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立山山麓、雑穀谷の岩場へ。岩と海鮮と地酒を堪能する富山クライミング講習会|筆とまなざし#283

岩場やジムでもたらしてくれる出会いと再会は、クライミングがもたらしてくれる人生の豊かさ。

雑穀谷の岩場は立山の山麓に位置する、北陸では数少ないフリークライミング中心の岩場です。岩質は花崗岩ですが厳しい風雪に磨かれてきたのでしょう、岩肌はとても滑らか。小ぢんまりとした岩場ですが25m近い長いルートもあり、マルチピッチの練習もできます。そして富山といえば海の幸と地酒。昨年行った岩と海鮮と地酒を堪能する富山クライミング講習会が好評で、今年も再訪してきました。

週末ということもあり、雑穀谷は車が停められないほど賑わっていました。この岩場を代表する一本が「ジョーズ 5.10+」という、右上クラックに沿って登る持久系ルートです。薄被りでスケールは25m近く、なかなかの登りごたえです。その「ジョーズ」の核心を巻いて登る「ジョーズ見学 5.10a」は易しいけれども長くてとても気持ちの良いルート。被りに慣れていない参加者も終了点まで登ることができ、長いルートに満足してくださったごようすでした。

夜は市内で地酒と海の幸を堪能。やっぱり白エビは格別です。一夜明け、日曜日は曇りのち晴れ予報。けれども岩場に向かう途中から小雨が降り出し、見る見る雨脚が強くなってきてしまいました。結論はわかっていたけれど、とりあえず現地まで行って無理だと判断。富山県内の人工壁に行くことにしました。この施設には大きなリード壁が4面あり、コンペも行なわれているそう。コロナの関係で人数制限を設けていたので、念のため予約をして向かいました。

受付には小柄な若い女性がいました。

「やっぱり成瀬さんでしたか! 私、以前講習を受けたことがあるんです!」

初めは合点がいきませんでしたが、話を聞いてすぐに思い出しました。3年前、笠置山で行ったルート体験会に参加してくれた方だったのです。「もっとクライミングできる環境に身を置きたい」と話していた彼女。当時の職場の大変さも相まって、これからの生き方を模索していたのでした。

「人生一回きりだし、やりたいことやったほうがいいですよ。辞めちゃえ辞めちゃえ」

軽い調子で言ったけれど、決して他人ごとではありませんでした。なぜならぼく自身が自由業を選んだ人間なのだから。なにかやりたいことがあるのなら思いきってやってみたほうがいい。それは心の底から思っていることでした。彼女はその年度末に仕事を辞め、クライミングセンターのスタッフとして働き始めました。3年ぶりの思いがけない再会。そして活き活きとした姿が見られてとてもとてもうれしくなりました。

クライミングウォールは非常にすばらしく、講習生のみなさんも満足してくれたようでした。帰り際、参加者のひとりがこう言いました。

「雨になったのも、ここへ来るためだったのかもしれませんね」

岩場やジムでの出会いと再会。それもまた、クライミングがもたらしてくれる人生の豊かさなのでしょう。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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