マチューにポガチャルも参戦! ロンド・ファン・フラーンデレン展望|ロードレースジャーナル
福光俊介
- 2022年04月01日
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vol.33 調子を合わせてきたマチューとピドコック
パヴェ適性証明のポガチャルにもチャンスあり!
国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。春のクラシックシーズンはいよいよ大物「ロンド・ファン・フラーンデレン」へ。自転車王国ベルギー最大のレースにして、ワンデーレースにおける最高権威ともいわれる名誉ある戦いに、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス、オランダ)やタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)が出走を予定。激戦必至のレースに向けて、注目選手やコースをプレビューする。
昨年より約20km長い273kmの戦い
クラシックレースの中でもとりわけ歴史と伝統を誇る「モニュメント」の1つに数えられるのが、4月3日に開催されるロンド・ファン・フラーンデレンだ。ロードレースが国技のベルギーでは最も格式の高いレースとされ、このレースの勝者は“キング・オブ・クラシック”として称えられる。
そんな「クラシックの王様」は、1913年に初開催。今回で106回目を数える。これだけの歴史を誇り、ステータスが高いゆえんは、きわめて過酷なコース設定によるところが大きい。例年250kmを超える長距離、テクニカルなルートセッティング、次々とやってくるパヴェ(石畳)や急坂、といった要素がこのレースに挑む選手たちをふるいにかける。ときに目まぐるしい天候の変化も加わって、予想だにしない展開になっていくことだってあるのだ。
今年はレース距離が273kmに設定。前半2カ所のパヴェセクションをのぞき、残る23のセクション(急坂18、パヴェ5)は後半に集中している。ちなみに前回大会のレース距離は254.3km。今回は約20km距離が延びたことになる。
なかでも注目は、3回(136km地点、218km地点、256km地点)登坂するおなじみのオウデ・クワレモント(登坂距離2.2km、平均勾配4%、最大勾配11.6%)と、2回登坂(221km地点、259km地点)のパテルベルグ(0.36km、12.9%、20.3%)。この2カ所で決定打が生まれることが多く、それぞれ3回目と2回目はレース終盤とあって、優勝争いの重要局面となることは間違いない。2回目のパテルベルグを越えると、フィニッシュまでは14km。ここで独走に持ち込めるか、はたまた小集団か、いや大集団か、それで最終盤の展開は大きく変わってくる。
ここまでに開催されてきた北のクラシックでは、ファルケンベルグ(184km地点)やベルグ・テン・ホウト(196km地点)などでも大きな局面を迎えており、今大会でも有力選手たちが何か動きを見せることが考えられる。いずれにせよ、いつもどおりのレースとはならないのが、ロンド・ファン・フラーンデレンなのである。
ワウト出走回避の可能性、マチューは俄然優位に
開催が目前に迫り、心配な情報が入ってきている。優勝候補の1人、ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)が体調を崩し、3月31日にチームが行った試走を欠席。このままレースを欠場する可能性が高いことをチーム首脳陣が示唆しており、いまだ手にしていないロンドのタイトルは来年以降へお預けとなる可能性が高まっている。最終決定はどのタイミングでなされるか、今後の動向を押さえておきたい。
🇧🇪 #RVV22
Wout van Aert is not feeling well, so he will not join the Tour of Flanders recon. His participation in the Tour of Flanders is unlikely. pic.twitter.com/dxsZvPrWSh
— Team Jumbo-Visma cycling (@JumboVismaRoad) March 31, 2022
そうなってくると、俄然有力視されるのが2年前の覇者であるマチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス、オランダ)だ。昨夏からの背部の痛みやヒザの故障が長引きシーズンインが遅れていたが、ここへきてきっちりと調子を合わせてきた。今季の北のクラシック初参戦となった3月30日のドワーズ・ドール・フラーンデレンでは、終盤のアタック合戦を冷静に見極め、最後は勝ちパターンに持ち込む抜群の勝負勘も披露。ケガの不安はここまでなく、このままであれば優勝候補筆頭に挙がる。
