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荻窪圭のマップアプリ放浪「洪水から江戸を守れ! 江戸時代初期の地形大改変の巻」

東京の地形が変わるのはけっこう昔から

東京って常時どこかしらでスクラップ&ビルドしてるのは誰もが感じるところで、特にここ10年くらい激しいよね。まあオリンピックまでになんとかってのもあるだろうけど、崖は削られ、海は埋め立てられビルは建て直され、新しい駅が作られ、大正時代の貴重な駅舎もどうもなくなりそうな気配。

だから、常に変化し続ける都市といえば聞こえはいいけど「もうちょっと古いものを大事にしようよ、自然を大事にしようよ」と言いたくなるのもわかる。「昔の日本人はもっと古いモノを大事にしてた。もっと自然と調和してたものだよ……」などと。でも、いろいろと歴史を知るようになると「どのくらい遡れば『自然と調和していた昔の日本人』なの?」とも思うこともある。

徳川家康から家光の東京大改造時代

東京を一番最初に大改造……台地を削り、海を埋め立て、川の流路を変え、水路を掘り、と土地を改変しまくったのは誰か?徳川家康である。徳川家康からの伝統なのだ。

その伝統がいかんなく発揮された場所の話をしたい。

まあだいたい徳川家康から家光くらいの時代が最初の『東京大改造』時代と思っていい。その象徴は、地図を見ればわかる。

例によって『スーパー地形』アプリの画像。標高差がわかりやすいようオリジナルのパレットで色づけをし、地図への注釈はスクリーンショットを撮った後にiPad版の『Annotable』という注釈アプリで行っている。このアプリ、初期の頃から使ってるけどものすごくよいのだ。パソコン版も作って欲しいくらい。iOS標準のマークアップ機能も味があっていいけど、機能的には『Annotable』が圧勝だ。ツールも多くてシンプルで使いやすい。

愛用しているAnnotableはこんなインターフェイスのアプリ。Annotableで注釈を入れるのが便利だ。

お茶の水にある『不自然な地形』

で、この地図+地形図を見ると明らかに一箇所「地形的におかしい」ところがわかるはずだ。お茶の水周辺である。

台地を川が一直線に横切っているけれども、こんな地形が自然にできることは絶対にない。水はそんな風には流れない。

「台地を川が横切るのはおかしい!」お茶の水周辺の不思議な地形の図。

実はここ、江戸時代初期に『神田川(当時は平川と呼ばれてた)の流路を無理矢理変える』ために作られた人工流路なのである。命じたのは江戸幕府。徳川が賢かったのは、命じるだけで自分ではやらないこと。有力大名に命じて、コストも全部負担させて、幕府の懐は一切痛まないで江戸を大改造するというおそろしい一大プロジェクトを随所で行ったのである(天下普請と呼ばれる)。

お茶の水に神田川を掘ったのは伊達政宗の仙台藩。有力な外様大名に財政負担を強いることで力を削ぐというメリットもあった。さすが家康は賢い。

不自然な地形だから起こる出来事

江戸時代前期(1672年)の地図に『御茶ノ水』とはっきり描いてある。右上の『明神』は神田明神のこと。出典:『新板江戸外絵図』。国立国会図書館デジタルコレクションより(https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1286188/1

ではそのお茶の水あたりがどんな地形か、川の上から見てみよう。JR中央線で四谷かお茶の水へ向かう途中に左の車窓を見てるとよくわかるが、ここでは川面から見上げてみた。

ちなみに、江戸時代前期にはきれいな水が湧いていて、徳川秀忠がその水を気に入って『お茶の水』と名づけたとか。もっともこの水も江戸時代中期の川の拡幅で涸れちゃったそうである。

ここの地形を感じるには東京メトロ丸の内線がいい。丸の内線は地下浅くを通っているため、人工的に掘った崖から飛び出してまた次の崖に潜り込むという瞬間を見ることができる。

神田川水面から見た聖橋とJRお茶の水駅。JR中央線の車両が止まっている。
お茶の水で一瞬地上に出る丸の内線の車両。人工の谷ならではの不思議な光景だ。

上の2枚の写真は、日本橋を起点に東京の川を船でぐるっと廻るクルーズに参加したときのもの。常時運行しているので、東京の地形や歴史を味わうのに超おすすめです。

では江戸以前には川はどう流れていたか?

