りを掴んだ坂本さんが連続して釣り上げることに成功。その横でまったく釣れない我々を憐れんでか、「よかったら使ってください」と坂本さんのワーム一式を貸してもらい、釣り方を教わる。

……するとたちまちにヒット! 釣れてきたのは、小ぶりなカサゴだったが、はるばるやってきた天草での一尾、大きさに関係なく嬉しい。同時に坂本さんにも釣れてダブルヒットだった。

楽しい釣りの時間はあっという間。残念ながら大物は釣れなかったけれど、自転車旅のなかで魚と出合えたことに満足しつつ、坂本さんに別れを告げ再びペダルを漕ぐ。

起伏がある天草の地形をうらめしく思うことも度々あったが、最後に夕日に包まれると、すべてがこの瞬間のための旅だったのだと納得する。日本のほとんど最西端での夕日はとても美しく、まじりっ気のないものだった。

旅へ出るのに最高の季節がまもなくやってくる。それはつまり、自転車に乗って、釣りに行くのに最高の季節ということだ。

RIDE & FISH 天草 バイク&ギアチェック

▲蔭山さんのダボスM-605・オールテレイン。リアにキャリアを使用し、パニエバッグは水辺での使用を想定してブルックスの防水コレクションであるスケープシリーズをチョイス。横から見るとシンプルだが……
▲少し角度をつけるとご覧の通り。ロッドケースをフォークのダボ穴を活用して2つ装着している。旅の釣りではどんな魚が釣れるかわからないから、様々な種類のロッドを持ち込む必要がある。
▲パニエバッグもダブル体制。中には釣具がギッシリ。
▲小俣のキャノンデール・Topstone Carbon 4は比較的コンパクトに荷物をまとめている。
▲オールドマンマウンテンのラックを使用し、トピークのヴァーサケージを合わせることでロッドケースを垂直に固定している。
▲タイヤはパナレーサー・グラベルキングX1の40C。舗装路でも軽快に転がるグラベルタイヤ。つい2週間ほど前にはこのタイヤでニセコグラベルを走っている。
▲今回のメインロッドはシマノのパックロッドシリーズ・フリーゲームのS86M。陸からの海のルアーフィッシングに広く対応する。5ピースで仕舞寸法56.4cmとコンパクト。運びやすい。リールはエクスセンスBB。
▲残念ながら釣果はなかったが、イカが泳いでいるのを多数目撃した。イカを釣る「エギング」のためのロッドセフィア エクスチューン MB S86MLも5ピースで、仕舞寸法は55.8cm。自転車で運ぶのに都合がいい。リールはセフィアSSのC3000SHG。
▲天草で投げ倒したルアーたち。目立った釣果があったのは、左上のエビを模したワームだった。

 

【自転車×釣り】注目の新ジャンル「RIDE&FISH」の世界

「RIDE & FISH」はその名のとおり、ライドとフィッシングを組み合わせた遊び方。

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フィールドライフ 編集部

フィールドライフ 編集部

2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。

フィールドライフ 編集部の記事一覧

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