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荻窪圭のマップアプリ放浪「大きな堤防だけが治水じゃない都会の台地の細やかな治水」

台地の中小河川にも目を向けよう

以前、荒川や多摩川の話を書いたけれども、あれは大きな川で川沿いに広い低地を持っているエリアだったから、対策も大規模。でも豪雨による浸水はそういうところだけで起きるわけじゃない。標高がちょっと高くて地盤も低地よりしっかりしてる武蔵野台地上でも起きるのだ。

広大な低地でなくても川の合流地点は危険

東京ローカルな話になって申し訳ないが、20~30年前、台風や大雨が来ると必ずといっていいくらい浸水がニュースになる場所があった。たとえば地下鉄丸の内線の中野富士見町や中野新橋駅あたり。その頃、中央線沿いに住んでおり、地下鉄丸の内線もよく使っていたので記憶に残っていたのだろう。

当時はまだ都内の地形にも詳しくなくて、なぜそこばかり浸水? と疑問に思っていたのである。特に水が溜まるような地形でもなさそうだし、あぶなそうな地名でもないし。

でもあるとき、自転車で神田川沿いを走っていて「ああ、そういうことだったのか」と腑に落ちたのである。

そこ、善福寺川と神田川が合流する地点だったのだ。

神田川(左)と善福寺川(右)の合流地点。大雨が降るとこの少し下流でよく浸水していた。

神田川は吉祥寺駅の南にある井之頭池を水源とする川。江戸時代は神田上水と呼ばれていた。その川の水を江戸の上水道として使っていたからである。

善福寺川は杉並区の端にある善福寺(ただし、地名の元になった善福寺は江戸時代に廃寺になっていて現存せず。今の善福寺は別のお寺がのちに改名したもの)にある池。

武蔵野台地では標高50mあたりで水が湧きやすく、どちらの水源もちょうどそのあたりなのだ。そして武蔵野台地は西高東低なので湧いた水は東へ流れていき、神田川にどんどん合流していくので水量も多く、江戸の水源にちょうどよかったのだ。

両河川が合流したその先が東京メトロ丸の内線の中野富士見町駅あたり。確かに大雨が降ったら被害を受けそうだ。

2種類の調整池を使った対策

でもここ10年くらいここが浸水したという話を聞かない。

調べてみると、ふたつの大きな対策があったのである。

ひとつは調節池。

たとえば杉並区の善福寺川沿いにある野球場。よく見ると周りより一段低い。斜面を観客席にするため、じゃなくて、いざというとき善福寺川の水でここを水没させるための高低差なのだ。

Apple Mapのルックアラウンド機能で見た野球場兼調整池。グラウンドが周囲より少し低くなっている。

川の水が溢れたら水没させて周辺を守る遊水池として有名なのが横浜市にある鶴見川沿いの日産スタジアムだ。鶴見川が氾濫しそうになるとこのあたり一帯を水没させて洪水を防ぐのが仕事で、日産スタジアムの1Fも水没して『のぼうの城』状態になる。2019年ラグビーワールドカップの際、話題になったので覚えている人も多かろう。

日産スタジアム。写真には写ってないがこの左手に鶴見川が流れている。スタジアム右から手前に伸びる堤防の内側に水を入れることで洪水に備える仕組みだ。今までに何度も使われている。

もうひとつは地下の調節池。神田川貯水施設はここで取り込んだ水を環七の地下にある巨大な調整池に流すためのもの。洪水を防ぐための施設が23区の地下にもあるのである。

AppleMapのルックアラウンドだとわかりづらいがよくみると壁面の一部が開いているのがわかる。

Apple Mapのルックアラウンド機能で見た神田川貯水施設。ここから地下の調整池に水を取り込んで洪水を防ぐ。

これらは河川の溢れに対応したもの。

もうひとつ、下水道局が行っている対策がある。降った雨水が河川に入り込む前に下水道へ逃がそうという仕掛けで、たまたま下水道の貯留施設『和田弥生幹線』見学会に参加していたのでその写真(下)をどうぞ。もちろん水がないとき。地下13階まで歩いて降りて巨大な下水道幹線を見学したのだ。

東京都下水道局の和田弥生幹線。善福寺川沿いに作られており、大雨時はこの巨大な(普段は水のない)トンネルに水を入れることで浸水を防ぐ仕組み。

東京都建設局のWebサイトによると、同規模雨量の台風で比較した場合、1993年の台風11 号では浸水家屋が3117戸、2004年の台風22号では46戸と大幅に減ったそうだ。

目立つ流路拡幅や堤防かさ上げじゃないので目に付きづらいけれども、普段は目立たない対策がなされていたのである。

落合は水が落ち合うところ

神田川のもうちょっと下流に目を向けよう。

神田川は大きく湾曲しながら北へ向かい、やがて右にカーブして高田馬場駅の北を東へ向かう。この右にカーブするところがポイント。

ここ、明治の地図を重ねて見ると水が溢れないのが不思議って感じだ。ぐねぐねと蛇行している神田川に妙正寺川が合流している。

スーパー地形+今昔マップ。明治時代の地図に現代の地形を合わせたもの。めちゃぐねぐね蛇行する神田川(地図では神田上水)に妙正寺川が合流している。いかにも危なそうだ。

