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荻窪圭のマップアプリ放浪「なぜ、青山通りの方が六本木通りより 起伏が少ない? その秘密は歴史に」

渋谷の谷から都心に伸びる2本の道

もう20年近く前、自転車にハマりはじめた頃はどこへ行くにも自転車で走ったものである。それこそ都心部で取材とか打ち合せといった仕事案件も含めて。自転車服で汗だくで取材に行くわけでもいかないので、自転車を止めて着替えてから訪問したりしてたものである。ハマるっておそろしい。

でもあの頃はiPhoneもなく、頼りになるのは紙の地図。読み取れる内容には限界がある。

世田谷区に住んでいると都心へ出るには渋谷を抜けるのが一番近い。今なら人もクルマも多いところは避けて……って知恵も情報もあるのだが、自転車初心者でなおかつ紙の地図しかない時代なので、分かりやすいルートを選ぶしかなかったのだ。

渋谷で山手線を越えたらどうするか。

その先都心へ向かう幹線道路は2本ある。青山通り(国道246号)と六本木通りである。いつもは青山通りを使っていたのだが、あるとき、行き先が六本木通りを走った方が近い場所だったのでそちらを走ってみたのだ。

国土地理院地図に青山通りと六本木通りを描いてみた。こうしてみると、渋谷から都心へ向かう道が2本あって好きな方を使ってねという感じだ。

平坦な青山通りと起伏の多い六本木通り

あれには参った。1回走っただけで2度とこの道は通らないぞと思ったのである。

何しろトンネルがあって圧迫感あるし(しかも幅寄せされた)、首都高の下は日陰で暗いし、起伏もある。心身共に疲れるのである。

逆に、青山通りは明るくて陽射しも当たって見通しもいいし、六本木通りに比べると起伏も少なくて走りやすいし、幅寄せもされたことない。快適である。

この違いはなんだ? あれから10年ほど経ち、いろいろと調べてみてわかった。

まずはスーパー地形でチェックしてみよう。

茶色いほど標高が高い。色が緑に近いところは谷地(つまり川が流れていた)と思っていい。青山通りは一貫して茶色いところ(台地上)を走っているのがわかる。

普通の地図では標高差が表示されないので「どっちを走る方が目的地に近いか」で見てしまうが、大事なのは距離だけじゃない。

地形を重ねて見ると、青山通りは茶色(標高30mくらい)のところを選んで通っている。渋谷という谷から宮益坂を上ってしまえばあとは赤坂見附で谷地へ降りるまではほぼ起伏がない。

六本木通りは青山学院大学の地下を通ったり(暗い!)、途中、西麻布あたりで谷地を越えたりと起伏が大きい。

いもり川は青山学院大学の東側から南へ流れて渋谷川に注ぎ込む小さな川。今はないけど微妙な地形でなんとなくわかる。

笄川(こうがいがわ)は外苑前駅の西側から青山霊園の西側を南下して西麻布交差点を過ぎ、渋谷川へ注ぐ。これも暗渠だが地形はしっかり残っている。六本木通りの西麻布交差点が谷地にあるのは通ったことがあればわかる。

断面図で見るともっと明らか!

スーパー地形は『断面図』を作る機能があるので、両者の地形の違いを可視化してみた。こういう検証がiPadだけでできるのだからよい時代である。

アプリの都合上、縮尺が微妙に違うのは勘弁。縦方向は100倍に強調してある。

宮益坂を上ったあとは、ほぼフラットに赤坂見附へ向かう。笄川を渡るがほぼ谷頭なので高低差は僅かだ。

青山通りは江戸時代の『大山街道/矢倉沢往還』。道玄坂から宮益坂へ抜けるのが元々のルートなのでそれに従って断面図を引いてみた。

宮益坂を上ったら起伏が非常に少ない。自転車で走りやすいはずだ。

2つの川を渡るので谷が2つあり、起伏が大きい。一部不自然な地形があるのは青山トンネルがあるためだ。

対して六本木通りはややこしい。ぐぐっと坂を上ってひと山越えるといもり川の小さな谷がある。ひと山越える代わりに青山学院大学の地下はトンネルで抜ける。いもり川を越えると緩い坂を上る。緩くて長い坂は車にはいいけど自転車には微妙に堪える。やがて西麻布交差点に向かってぐぐっと下り、六本木に向かってすぐ上る。地形を一番感じるところだ。そして六本木交差点を越えたら溜池に向かって下っていくのである。

