マジソン郡の橋を渡り545km走るウルトラ・グラベル|竹下佳映のグラベルの世界
竹下佳映
- 2022年02月20日
荷物搭載したバイクの計量をしなかったのですが、必要以上の修理道具、必要以上の食料、必要以上の水分と、結構な重さだったと思います。何も起こらなければ最低限のものさえ携帯すればいいのですが、もし何か起こったら? 農業地帯が広がる地で、確かに人が住んでいる形跡はありますが車すら見かけません。町を通ることも店も何もありませんので、自己対処できることがキーとなります。ライダー1人を追い越した以外は誰も見かけないので、大会カメラマンを見かけたときの喜び度がすごかったです。強風ではありませんでしたが、向かい風か横風と独りで闘いながら5時間近くが過ぎました。
セルフガソリンスタンドに併設した小さな店を見かけました。次のCPにたどり着くまでに必要なものは全て携帯していますが、せっかく店があるのだから寄ることに。中のテーブルでは、早朝に一緒に走っていたライダー2人が休憩していました。
自分のスピードが上がっている感じはありませんでしたが、少しは追い上げている事実を知り少し気分が上がります。甘いアイスコーヒー、チョコレート一粒、そして主にバイクの汚れを落とすための水を購入しました。外に出て再出発の準備をしている最中に、先ほど追い抜かしたライダーが店に到着しました。ハブダイナモが発電しなくなり、夜間のライトをどうしようかと困っていましたが、ちょうどいいタイミングでお店があるので修理できなくてもどうにか解決策はありそうです。
さらに坂ばかりの道が続きました。
それよりも厄介だったのは、最近まかれたばかりの新しい砂利でした。石ころと言うには大き過ぎる砂利が道の端から端まで広がっていて、具合の良いラインもなく避けようがありません。ある時、緩くて大きな深い砂利の上り坂で前進することにのみ集中していたら、後ろから忍び寄る影に気付くのが遅れました。自分の右側に目をやると、そこには歯を見せ息を荒げる犬が! 大至急スプリントでその場を去りました。
あまりにガタガタ砂利が続いたため、とても短い舗装区間に久し振りに出たときには、舗装道路は人類史上最大の発明のひとつに違いない!と思いました。馬車の時代にタイヤのない車輪で未舗装路を走っていたなんて信じられない……。
太陽が沈んでいきます。すでに半日以上走っていることが信じ難かったです。もうすぐ真っ暗になりますが、CP2に着くまであと少し。
第2チェックポイント・CP2 307㎞地点
私がCP2に到着したのは日没後約45分程で、その頃にはすっかり暗くなっていました。
CPはエルクホーンという小さな町にある明かりすらない小さな公園でした。開始地点のウィンターセットの西にいるという以外は、自分の現在位置は全くわかりませんでした。私より先に到着したライダーも数人いて、ボランティアと選手番号を確認し(番号と言うより、すでに名前で覚えてもらっていた)、ドロップバッグと新しいキューシートを受け取ります。両方の足が痺れるように痛かったので、まずはシューズを脱いでベンチに座り込みました。ドロップバッグに用意しておいた抹茶ラテを飲み、バナナとベーコンジャーキーを頬張りながら一息入れます。糖分の高いスナックも用意していましたが、甘いのは全然食べたい気がせず、携帯用に詰め替えた以外は全部CPに置いていくことにしました。この日の新発見!ベーコンがこんなにおいしかったとは……。
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PROFILE
札幌出身、現在は米国シカゴ都市部に在住。2014年に偶然出会ったグラベルレースの魅力に引かれ、プロ選手に混ざって上位入賞するなどレースに出続けている第一人者。5年間グラベルチーム選手として活躍し、2022年からはプライベーターとしてソロ活動。ここしばらく飛んでいないが飛行機乗り。