筆とまなざし#121「築120年の古民家とのお別れ。軒先の漬もの石とともに」
成瀬洋平
- 2021年02月03日
築120年の古民家との別れ、新たなるスタート。軒先の漬もの石とともに。
月末に引っ越しをしました。引っ越したといっても以前住んでいた家から車で数分の場所。アトリエ小屋にほど近い小さな一軒家です。これまで暮らしていた家は築120年の古民家でした。柱や床が傾いているのは良かったのですが、広すぎるし日当たりが悪く、おまけに風呂に問題があって非常に寒いのが難点でした。もう少しコンパクトに暮らしたいと思っていたところ、小さな家が空いているという話が舞い込んできたのです。少々狭いけれど前よりは日当たりも良く、ストーブを点ければすぐに暖まります。古いけれど風呂も快適。アトリエにも歩いて数分の距離です。そして家賃も半分。
引っ越すとき、なにか記念にと思い、軒先にあった漬けもの石をもらってきました。それは去年、沢庵を漬けたときに使ったものでした。白い花崗岩で作られた漬けもの石にはところどころに黒い点々があり、少し歪な楕円形をしています。いつの時代だったのか、加工した人と使ってきた人々の記憶が刻まれている石です。
寒い寒いと思っていたけれど、その家が建てられた明治時代には囲炉裏くらいしかなかったはずで、しかも年々気温が上がっているいまよりもずいぶんと寒かったことでしょう。ダウンなどもなく、せいぜい綿入りの羽織りくらいだったはず。その中で、人々は背中を丸くして長く寒い冬を耐え忍んで生きてきたのだと思うと、ちょっとやそっとのことで弱音を吐いてはいられないなと思わずにいられません。日々、自然のなかで生きることに精一杯だった暮らし。しかしそれはさほど遠い昔のことではありません。
さて、引っ越しをすると困るのが山道具の多さです。古いテントやバックパックはサヨナラしたものの整理にはまだまだ時間がかかりそう。とりあえず押し入れに木で棚を作り、衣装ケースを並べて「冬用のギア」「テント関係」「布っぽいもの(スタッフバッグやエアマットなど)」そして「クッカー関係」と分けることにし、その上にバックパックを並べました。ボルダリングマットなどは家の中には置けないのでひとまず車に入れっぱなし。近いうちに外に倉庫を作り、ついでに小さなクライミングウォールも作りたいと考えています。
引っ越しの前日に降った雪は溶け、気持ちの良い青空が広がっていました。まだしばらく寒い日が続きそうですが、小さなこの家を拠点に、新しいスタートです。
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