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四角友里のにっぽん“食”名山#11「長瀞アルプス・宝登山の天然氷のかき氷」

『にっぽん“食”名山』というテーマで、トークイベントや執筆をする大きなキッカケとなった山について、今回、2018年最初の連載にて綴ってみたいと思います。

その”食”は、長瀞アルプスの宝登山のふもとにある「阿左美冷蔵」の『天然氷のかき氷』。かき氷といえば夏の風物詩ですが、私がそのかき氷に出合ったのは、寒い冬のできごとでした。

▲春の訪れを探しに出かけた長瀞アルプス。野上駅や長瀞駅まで、歩いてアクセスできる

▲冬枯れた森は心穏やかになるやさしい雰囲気

▲お目当ては宝登山の蝋梅(ロウバイ)園!! 山頂が 近づくにつれて甘い香りが漂い、つい足早に

宝登山山頂で、まず、こんな出合いがありました。
山頂から少し離れたところにある奥宮横の売店で、焚き火を囲んだベンチの一角にふだん目にしないものを発見。 七輪の上で、お餅でもお芋でもなく、皮ごとのミカンが焼かれていたんです!

「え〜〜〜っ。あったかいミカン!?」
とびっくりしたのですが、売店の女将さんが「宝登山神社には火の神様が祀られているから、ここで火を絶やさないようにして、いっしょにミカンも焼いているんだよ」と教えてくれました。お正月飾りや御札などを燃やす日本古来の火祭行事「どんど焼き」でも、お餅や繭玉団子などのほか、ミカンを焼く地域もあるんですね。

生まれて初めて食べる焼きミカン。焼き芋のようにホクホクとしていて、意外と(←すみません)おいしい。なんだか味も濃厚なような?

▲焼くと、酸っぱいミカンが甘くなったり、栄養も凝縮されるそう。調べてみると、地方によって、この焼きミカンがメジャーなところも!!

▲奥宮には、宝登山の神犬とされる山犬の像が。日本武尊(ヤマトタケル)が山火事に遭った際、山犬が現れて消し止めたといわれていて、山の名を「火(を)止(める)山=ほどさん」と定めたのが宝登山のはじまりだそう。

この焼きミカンのおかげで、宝登山の神様の由来を知るキッカケをもらうことができ、気持ちもホクホク。
看板やガイドブックを通じて知った情報や知識はすぐ忘れてしまったりするけれど、ひとや食べ物を介して「学んだ」体験は記憶に定着する気がします。

下山後は、長瀞のかき氷屋さん「阿左美冷蔵」の本店へ。明治24年創業、130年以上続く天然氷を生産する蔵元でもあります。友人と「冬に、寒い!寒い!!……なんて言いながら食べるかき氷もいいよね」と長瀞の名店を訪れることにしました。

▲日本における「天然氷」製造業者は日光に3軒、軽井沢に1軒、この秩父・阿左美冷蔵の計5軒だったが、平成24年に八ヶ岳に新しい蔵元ができ、現在6軒となっている
(ちなみに日光には、氷をおがくずで覆い、電気設備を使わない昔ながらの「氷室」を使って氷を保存する蔵元も)

たくさんの魅力的なメニューのなかから、王道の「蔵元秘伝みつのかき氷」を選びました。

▲季節限定や日替わりのかき氷情報はブログやSNSをチェック! どれも無添加で、こだわりの手作りシロップばかり

▲温かい麦茶がはいった茶釜。和風モダンな造りの金崎本店

登場したのは、想像以上に標高の高い(=山盛りの)巣氷。こんなに食べられるのかな!?と心配になりつつも、シロップをかけ、ひとくちパクっと口にいれると、ふわっふわ! 氷というより、粉雪なんです。 口当たりがよくて冷たさを感じさせず、すぐに溶けてなくなってしまいます。

▲和三盆を煮詰めて作った蜜は、澄んだ琥珀色。こってりしたシロップが合う粗削りではなく、キメ細かく削られた天然氷の味を引き立てる繊細なシロップ

そのおいしさにニコニコしながら食べていると、奥から出てきたご主人が、山帰り姿の私たちに声をかけてくださいました。
「旬の時期に食べにきたね!」
”旬”?……ぽかんとしている私に、ご主人が続けます。
「宝登山に氷池ってあったろ? この氷はそこで作っていて、切り出したばっかりだよ!!」

宝登山から湧き出た沢の水を、冬の寒さでじっくりと凍らせてできあががる天然氷。湧き水という山の恵みに、冬将軍の力が加わって創られた、「自然の恵みの結晶」だったのです。そして、この一品を仕上げているのは、阿左美冷蔵に伝わる技と氷に対する愛情です。

私は、地図や道中の標識に「氷池」と記されてあったことを思い出しました。そして、このかき氷を食べるまでに、何度も目にしてきたはずの「天然氷」の文字と、『冬が旬』というご主人の言葉の意味が、やっとわかったのです。……すると、今日1日の山歩きがこのかき氷の器のなかで結びついたような、大きな感動の波が押し寄せてきました。

秩父地方ならではの冬の寒さのなかでじっくりと育まれた氷。氷が張ってからは落ち葉やゴミ、雪がつかないようにしたり、気候や寒暖の変化を常に気にかけたりと、慎重さと手間が必要な大作業だ。これが、天然水を機械製氷した氷(=純氷)との大きな違い!

