モホリッチがMTB用の「下がるサドル」でエアロ勝ち! モニュメント初制覇|ミラノ~サンレモ
福光俊介
- 2022年03月20日
ワンデーレース最高峰「モニュメント」の1つである第115回ミラノ~サンレモが、現地3月19日に開催された。勝負どころの丘・ポッジオではアタックが決まらずも、その後のダウンヒルで抜け出したのがマテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス、スロベニア)。ライバルからリードを得て独走に持ち込むと、最後は2秒差で逃げ切って大会初制覇。同時にモニュメントでも初タイトルとなった。モホリッチの優勝につながる好アシストを見せた新城幸也も111位で完走している。
勝利したモホリッチはレース後に「冬場のマウンテンバイクトレーニングで使ったシートポストを今回も採用しようと計画していた」とコメントしており、「ドロッパーシートポスト」と呼ばれる、MTB用のサドル高さを調整できるシートポストを使い、下りで有利なエアロポジションを作っての勝利ということで、さらなる話題を呼んだ。
得意のダウンヒルで勝負決めたモホリッチ、ジュニア時代から変わらない勝ちパターン
ミラノ~サンレモは1907年初開催。数あるクラシックレースの中でも特に早くから開催されており、伝統的に春に開催されていることから“ラ・プリマヴェーラ”(春)との愛称を持つ。まさに春の訪れを告げるレースである。クラシックレース最高峰の「モニュメント」の1つに数えられ、これを勝つことは選手にとって一生涯の勲章にもなる。
レースはその名のとおり、ミラノを出発してサンレモを目指すルート設定。毎年300km近い距離になり、ワンデーレース最長距離になる。毎回マイナーチェンジが施されるが、3カ所の登坂区間、トゥルキーノ峠、チプレッサ、ポッジオは重要局面であることは揺るがない。最後の上りとなるポッジオは、登坂距離3.7km、平均勾配3.7%。フィニッシュ前9kmからの上りが始まり、頂上手前に最大勾配8%のポイントがある。この局面でアタックを仕掛けて後続を引き離す選手も多い。また、頂上通過後にサンレモ市街地を目指してのダウンヒルや、下りを終えてからの約2kmの平坦区間も気が抜けない。ポッジオで動いた選手たちがそのままフィニッシュへと駆けこむのか、はたまた最終・ローマ通りでのスプリント勝負になるのか、大きな焦点でもある。
そうして迎えたレースは、ファーストアタックをきっかけに8人が逃げグループを形成。エフゲニー・ギディッチ、アルチョム・ザハロフ(ともにアスタナカザクスタン チーム、カザフスタン)、アレッサンドロ・トネッリ(バルディアーニCSFファイザネ、イタリア)、フィリッポ・タリアーニ(ドローンホッパー・アンドローニジョカットリ、イタリア)、リカルド・スリタ(ドローンホッパー・アンドローニジョカットリ、スペイン)、サムエーレ・リーヴィ(エオーロ・コメタ、イタリア)、ディエゴ・セビーリャ(エオーロ・コメタ、スペイン)、フィリッポ・コンカ(ロット・スーダル、イタリア)がメイン集団からリードを得て進行。その差は最大で7分まで広がる。
レース前半のメイン集団は、ワウト・ファンアールト(ベルギー)擁するユンボ・ヴィスマや、2014年優勝のアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー)がいるアンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオが前に出てコントロール。フィニッシュまで100kmを残したあたりからはバーレーン・ヴィクトリアスも前線へ。牽引するのは、このレースが復帰戦となる新城だ。
ときおり集団でクラッシュが発生したものの、おおむね淡々と進行。そんな流れが変わったのは残り42km、カポ・ベルタの小さな上りで先頭グループが2つに分裂。協調が崩れたことでそれまでの状況とは一変。3人を切り離して、5人が先を急ぐ形になる。一方、メイン集団では、同じポイントで注目選手の1人だったトーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)がまさかの後退。その後リタイアを選択している。
カポ・ベルタで一度は遅れたコンカだったが、下りで先頭グループに復帰。しかし、その直後に両脚の痙攣に見舞われてストップ。何とか再出発を果たすが、先頭への復帰は難しくなり、そのまま集団へと戻っている。
逃げとメイン集団との差が2分となって、やってきたのは重要局面の1つであるチプレッサ。先にやってきた逃げグループでは、それぞれに脚の違いが見られ始め、やがてトネッリとリーヴィだけが先頭に残る形に。メイン集団では、上りの直前にメカトラブルに見舞われたペテル・サガン(トタルエナジーズ、スロバキア)が前線復帰できず。ユンボ・ヴィスマやバーレーン・ヴィクトリアスがペースを上げる中、優勝候補と目される選手たちが次々と集団前方に顔を見せ始める。逃げとの差が一気に縮まり、頂上通過後の下りを終える頃には、25秒ほどまで迫った。
それから少しの間はトネッリとリーヴィが粘りを見せたが、最後の上りであるポッジオを迎えると、あっという間に集団が追いついた。フィニッシュまでは9km。ここからはビッグタイトルをかけた最高レベルの駆け引きが繰り広げられた。
上りの入口からユンボ・ヴィスマとUAEチームエミレーツが激しい主導権争い。UAEはディエゴ・ウリッシ(イタリア)の牽引で、優勝候補筆頭ともいわれるタデイ・ポガチャル(スロベニア)を引き上げる。その勢いのまま、残り8.2kmでポガチャルが1回目のアタック。ファンアールトがすかさずチェックに入り、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス、オランダ)らが続く。
