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すばらしく心地よい小川山生活|筆とまなざし#339

何気なくすぎ去る景色のなか、なにに気を留め、なにに関心を寄せるのか。

クライミング講習会のため、1週間ほど小川山に滞在している。4日間の講習と2日間の休みを挟んでさらに2日間の講習を予定。今日は休日の1日目。台風の影響が心配だけれど、とりあえず居残って参加者を待つことにした。

4日間入れ替わり立ち替わり、遠くは大阪からも講習に参加してくださった。午後になると毎日雷鳴が聞こえるのだが、日中に降られなかったのは幸いだった。秋にチャレンジするマルチピッチへ向けて練習する方、クラックは向いていないかもしれないと悩みながらもクラック講習で手応えを感じてくださった方、カラファテ川上店でスポルティバのTCプロを買いワイドクラックに目覚めてた方など、この4日間は普段にも増して思い出深い。茹だるような暑さの下界から離れて涼しい森のなかにいるだけで癒やされるのだから、良い時間になったのはこの場所のおかげでもある。

今朝はいつものように5時くらいに目を覚ました。ときどき小雨が降る天気だが、講習はないので気が楽だ。タープの下でコーヒーを淹れてまったりとすごす。この時間はまさに至福のひととき。雨が上がったのを見計らってテントの周りでスケッチをした。そして洗濯(シャワー室に洗濯機がある)が終わるのを待ちながら東屋でこの原稿を書いている。気温は21度。なんとも快適なオフィスである。

なにを描こうかとあたりを見渡したとき、近くのボルダーの広めのクラックに木が食い込むようにして育っているのが見えた。課題があるのはこの岩の反対面と側面で、木が食い込んでいる側は気に留めたことがなかった。画題を探して周りを見ると、ふだんは見えていないものが目に飛び込んでくる。何気なくすぎ去る景色のなかで、なにに気を留め、なにに関心を寄せるのか。その積み重ねによって人生は大きく変わってくる。

おっと、そろそろ洗濯が終わるころだ。雨の小川山にはゆっくりとした時間が流れている。ボルダーはまだ濡れているだろうか。近くのジムに行ってトレーニングしようか。小川山生活はすばらしく心地よい。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

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