同様に調子を上げてきたのが、北のクラシック初タイトルを目指すトーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)。シクロクロスで培ったパワーとスピードは、ファンアールトやファンデルプールと同等の力があると見て良いだろう。あとはロードでの経験値だけで、実力的にはいつビッグタイトルを手にしても不思議ではない。もっとも、ミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)やディラン・ファンバーレ(オランダ)といった実力者も控えており、チーム力だけ見ればアルペシン・フェニックスをしのぐ。エース同士の戦いになるまでに、チームとして主導権を握り消耗戦に持ち込めるとおもしろい。
前回覇者のカスパー・アスグリーン(クイックステップ・アルファヴィニル、デンマーク)も状態は悪くない。ここまで大きなリザルトこそないが、直近で走ったE3サクソバンククラシックとヘント~ウェヴェルヘムでは前線に顔を見せ、チャンスをうかがう姿が見られた。チームとしてもロンドはお家芸だがいつもとは異なり、調子が上がり切っていない選手や戦線離脱者が多い状況。戦力的にはギリギリだが、アスグリーンに勝負を託す形でレース構築していきたい。なお、昨年まで2年間ロンドを走ったジュリアン・アラフィリップ(フランス)は今回出場しない。
ツール・ド・フランスのパヴェステージに向けた予行演習として参戦を表明したのが、絶対王者タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)。先のドワーズ・ドール・フラーンデレンでは、勝ち逃げへの合流こそ逃したものの、レース後半は追走グループを自ら形成するなどさすがの走りを見せた。本人は「パヴェは予想以上に難しかった」と振り返ったが、見せ場を作ったあたりに北のクラシックへの適性を感じさせた。一層タフになるロンドでは、勝負どころでの取りこぼしがなければ大いにチャンスがめぐってきそうだ。優勝候補に含めても決して間違いはないだろう。
ファンアールトの情勢が厳しいユンボ・ヴィスマは、ここまで抜群のコンビネーションを見せてきたティシュ・ベノート(ベルギー)とクリストフ・ラポルト(フランス)が重責を担うことになる。ここまでのレースでは、チーム戦術的にファンアールト頼みに偏ってはおらず、展開次第でベノートやラポルトに自由が与えられている印象だ。ファンアールトが欠場したドワーズ・ドール・フラーンデレンでは、ベノートが自らレース後半を組み立てて、最終的に2位。両者とも実力・実績は申し分なく、ファンアールトの代役を務めるにふさわしい選手たちだ。
混戦になればチャンスなのが、トレック・セガフレードの名コンビ、ヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)とマッズ・ピーダスン(デンマーク)。ともにアタック、逃げ、スプリントと万能で、有力どころが見合う隙に勝機を引き寄せることもできる。ヘント~ウェヴェルヘムではストゥイヴェンが4位、ピーダスンが7位。どんな展開になっても双頭体制を維持できるあたりは大きな強みだ。
TTスペシャリストの顔を持つヴィクトール・カンペナールツ(ロット・スーダル、ベルギー)やシュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ、フランス)は、うまく独走に持ち込めば大仕事の可能性は十分。ともに直近のレースでは確実に上位戦線に入ってきているだけに、大穴としてチェックしたい。
過去の勝者も名を連ねており、2015年優勝のアレクサンダー・クリストフ(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、ノルウェー)、2018年のニキ・テルプストラ(トタルエナジーズ、オランダ)、2019年のアルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・イージーポスト、イタリア)も出場予定。スプリントになれば優位に立つマイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ、オーストラリア)や、ドワーズ・ドール・フラーンデレンでは逃げからそのまま5位に入ったニールス・ポリッツ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)の戦いぶりも楽しみだ。
なお、イスラエル・プレミアテックは4月1日に声明を出し、所属選手に負傷者や新型コロナウイルス陽性者が相次いでいるため、ロンド・ファン・フラーンデレンへの出場を取りやめたと発表した。
福光 俊介
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。
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TEXT:福光俊介 PHOTO:Lars Crommelinck Photo News Getty Images Tim De Waele / Getty Images sprintcycling Jumbo – Visma
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。