「冬のほうが、お客さんも少ないから、シロップもいろいろ凝ったのを作ったり、ていねいに作っちゃうんだよね」と茶目っ気たっぷりにおっしゃるご主人。新メニューを開発に力を注ぐのも、冬場なのだとか。「夏のかき氷は、この時期に切り出した氷を倉庫で貯蔵して使うからね。いまのほうが出来たてホヤホヤさ!」とも。

かき氷を紹介するグルメガイドでは、冬を薦める理由として、◎並ばない ◎冬限定シロップがある ◎溶けづらい などと記載されていることがあります。でも、冬の一番の醍醐味は、ご主人がおっしゃっていた「旬」にあるのだと私は思います。そして涼を求め、暑い夏に食べる天然氷には、「冬」にタイムスリップすることができる日本ならではの贅沢が詰まっていたのですね。電気のない時代から、自然の力で作られてきた天然氷には、厳しくも豊かな日本の冬や自然がそのまま封じ込められていました。

観光者としてこのかき氷を味わっても、おいしいことは間違いありません。けれど、水の源である森を歩き、白い吐息や肌で「冬」の冷気を感じながら、自分の足で山を歩いたからこそ堪能できる“物語の味”がここにありました。日本の冬という季節を食べる一品、これを私の「運命のかき氷!! 」と呼ばせていただきたいのです。

山歩きを始めた当初、私にとって「山のおいしい」は、頑張って歩いた自分への単なる”ご褒美”でした。それが徐々に、山歩きの思い出をより深く、より鮮明に残してくれるもの……という位置づけへ。また、自然が作り出した風土や歴史、人の想いに触れるための大切なツールへと変化してゆきました。そして、この冬のかき氷との出会いは「山を歩くこと」×「食べること」で生まれる “小さな物語”を紡いでくれた大切な体験です。味のおいしさは人それぞれ感じ方が違うと思いますが、私の食名山における「おいしい」の基準はここにあります。

……これが、山のご褒美の”物語の味”を伝えてみたいと思うようになったキッカケです。
さあ、「おいしい」の先にある、ごちそう山ワールドへ!! みなさんも、あえてツウに「冬のかき氷」を食べに、宝登山を歩いてみませんか?

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P.S 下山後は、友人から教えてもらった秩父鉄道「御花畑駅」or西武秩父線「西武秩父駅」近くの『ホルモン高砂』(埼玉県秩父市東町30-3)へ。昔から養豚場が多くある秩父地方では、新鮮なホルモンが手に入るため、「焼肉」といえば「ホルモン焼」というほどポピュラー。おなかいっぱい食べてもリーズナブルなお値段が最高です。かき氷→ホルモン、という不思議な順番になりますが、宝登山や秩父方面へ行った際にはぜひ。

(ちなみに『ごはん編』は、現在綴っている『パン/甘味/飲みもの編』のあとに紹介していく予定です!!)

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野上駅から宝登山山頂を経て長瀞駅まで歩く道のり(コースタイム約4時間)は、「長瀞アルプス」とも呼ばれ、ご当地アルプスとして人気のハイキングコース。特に危ないところもなく、急登は山頂直下の長い階段のみ。山頂からは武甲山や両神山などの秩父の山々を一望できます。標高497mの宝登山頂付近には、約3,000本の蝋梅の木が植えられ、12月下旬から2月下旬にかけて黄色い花が咲き、甘い香りに包まれる。宝登山にはロープウェイもあり、歩くと1時間ほどの距離を約5分でショートカットもできるので、初心者のかたにも安心。(※2/2 現在登山道は雪の影響で軽アイゼンがあっがほうが安心のようです。最新情報をご確認ください)

 私が訪れたときは、冬季中は阿左美冷蔵寶登山道店がお休みだったため、隣駅にあるの金崎本店まで歩きましたが、2018年は営業。ただし定休日の変更や臨時休業などもあるので、事前に要確認。また「天然氷」終了の場合は、「純氷(天然水を機械製氷した氷)」で提供される場合もあり。ブログや店頭にて告知されていますが、これも貴重な天然氷を使う阿左美冷蔵ならでは! 大行列必至の夏ではなく、あえてツウに、冬にいただきましょう。新米ならぬ新氷は、蝋梅が咲くタイミングとも重なるので、冬におすすめのコースです。

Data:  阿左美冷蔵

◎金崎本店
埼玉県秩父郡皆野町大字金崎27-1
TEL.0494-62-1119
営業時間:10:00~16:30頃  
木曜定休

◎寶登山道店 
埼玉県秩父郡長瀞町大字長瀞781-4
TEL.0494-66-1885 
営業時間:10:00~17:00頃  
火曜定休

※夏季は休まず営業
※冬季中は臨時休業もあるので確認を

蔵元秘伝みつのかき氷:1,000円
http://asamireizou.blog.jp/

写真◎四角友里

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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