オルコ渓谷で描いた絵のために松の廃材で額を作る|筆とまなざし#317
成瀬洋平
- 2023年02月22日
アプローチで見かけた放牧小屋の寂れた木戸の絵。重厚感のある額よりも、粗野なもののほうがこの絵には合う。
オルコ渓谷で描いた絵を展示するために額を制作している。どの材にしようか、資材置き場から見つけてきたのは、かつてどこかの家の床板だか壁板だかに使われていた松の板だった。厚さは3cmくらい。ところどころに釘の跡がある古材だ。
本来なら広葉樹で作ったほうが良いのだろう。見栄えもいいし硬くて丈夫だ。先日作った小さな額は広葉樹のなかでもとくに硬い欅を使った。けれども、重厚感のある立派な額より粗野なもののほうが、オルコの絵には合うように思った。それで見つけたのが松の廃材だった。
イメージしたのは、オルコで岩場へのアプローチで見かけた放牧小屋の寂れた木戸だった。オルコ渓谷に点在する岩場には放牧地の横を通って向かう場所が多かった。そういったアプローチにはもうすでに使われなくなった崩れかけの石造りの小屋があった。クライミングエリアのすぐ下にはスレート葺きの屋根がゴッソリと抜け落ちている小屋があり、崩れた石をさらに崩さないように恐る恐る中に入ると、湾曲した木をそのまま器用に使った立派な梁があった。抜け落ちた床にはワインの空き瓶。ここは小屋というよりも住居だったのだろう。いつごろまで使われていたのか。打ち捨てられた小屋には、この山で暮らす人々の面影がいまもなお残されていた。
ことさらオルコを引き合いに出さなくても、そのような農作業小屋はぼくが暮らす村にもあった。子どものころ、近所の山を探検しているときに見つけた小屋の面影はいまも記憶に残り、ときどき絵のモチーフとなっている。小屋のほとんどは人々が自らの手で作ったものだ。かつて人々は自分の暮らしに必要なものは自分の手で器用に作った。それは生活そのものを自分の手で作ることにほかならない。もちろん、田舎が故にそうせざるを得なかったといったほうが正確かもしれないけれど、そこにはある種の豊かさが内包されているように思う。
松の板を4cm幅に切り、長辺の材にほぞを、短辺の材にほぞ穴を刻んだ。ボンドで接着し、枠組みを作る。それからトリマーでアクリル板やマットを入れる溝を彫り、ノミで削って仕上げた。素人の手作業である。できてしまった隙間には木の粉とボンドを混ぜ合わせて作ったパテを埋め、最後にペーパーで仕上げた。柔らかい表面は、きっと展覧会を繰り返すごとに傷ついていくだろう。そしていつか、あの打ち捨てられた放牧小屋の木戸のような佇まいになってくれると思う。
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