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筆とまなざし#182「ひとり小川山でボルダリングキャンプ。15年来の課題を目指して」

梅雨の晴れ間に小川山へ。クジラ岩で15年来の「穴社長」をトライ。

よく晴れた火曜日の朝に思い立ち、クラッシュパッドとキャンプ道具を車に詰め込んでひとりで小川山へ向かいました。言わずと知れた日本におけるフリークライミングのメッカ、小川山。毎年、夏になると通っているのですが今年はコロナの影響で今回が初めて。貴重な梅雨どきの晴れ間を逃すまいと出かけたのです。

小川山へボルダリングのためだけに出かけるのは7、8年ぶりくらいでした。ふと、久しぶりにトライしたい課題があったのです。「穴社長」(二段)。ぼくが初めてこの課題を触ったのは、たしか大学生のころだったから、もう15年以上も前のことです。しかし、それほどクライミングにのめり込んでいなかった当時の自分には難しすぎる課題で、それから数年に一度くらい、ときどき訪れてはなんとなく触っている程度。当然そんな取り組み方で登れるはずもなく、この数年は小川山でボルダリングすることもなくなっていました。「いまなら登れるかもしれない」。そんな思いが急に心に湧いてきたのです。

「穴社長」があるクジラ岩は、日本でもっとも有名なボルダーのひとつです。小川山でのフリークライミングの歴史は古く、1970年代後半のこと。ヨセミテの影響を受けた日本人クライマーがフリークライミングを国内に持ち込むと数々のルートが開拓され、80年代初頭になるとクジラ岩などでボルダリングが行なわれるようになりました。日本を代表するボルダリング課題「エイハブ船長」(1級)が初登されたのもこのころで、90年代になるとその隣にある、第一関節がかかる程度の浅いポケットホールドがみごとなまでに繋がった「穴社長」が登られました。「穴社長」は日本でもっとも有名な二段課題だといえるでしょう。

小川山には昼すぎに到着しました。梅雨どきだからか、久しぶりに訪れるクジラ岩にはだれもいませんでした。下地がきれいになり、倒木でベンチが作られているほかは、15 年前とほとんど変わっていません。アップを済ませてさっそくトライ。以前はかろうじて到達した右手のピンチまでは比較的ラクにできましたが、遠い左手がどうにも届きません。夕方になると指の皮もひりひりとして指先の汗もひどくなってきたので、早めに切り上げてキャンプ場に戻りました。

翌日、まだひりひりする指先に不安を感じながらも、クジラ岩に向かいました。左足をひとつ上のポケットに上げると体が上がり、遠い左手が射程圏内に入ってきました。とはいえ、太陽が高くなると気温も高くなり、右手のピンチが滑ってすっぽ抜けてしまいます。指先が冷えるのをしっかりと待って何度目かのトライ。右手ピンチがそれまでよりしっかりと持てたと思い、タメを作って左手を思い切り伸ばすと、ぴったりとチョークで白くなったホールドを捉えることができました。15年来の課題が登れた瞬間でした。

クジラ岩を初めて訪れたのは高校2年生のとき。それから20年の年月が経ちました。岩はまるでタイムカプセルのようで、トライしていると当時のことや大学時代に通っていたときのことが蘇ってきて、当時とまったく同じ気持ちで課題に打ち込んでいる自分に気づきました。岩は変わることなくそこにあり、課題の前では自分もときを超えることができる。それは同時に、フリークライミング黎明期にここで活躍したクライマーたちに思いを馳せる時間でもありました。めまぐるしく変化する世のなかで、そんなことを感じられる行為はなかなかないのではないでしょうか。ようやく、というか、いまさらながら登ることができた「穴社長」。それでも、このすばらしいラインが登れたこと、いままで登れなかった課題が登れたことは素直にうれしく、自分にとっては少しだけ特別な一日になりました。

翌日は、やはりクラシック課題の「グロヴァッツ・スラブ」(初段)を登り、雨が降る前に帰路に着きました。思いがけずセンチメンタルになった今回の気ままなひとり旅。たまにはまたこんな旅に出かけたいと思います。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター/絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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