ユイの壁、20%の激坂を一番に上り切ったのはトゥーンス! バルベルデは殊勲の2位|ラ・フレーシュ・ワロンヌ
福光俊介
- 2022年04月21日
春のレースシーンを彩るアルデンヌクラシックの1つ、ラ・フレーシュ・ワロンヌが現地4月20日、ベルギー南部のワロン地域で開催された。最大勾配26%の名所「ユイの壁」を3回上る激坂決戦は、セオリーどおりともいえるユイ3回目登坂で決着。頂上に設けられたフィニッシュラインに一番にやってきたのは、地元ベルギーのディラン・トゥーンス(バーレーン・ヴィクトリアス)だった。残り100mまで食らいついた41歳アレハンドロ・バルベルデ(モビスター チーム、スペイン)が2位と、こちらも殊勲の走りを見せた。
バルベルデやアラフィリップらを振り切り、トゥーンスがユイの壁に一番登頂
1936年に初開催、今年で86回目を迎えた伝統の丘陵レース。大会名にある“フレーシュ”とは、同地で話されるフランス語で「矢」を意味し、ルートをなぞると1本の矢のようになるコース設定が最大の特徴だ。
レース距離は200km前後と、ワンデークラシックとしては比較的短め(今年は202.1km)だが、この間にいくつもの丘越えがセッティングされ、今年は11カ所を上ることになる。ブレニーの街を出発し、しばしのワンウェイルートでは丘越えが2つだけだが、ユイを基点とする31.2kmの周回コースに入ってから3つの重要な上りをそれぞれ3回走る。その中にはもちろん、ユイの壁も含まれている。この周回をおおよそ2周半する間に、3回のユイの壁登坂があり、その最後が勝者を決める場となる。
ユイの壁は登坂距離1.3km、平均勾配9.6%。公式には最大勾配19%となっているが、局所的に26%とも29%とも言われている。とりわけ中腹の傾斜が厳しく、最終の3回目では、その区間を合図にフィニッシュまでの激坂アタックが始まる。フィニッシュまでの距離は約400m。そこまでのポジショニングや、踏み込むタイミングが順位決定に大きな影響を及ぼすことになる。とにかく、この上りで勝負が決まることが通例で、その前に逃げを試みた選手がトップを守り切ったケースはほんの数回しかない。
まず10人の逃げでレースが幕を開けるが、彼らとメイン集団との差は最大でも3分15秒。それ以上は大きくならず、残り110kmを切ってからはその差は縮まり始める。さらに20kmほど進んだところで、その差は早くも1分台に。完全に逃げメンバーを射程圏内に捉えて、矢の先端にあたる周回コースへと入った。
フィニッシュまでは62km、1回目のユイの壁でメイン集団はモビスター チームやクイックステップ・アルファヴィニルがペースをコントロール。ここでトーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)が完全に遅れてしまい、そのままリタイア。注目されていた選手が1人、この段階で姿を消した。上り終えた直後には、バーレーン・ヴィクトリアスが猛然とペースアップ。風を利用して集団破壊を試みたが、ここはレース展開が大きくは動かなかった。
残り48kmでは、ヤン・バークランツ(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、ベルギー)が単独で集団から飛び出すが、これもしばらくして集団へと引き戻される。代わって、サイモン・カー(EFエデュケーション・イージーポスト、イギリス)が残り38kmのコート・ド・シュラーブ2回目でアタック。逃げグループからこぼれた選手たちを拾いながら前を目指す。タイミングを同じくして、これまた有力視されていたヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)が早めの脱落となる。
数度の上りを経て5人となった逃げグループは、残り31kmでやってきた2回目のユイ登坂へ。ここで1人切り離して、4選手で先を急ぐ。すぐ後ろにはカーが続き、頂上通過後ほどなくして先頭合流を果たす。彼らから30秒ほどの差でメイン集団もやってきて、次の焦点はいつレースがふりだしに戻るかとなっていった。
逃げ切りの可能性がほぼなくなっていた先頭メンバーだが、残り20kmで迎えた3回目のコート・デレッフでカーがアタックすると、当初から逃げていたうちのヴァランタン・フェロン(トタルエナジーズ、フランス)だけが追随。2人逃げに対して、メイン集団はダミアーノ・カルーゾを先頭にバーレーン・ヴィクトリアスがコントロール。残り15kmで17秒差、残り10kmで5秒差となって、その1km先でついに逃げ全員をキャッチ。ここからは、3回目のユイの壁へ向けてプロトンの緊張感が増していった。