さて、江戸時代初期、台地(今は駿河台、往古は神田山と呼ばれていた)を深く掘って流路を大きく変えた。

なぜそうしたか? 治水対策である。

ではかつてどう流れていたか。地図にiOS標準の『マークアップ』機能を使って注釈をいれてある。手書きっぽい雰囲気の線を入れるにはこっちの方が良いからね。

青線が昔の川の流路。iPadOS 純正の注釈機能で、超おおざっぱにフリーハンドで描いてみた。

神田川は室町時代までは『平川』と呼ばれていた。そこに北からくる小石川、南西からくる紅葉川(今の江戸城外堀の元となった川)などなどが合流し、ぐぐっと南下して江戸城の真ん前を通り、日比谷あたりで海に注いでいたのである。内幸町から日比谷あたりは『日比谷入り江』と呼ばれている浅い入り江になっており、銀座から新橋あたりは『江戸前島』といって半島状の陸地だった。だから川は日本橋や銀座の方にはいかず、南下してたのである。

地質図を見て江戸より前の地形を推測する

江戸城の城下町を作ろうにもこれでは水害が多くて発展は望めない、よし、日比谷入り江を埋め立てて陸地にしよう、と思うのはわかるよね。

と、わたしは江戸の歴史本を読んで知ったのだけれども、その手の歴史本は本当にアテになるのか? 本当にもとの流路はそうだったのか? ネット世代の我々は根拠を必要とするのである。

そこでスーパー地形の出番。スーパー地形の地図を『シームレス地質図+スーパー地形』に切り替える。

すると次のように地質別に分類した地形図が現れる。

シームレス地質図V2+スーパー地形で地質を知り、昔の地形を想像する。H_sadは 『谷底平野・河川』、H_svdは自然堤防を意味するらしい。

記号を見てもわかんないけど、今の日本橋から銀座辺りに記されている『H_svd』を調べてみると『自然堤防堆積物』とある。

対して、神田川流域や海に近い方にある『H_sad』を調べてみると『谷底平野・山間盆地・河川・海岸平野』とある。

自然堤防は川に流れてきた土砂が堆積してできた自然の微高地なので、昔の川はこの自然堤防に沿って南下していたことが推測できるのだ。

この地質図がそのまま江戸時代以前の地形を表しているわけではないのだけど、神田川の流路はかつてどうだったかを偉そうにいえるくらいの論拠にはなるだろう。

ちなみに、日比谷に注ぎ込んでいた時代とお茶の水の台地を貫くようになった時代の間に、もうひとつ別の流路の時代があった。

日本橋から隅田川へ注ぎ込む、今の日本橋川のルートだ。この流路変更を行ったのは室町~戦国時代だったという説も、徳川家康だったという説もあって、いつのことだったのかはよくわからない。

ともあれ徳川家康の時代に神田山(お茶の水の南側の台地)を削って、日比谷あたりを埋め立てて陸地にし、大名たちに割り当てて、城下町をつくったのである。日比谷から内幸町あたりは江戸時代の埋め立て地だ。

つまり、斜面をけずって地形を変えたり川の流路を変えたり海を埋め立てて陸地にしたりっていう東京大改造(当時は江戸だけど)のルーツは徳川家康であり、その伝統がずっと受け継がれていると言って過言じゃないのである。

今回紹介した地図アプリは「スーパー地形」

『カシミール3D』を開発したDAN杉本氏が手がけた地図アプリ。地形や各種地図を重ねて見られる他GPSログ機能もある。
「スーパー地形」
販売元:Tomohiko Sugimoto 取材時のバージョン:4.0.6
価格:無料(App内課金、機能制限解除980円)

■App Storeで「スーパー地形」をダウンロード
■Google Playで「スーパー地形」をダウンロード

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(この記事は『flick! 2020年4月』に掲載された「荻窪 圭のマップアプリ放浪」を再編集したものです)

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PROFILE

荻窪圭 

flick! / ライター

荻窪圭 

老舗のIT系ライター、デジカメライターなるも、趣味が高じて『古地図と地形図で楽しむ東京の神社』(光文社知恵の森文庫)など歴史散歩本執筆や新潮社の野外講座『東京古道散歩』講師なども手がける。 https://ogikubokei.blogspot.com/

荻窪圭 の記事一覧

老舗のIT系ライター、デジカメライターなるも、趣味が高じて『古地図と地形図で楽しむ東京の神社』(光文社知恵の森文庫)など歴史散歩本執筆や新潮社の野外講座『東京古道散歩』講師なども手がける。 https://ogikubokei.blogspot.com/

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