いったんまとまった集団は牽制気味となったが、ペースが緩んだタイミングでポガチャルが2回目のアタック。さらに500mほど進んだところで3回目と断続的に仕掛けるが、どれもチェックに動く選手が現れて抜け出すまでには至らない。残り7.1kmでは意表をついてプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)がアタック。500m先ではポガチャルがまたもカウンターアタックと攻撃に出るが、なかなか決定打が生まれない。
残り6.5kmでのセーアン・クラーウアナスン(チーム ディーエスエム、デンマーク)のアタックで集団が崩れかけるが、力のある選手たちがどうにか差を埋めて難を逃れる。クラーウアナスン、ポガチャル、ファンアールト、ファンデルプールの4人が先に頂上を通過したが、後ろもすぐに続いて下りではひとまとまりになった。
上りで決定打が出ず、そうなると生き残った選手たちでサンレモ市街地へ向かうのがこのレースの定石だが、今回は違った。その瞬間は残り4.5km、ダウンヒルで加速している中をモホリッチが猛然とスピードアップ。ライバルの間を縫って先頭に躍り出ると、その勢いのまま下りを攻める。リードを許した精鋭グループでは、ファンアールトやファンデルプールがその差を埋めようとスピードアップを図るが、リスクをいとわないモホリッチのダウンヒルにタイムギャップは広がる一方。下り終えた直後にはポガチャルも動きを見せるが、モホリッチに届く気配がない。
数秒のリードのまま最終の平坦区間を駆け抜けるモホリッチ。残り1kmを示すフラムルージュを通過してからはさすがに後続の猛追を受けたが、懸命の逃げでローマ通りまで到達。後ろでは2番手にアントニー・テュルジス(トタルエナジーズ、フランス)が立つが、その頃には勝負あり。モホリッチが2秒差で逃げ切って、ミラノ~サンレモ初優勝を決めた。
27歳のモホリッチは、これがモニュメント初制覇。ジュニア時代から世界のトップを走り、2012年にはジュニア、2013年にはアンダー23でそれぞれ世界王者に輝いている。当時からダウンヒルテクニックには定評があり、各年代でマイヨアルカンシエルを獲った時も下りで勝負を決めている。トッププロになってからもそのスタンスは変わらない。また、山岳やタイムトライアルにも強く、1週間程度のステージレースでは上位を狙う力を持つが、今回晴れてワンデーレースにも強いことを証明。キャリア最大の勝利をつかんだ。
そして何より、バーレーン・ヴィクトリアスのチーム力も光ったレースになった。ヤン・トラトニク(スロベニア)が9位に入ったほか、クライマーのダミアーノ・カルーゾ(イタリア)も15位とまとめている。そして何より、早い時間帯からレース構築に努めた新城の役目もモホリッチ優勝の大きな原動力となった。
なお、表彰台はモホリッチに続き、2位がテュルジス、3位にはケガからの復帰で今季ロード初レースだったファンデルプールが入線。新型コロナウイルス感染から回復し、久々のレースだった新城も111位で完走した。
ミラノ~サンレモ優勝 マテイ・モホリッチ コメント
「冬場のマウンテンバイクトレーニングで使ったシートポストを今回も採用しようと計画していた。とても軽量で、ポッジオのようなテクニカルなダウンヒルでもピッタリだと考えていた。実際にロードでのトレーニングで試してみたらとてもうまくいったので、あとはレースでトライするだけだった。
ストラーデ・ビアンケではジュリアン・アラフィリップの後ろでクラッシュしてしまい、ヒザを痛めた。靭帯が炎症を起こして長く痛みが引かなかったが、水曜日にやっとトレーニングを再開できた。ほかにも体調不良を抱えている選手が多いことは知っていたし、自分自身に大丈夫だと言い聞かせていた。
ポッジオの下りは集中できた。途中バランスを崩すこともあったが、ジャンプしてトラブルを回避した。2度目には両方のタイヤを滑らせてタイムロスしたり、急ぐあまり早々に力を使い切ってしまったりしたが、何とか逃げ切ることができて良かった」
ミラノ~サンレモ2022 結果
1 マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス、スロベニア) 6:27’49”
2 アントニー・テュルジス(トタルエナジーズ、フランス)+0’02”
3 マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス、オランダ)ST
4 マイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ、オーストラリア)
5 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
6 マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)
7 セーアン・クラーウアナスン(チーム ディーエスエム、デンマーク)
8 ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)
9 ヤン・トラトニク(バーレーン・ヴィクトリアス、スロベニア)+0’05”
10 アルノー・デマール(グルパマ・エフデジ、フランス)+0’11”
111 新城幸也(日本、バーレーン・ヴィクトリアス)+8’31”
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。