確かに体感したとおり、青山通りの方が起伏が少なく、六本木通りは高低差が激しい。

なぜ青山通りは起伏が少なくて走りやすいのか。

歴史ある道は平坦な尾根筋を通る

最初に答えを言っちゃうと、青山通りは古い街道だから。

赤坂見附から青山を超えて宮益坂を下り、渋谷川を渡って道玄坂を上るこの道は、江戸時代は『大山街道/矢倉沢往還』と呼ばれた街道で、その歴史は室町時代(あるいはそれ以前)に遡るのだ。

だから青山通りには古い道筋の特徴がすごくよく現れている。

高台の尾根道を中心に走るのだ。

当たり前だけど、当時は街灯はないし治安も悪いしアスファルト舗装もない。その時代は高台が安全で安心なのだ。

一見良さそうな谷沿いは水害に弱くメンテナンスが大変。高台は地盤がしっかりしているのでその逆だ。谷沿いは高いところから敵に襲われたら死ぬ。高台は見通しがいいので安全。谷沿いは日没が早くすぐ暗くなるが高台は遅くまで明るいので使える時間が長いのだ。

対して六本木通りができたのは戦後の高度成長期だ。

『東京時層地図』で戦前と戦後(昭和30年代前半)の地図を並べて見ると、戦前は六本木通りの影も形もないのに、昭和30年代に入ると渋谷駅から東へ工事が始まっているのがわかる。

戦前と昭和30年代前半。東京が大きく変わろうとしている頃だ。左下の青枠が工事中の六本木通り。

そして昭和40年すぎ、六本木通り&首都高が完成したときの地図がこちら。

『スーパー地形』に昭和40年代の地図+地形図を表示。六本木通り&首都高ができている。

自然の地形を活かした江戸時代の巧みな道

江戸時代の他の道はどうだったのか。

中山道と甲州街道。そしていくつかの脇往還。上手に台地を通っている。

東京の地形は江戸城を中心に放射状に街道を作りやすい地形になってて、甲州街道も中山道もきれいに台地上を抜けているのだ。微妙に谷を避けつつ。

ついでに岩槻街道や青梅街道、清戸道なども地図に入れてみた。だいたい尾根には道が通っていて、清戸道(清瀬市の清戸につながる道)と中山道の間にある尾根道(今の春日通り)も、名前はわからなかったが巣鴨や池袋へ抜ける通りがあった。

中山道も甲州街道も脇から迫る谷をうまく避けて道を通してるのがわかる。古街道は自転車でも走りやすいのだ。

かくして、東京の道は地形を活かした古い道路網を引きずりつつ拡張してきたので、どの道も東西南北に合ってないわ、微妙にカーブしてるわ、新しい自動車のための道は比較的直線的に作られるから古い道との整合性がとれなくてややこしい交差点が乱立するわで、地図アプリがないと迷うこと必至の大都会になったのである。

で、そんなややこしい交差点を集めて、その歴史やそうなった理由をついつい掘り下げてしまったマニアックな本が『東京「多叉路」散歩』であるからして、興味ある方はちょいと手にしていただけると嬉しく思います。

『東京「多叉路」散歩』交差点に古道の名残をさぐる

連載いただいている荻窪圭さんの新刊本『東京「多叉路」散歩』(淡交社/荻窪圭/1600円+税)。東京の街歩きを『多叉路』という切り口から語る。歴史が多叉路を生み出しているのだ。

amazonで購入する

今回紹介した地図アプリは「スーパー地形」

『カシミール3D』を開発したDAN杉本氏が手がけた地図アプリ。地形や各種地図を重ねて見られる他GPSログ機能もある。
「スーパー地形」
販売元:Tomohiko Sugimoto 取材時のバージョン:4.0.6
価格:無料(App内課金、機能制限解除980円)

■App Storeで「スーパー地形」をダウンロード
■Google Playで「スーパー地形」をダウンロード

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(この記事は『flick! 2020年5月』に掲載された「荻窪 圭のマップアプリ放浪」を再編集したものです)

出典

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PROFILE

荻窪 圭

flick! / ライター

荻窪 圭

老舗のIT系ライター、デジカメライターなるも、趣味が高じて『古地図と地形図で楽しむ東京の神社』(光文社知恵の森文庫)など歴史散歩本執筆や新潮社の野外講座『東京古道散歩』講師なども手がける。 https://ogikubokei.blogspot.com/

荻窪 圭の記事一覧

老舗のIT系ライター、デジカメライターなるも、趣味が高じて『古地図と地形図で楽しむ東京の神社』(光文社知恵の森文庫)など歴史散歩本執筆や新潮社の野外講座『東京古道散歩』講師なども手がける。 https://ogikubokei.blogspot.com/

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