このあたりの地名は『落合』。落合という地名は『水が落ち合う』ところ。地名からして水害の起きやすさを示唆してるのである。

現在の『上落合・中落合・下落合』は川の合流点を中心とした広い範囲で台地上も含むので住所が落合だから危険な土地ってわけではないので念のため。

で、現代の地図をよく見ると、明治期に合流していた場所で川が落ち合ってないのである。妙正寺川は下落合駅の北側、神田川は南側を通ってる。いったい合流はどうなった?

スーパー地形。現代の地図を見ると、妙正寺川が神田川に合流しないで消えてる?

昭和後期、流路を変えられた妙正寺川は『高田馬場分水路』という新たに作られた地下の水路に流れ込み、少し下流で神田川と合流(1982年完成)。さらに少し下った江戸川橋でまた『江戸川橋分水路』で2本に分かれ、飯田橋の近くで合流(1977年完成)。さらにそこからは水道橋分水路、お茶の水分水路と、神田川本流と並行した水路が作られていたのである。

神田川の江戸川橋近くにある江戸川橋分水路の入口(呑口)。左が本流、右が分水路だ。流量が増えるとこちらへも水が分散され、道路の地下を水が流れる。

神田川上の船から見たお茶の水分水路の出口(吐口)。ふたつに分かれていた神田川がここで合流する。左に見える橋は昌平橋、背景に見える高架はJR総武線。

道路的にいえば、交通量が増えたので2車線を4車線にしたい、でも拡幅する土地がない。そこで2車線分を地下トンネルにした、という感じか。なかなかすごい発想だ。

神田川が溢れた話を最近聞かないのは長年の土木事業の成果だったのだ。

2014年6月に雹がたまったところ

最後は、でもやっぱり溜まるところに溜まるよね、という話。

2014年6月24日、東京の一部に大量の雹が降り注いだのである。ゲリラ豪雨ならぬ、ゲリラ豪雹。けっこうな粒が大量に降ってきたのでSNSは賑わったわけだが、その夜、わたしの友人にして暗渠好きが雹が大量に降った場所を見に行ったのである。ちょうど会社帰りだったらしい。

そのときに撮った写真がこちら。

夜になっても中仙川遊歩道に積もっていた雹。2014年6月24日。和田文雄撮影。

雹が降ったのはまだ明るい時間でしかも6月なのですぐ溶けそうなものだけどこれだけ積もったままだったのだ。

雹が積もっていたのはどんなところかというと、中仙川緑道(暗渠。川としては入間川)。地図を見るとわかるように、すごく小さい谷で、東側はかなり急な崖(だからこの辺は急坂だらけだ)。

小さい谷だからその一番低い川跡に雹が集まり、雨ならまだ地下化された水路に流れ込むのだけど、雹なので溶けなかった分が排水口に詰まってしまってこんなことになったのだ。

ちなみに、この緑道は甲州街道沿いからはじまるのだが、甲州街道の坂道は『滝坂』と呼ばれていた。雨が降ると水が滝の様に流れる急坂という意味で、昔はかなりの難所として知られていた。

川が作った狭くて小さな谷に雹が積もった。

地形的に水害を受けやすいところって地形図や歴史を見ると一目瞭然なのだけど、そこにどのくらい対策がなされているかで結果が大きく変わるし、想定外のことが起きれば何らかの害は避けられない。

どうしてもコストと時間がかかる本格的な水害対策は都市部など人口密集地が優先される傾向にあるわけで、対策がなされているか否かはとても重要だ。周りに比べて低い土地や川沿い(かつて川だった土地も含む)に住んでいる人は早めの準備を。

今回紹介した地図アプリは「スーパー地形」

『カシミール3D』を開発したDAN杉本氏が手がけた地図アプリ。地形や各種地図を重ねて見られる他GPSログ機能もある。
「スーパー地形」
販売元:Tomohiko Sugimoto 取材時のバージョン:4.0.6
価格:無料(App内課金、機能制限解除980円)

■App Storeで「スーパー地形」をダウンロード
■Google Playで「スーパー地形」をダウンロード

(この記事は『flick! 2020年10月』に掲載された「荻窪 圭のマップアプリ放浪」を再編集したものです)

出典

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PROFILE

荻窪 圭

flick! / ライター

荻窪 圭

老舗のIT系ライター、デジカメライターなるも、趣味が高じて『古地図と地形図で楽しむ東京の神社』(光文社知恵の森文庫)など歴史散歩本執筆や新潮社の野外講座『東京古道散歩』講師なども手がける。 https://ogikubokei.blogspot.com/

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