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ベルナルの事故で上がったTTバイク不要論、現在の競技性を保つための創意工夫|ロードレースジャーナル

vol.31 TTフォーム? 公道使用? 自動車側への規制?
公道でのTTトレーニングについての選手たちの考え

国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。今回は1月に起きたエガン・ベルナルのトレーニング中の事故を振り返り、選手たちによるトレーニング環境改善を求める声や、実際の動きについてまとめてみたい。すでにシーズンは各地で熱戦が展開されているが、TTバイクのトレーニングについては今後のレースシーンへも何らかの影響があるかもしれない。

ベルナルの事故

事態を振り返る。

1月24日、ベルナルがコロンビアの首都・ボゴタ郊外でのトレーニング中に止まっていたバスの後部に追突。複数個所の骨折や裂傷に見舞われたほか、脊椎を損傷。一歩間違えていれば、体に麻痺が残っていたかもしれないほどの大ケガだった。

ツール覇者、ベルナルがトレーニング中の事故で大腿骨などを骨折! 復帰まで数カ月か

のちに事故状況が徐々に明らかとなり、ベルナルはTTバイクでのトレーニング中に時速60kmに迫るスピードでバスに衝突していたとのこと。

この事故により、ベルナルは当面戦線を離脱することが決定的となり、現在も復帰時期は未定である。

 

経験者は語る

ベルナルの事態を受けて、真っ先に声を挙げたのは“経験者”だった。

チームメートでもあるトム・ピドコック(イギリス)も、昨年6月にアンドラでのTTトレーニング中にクラッシュし、鎖骨を骨折している。

ピドコックはイギリスメディア・BBCのインタビューで、自身の経験と照らし合わせて、ベルナルの事故は「ライディングポジションが大きな原因である」と述べている。

「(空気抵抗を軽減しようとするあまり)ポジションはますます極端になる一方。このフォームを維持するために日頃から時間を費やしている」とし、TTポジションで走るうえでの実情として「必ずしも進行方向だけを見て走っているわけではない」とコメントした。つまりは、空気抵抗を軽減するため頭を下げた際に、目線は必ずしも前方だけではないということを示唆している。

加えて、「トレーニング中に大きなクラッシュをしているのはTTバイクに乗っているときのケースが多い。私もそうだし、ベン(ターナー、イネオス・グレナディアーズのチームメート)もそうだった。そしてエガンも。極端な姿勢で走っていたことがクラッシュの最大の原因になっていることで共通している」との見方を示した。

ブエルタ・ア・エスパーニャ第21ステージで個人タイムトライアルを走り終えた直後のエガン・ベルナル ©︎Getty Images

過去4度のツール・ド・フランス制覇を成し遂げているクリストファー・フルーム(イスラエル・プレミアテック、イギリス)は、タイムトライアルバイクの禁止を提唱。

フルームといえばツールでの実績もさることながら、2019年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで個人TTステージ前の試走でクラッシュし、キャリアを脅かすほどの大ケガを負った。いまでこそ戦列に復帰しているとはいえ、その走りは全盛期と比べると正直見劣りする。やはり、TTバイクでのクラッシュが尾を引いているとみても仕方がない。

そんな彼は、自身のYouTubeチャンネルで「これまでTTによって数多くの勝利を挙げてきた」と認めたうえで、「公道で走ることを意図したものではないし、例えばツールのTTステージで1時間走るとして、それをシミュレーションできる公道が現実世界にどの程度あるのだろうか」と見解を述べた。また、機材がチーム予算次第で大きく異なっていることも挙げ、潜在的な不公平を招いているとも。

こうした状況を変える策として、「今後はタイムトライアルもロードバイクで行ってはどうだろうか?」と提案。機材的にも平等で、空気抵抗にも今ほどとらわれず、選手個々のスキルにゆだねられると主張。何より、選手・チームにとっても準備が容易であることも大きいのでは、としている。

 

安全面を理由にTTトレーニングを行わないスペシャリストも

自転車ロードレース競技において、ロードレースと並んで個人タイムトライアル種目が確立されていることや、ツールをはじめとするステージレースで総合成績の行方を左右する重要な局面になることから、現時点でTTバイクの必要有無を議論することはまずないだろう。

プロライダーの選手会組織・CPAの選手代表でもあるマッテオ・トレンティン(UAEチームエミレーツ、イタリア)は、「自分はTTスペシャリストではないから……」と前置きしたうえで、「クリス(フルーム)の意見は正しい。ただ、問題は道路の交通量。都会や田舎問わず、自転車に乗っていれば危険にさらされることがあるし、それがTTバイクかどうかの問題でもない。突然飛び出してきたり、何の理由もなく追い越しをする自動車など、一番は交通事情なんだ」と私見を語る。「時間はかかるだろうし、どうするべきかはみんなで考えたい。良い意見があればメッセージを送ってほしい」と競技関係者に投げかけた。

先のパリ~ニース第4ステージで個人タイムトライアルに勝ったワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)は、フルームの意見に「まったくのでたらめ」ときっぱり。あれだけの強さを誇りながら、じつのところ日頃は「公道でのTTバイクトレーニングは行っていない」という。もっとも、彼は安全性の側面からTTバイクで公道に出ない判断をしているといい、「ベルナルのケースだけでTTバイクを禁止するなんて奇妙でしかない。ベルナルに責任があると言うつもりはないが、それでもライダーである以上は自分自身の安全に気を配らないといけない」と自身の取り組みを例に挙げながら、選手個々のあるべき姿を説いた。

3月9日のパリ〜ニース第4ステージでは個人タイムトライアルを制したワウト・ファンアールト。プロトンきってのTT巧者でありながら、普段は公道でTTバイクでのトレーニングを行っていないという ©︎ A.S.O./Alex Broadway

前述のピドコックも、思いがけない事故を防ぐために現在の道路事情を改善するのは非現実的であることは理解している。「(TTポジションが)かなり危険なところまでいっていることは明らか」としたうえで、「現状を改善しろと言っているわけではない。より安全な方法、こうしたクラッシュを減らす方法を、それぞれが考えなければならない」と選手たちが創意工夫をして取り組んでいくことの必要性を挙げている。

これまで、空気抵抗を軽減するために数多くの研究がなされ、機材の進化によってハイレベルな戦いが見られるようになったタイムトライアル。美しいライディングフォームや、各選手が限界に挑み計測される記録やスピードは、やはりこの競技の魅力でもある。それが今後も保たれ、さらなるレベルの向上を図っていくための取り組みは今後も続く。そうした中で、安全性を確保し事故を減らす点は選手それぞれにゆだねられるところとなる。何より、選手が拠点とする街や国のルールを大前提に、その枠組みの中でできる限りのことを行うほかないだろう。

ベルナルの現在

最後に、ベルナルの現状をお伝えしておこう。

20カ所を骨折し、肺気胸なども含めると5回の手術を行ったのち、2月6日に退院。自宅でエアロバイクを使ってペダリングを再開し、3月12日にはバイクにまたがってのローラートレーニングを開始したとTwitterで報告。見る者の想像をはるかに超えるスピードでのリハビリ進行状況に、2022年中の戦線復帰もあるのでは?との見方が出てきている。

福光 俊介

サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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