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【木下デイヴィッド】グランドチャンピオンをもたらしたマジックボード

『マジックボード』。それは、外見上のアウトラインやロッカー、さらにデータ上の数値といったものでは計り知れないような、特別なフィーリングを伴ったサーファーとサーフボードとの一期一会の出合いである。そして時に、自分や自分の周りの者達の人生までをも一変させてしまうような、強烈な体験となるのだ。そこで、著名なサーファー達が経験した『マジックボード』との出合いやストーリーに耳を傾けてみた。

今回フィーチャーするのは、世界ランク9位にまで登りつめた木下デイヴィッド。世界のコンテストで目の当たりにしたロングボードシーン。そこで得た体験を落としこんだマジックボードが、デイヴィッドにグランドチャンピオンをもたらした。
◎出典: NALU(ナルー)no.121_2021年7月号

アウトライン、ロッカー、重さ、すべてのバランスがフィットしたロングボード。

「これを作ったのは2003~4年ぐらい。ボウ(・ヤング)にボードを頼みたいって言ったらいいよって言ってくれて。5本ぐらいオーダーして最初の3、4本はカラーをきっちり決めたんだけど、あと1本は面倒くさくてもうこの色でいいやって。あがってきたのがこれだった(笑)。だから優先順位で言うと5番目だったんですけど、他のはすぐ折れちゃってこのボードが残ったんですよね」。

そう言って木下デイビッドが見せてくれたのは、オーストラリア・バイロンベイの名匠ポール・ハッチンソンシェイプのオールラウンドボード。’60年代からサーフボードビルダーとして活躍するハッチンソンは、ロングボードのワールドチャンプであるボウを支えた存在だ。ボウと知己の仲であるデイヴィッドは、ボウの乗っていたロングボードをベースにボリュームを出してくれるようにオーダーした。

「ボトム側の色が思ってたのと違ったから自分で塗って。あんまりうまくいかなかったんだけどね」と苦笑を浮かべるが、最後に残ったというこのボードとともに’04年のJPSAツアーでは優勝を重ね、その年のグランドチャンピオンを獲得。26年という長きに渡り競技生活を送ったコンペティターとしても「思い出のあるボード」だと教えてくれた。

早くから海外のコンテストに参戦していたデイヴィッド。なかでも彼が頻繁に世界をまわっていた90年代から00年代にかけては、ロングボードシーンが急速に変わっていった時代。ボードデザインも目まぐるしく変遷していったときで、そんな世界の潮流もこのボードには取り入れている。

▲2004年JPSA最終戦スリランカカップでのひとコマ。このボードを駆り、圧倒的な強さを見せつけたマニューバー性能だけでなく、高いノーズライド性能もあわせもった、まさにオールラウンドなボード

「どんどんボードが軽くなって、よりハイパフォーマンスに向かっていたのが当時の流れ。海外の選手のボードはノーズはとんがってるし、フィンオンのトライフィンまであって。ロングボードでこんなに当てこむんだってびっくりしましたよね」。

そうそう、このボードで「マジック」なのはどのあたりにあるのだろう。一番気に入っているところはと尋ねると「バランス」という答えが即座に返ってきた。

「自分はもともと重たいロングボード出身で、他のロングボーダーのように思いっきり軽いロングに乗っちゃうと、テイクオフの時にスピードが出づらくてフラフラする。だからこれはパフォーマンスボードとしてはちょっと重めで作ったんですよね。そうすると初速が出てすぐノーズをかけてから、スピードに乗ったままカットバックもある程度できる。重みがあるから推進力があってグライドもして行ける」。

その言葉通り、ロッカーは抑えめでノーズ幅も残してあるが、テールエンドはかなり絞り気味。パフォーマンス性能とクラシックな乗り味を兼ね備えたデザインとなっているようだ。

▲ノーズエリアは広く取ってあるが、テールにかけては絞りこまれ、長めのエッジがつく。センターフィンは厚みを削り、カットフィンのようにベース部分をカスタム。サイドも特注の軽量なフィンを使用している。

道具っていうのは波によって決まるんじゃないかな

「でもその時はまだどんなボードが自分にとってのベストなのか分からなくて。今の方がボードのことは理解してるかな」とその頃を振り返る彼は、’19年に現役を引退後、自らボード作りをスタート。勝浦のパワフルな波を見下ろす自宅にシェイプルームを増設しシェイプに取り組んでいる。

「調子いいボードもあったけどだいたい折れちゃうんですよね」というものの自宅には30本ほどのボードを所有するのに加え、これまで数え切れないほどのサーフボードに乗ってきた経験があるだけに、データには事欠かない。フィーリングの良かったボードの要素を組み合わせて削ったという1本目のロングボードがシェイプルームのラックに置かれていた。

「ずっと重たいボードに乗ってきたけど、今は軽いボードが逆に好きなんです。なんでかっていうと軽いボードの方が楽しいし難しいから。ノーズからテールまで足の位置を全部動かして乗る必要があるんだけど、ちょっとでもずれると調子が悪くなる。軽いボードでハングテンしてラウンドハウスして当てこむのはすごく難易度が高いことなんですよね。マリブやヌーサならクラシックなロングでフェードターンしてハングテンというのも素晴らしいけど、そんな場所もなかなかない。たまにビーチブレイクのトロい小波の時には重たいボードも使ってるけど、パワーがあって掘れてくる部原の波だと面白くないんですよ。だから、道具っていうのは波によって決まるんじゃないかな、最後は」。

Profile

1973年、東京生まれ。千葉県勝浦市在住。日本人の父とデンマーク人の母との間に生まれ、幼い頃より世界を巡る。16歳から鎌倉でロングボードを始め、プロ転向後は長身を活かしたダイナミックなマニューバと繊細なノーズライドを武器に活躍。1995 〜1998年まで4年連続JPSAランキング2位、2004年JPSAグランドチャンピオン獲得。早くから海外の大会にも出場し、2002年には世界ランク9位にまで登りつめた。

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PROFILE

FUNQ NALU 編集部

FUNQ NALU 編集部

テーマは「THE ART OF SURFING」。波との出会いは一期一会。そんな儚くも美しい波を心から愛するサーファーたちの、心揺さぶる会心のフォトが満載のサーフマガジン。

FUNQ NALU 編集部の記事一覧

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