残り7kmで上った3回目のコート・ド・シュラーブではコフィディスが組織的な動きでレミ・ロシャス(フランス)を放つが、これを追ったマウリ・ファンセヴェナント(クイックステップ・アルファヴィニル、ベルギー)とセーアン・クラーウアナスン(チーム ディーエスエム、デンマーク)にパスされ奇襲は失敗。先頭に立った2人も、イスラエル・プレミアテックやイネオス・グレナディアーズが引くメイン集団の勢いには勝てず。結局ユイの上り入口で捕まり、優勝争いはやはり激坂勝負となった。
運命のユイの壁3回目。集団前方を固めるのは、モビスター チーム、イネオス・グレナディアーズ、バーレーン・ヴィクトリアス。前回覇者のジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファヴィニル、フランス)や初優勝を狙うタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)はその後ろに控える。さらにグランツールレーサーのエンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)が牽引してバルベルデを好位置へ。そして、26%勾配の区間の通過を合図に頂上に向かってのアタックが始まった。
マスの引き上げからバルベルデが加速。これに続いたのはアレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)。逆サイドからはトゥーンスが踏み込んで先頭へ。その後ろについていたポガチャルは失速。これで中切れが発生し、ポガチャルの番手につけていたアラフィリップは急いで前の3人を追わざるを得ない状況となった。
こうなると俄然、最前線の選手たちが有利。トップに立つトゥーンスにバルベルデが並びかけるも、残り100mで限界が来たかスピードダウン。最後の最後まで力強く脚を回し続けたトゥーンスが一番にユイの壁の頂上に到達した。
30歳のトゥーンスは、これがビッグクラシック初制覇。これまでツール・ド・フランスではステージ2勝を挙げ、1週間程度のステージレースでも個人総合優勝を経験しているが、晴れてワンデーレースにも強いことを証明。特に今季は好調で、ロンド・ファン・フラーンデレン6位、アムステル・ゴールドレース10位と上々の走りで今大会へと臨んでいた。バーレーン・ヴィクトリアスとしても今季9勝目。ミラノ~サンレモでのマテイ・モホリッチ(スロベニア)や、現在イタリアで開催中のツアー・オブ・ジ・アルプスで好走しているペリョ・ビルバオ(スペイン)らの活躍も含めて、完全に勢いに乗っている。
トゥーンスとのマッチアップこそ敗れたものの、41歳のバルベルデが殊勲の2位。今季限りでの引退を表明しており、“ファイナルユイの壁”で自身が持つ優勝記録(5回)の更新はならなかったが、レース後の表情には満足感が溢れていた。3位にはウラソフが続き、追走届かなかったアラフィリップは4位で連覇ならず。大注目だったポガチャルは12位に終わった。
激闘続いた春のクラシックは、これで残すところ24日のリエージュ~バストーニュ~リエージュだけに。今大会の主役を争った選手たちに加えて、グランツールレーサーやクライマーも乗り込んで、ロードシーン指折りの権威あるレースを戦うことになる。
ラ・フレーシュ・ワロンヌ優勝 ディラン・トゥーンス コメント
「自らの脚の状態を把握するとともに、ユイの壁を前に良いポジションを確保している必要があった。少しストレスを感じていたが、余計なことを考えずにポジショニングに集中した。ベストポジションを確保でき、あとはバルベルデのタイミングに合わせるだけだった。
スペイン・バレンシアで新型コロナウイルスに感染し、しばらくレースから離れていた時期があるが、その時に慌てなかったことがいまにつながっている。トレーニングに戻れるまで辛抱し、レーススケジュールの変更にも対応した。復帰戦だったボルタ・ア・カタルーニャ(3月)が満足できる内容だったので、春のクラシックは自信をもって迎えていた。
バルベルデには敬意を表したい。彼はユイの王様だ。5年前は彼が勝ち、私は3位だった。その時にはまったくついていくことができなかったが、同時にユイの走り方を学んだ。それが今日の結果に生かされて、誇りに感じている」
ラ・フレーシュ・ワロンヌ2022 結果
1 ディラン・トゥーンス(バーレーン・ヴィクトリアス、ベルギー) 4:42’12”
2 アレハンドロ・バルベルデ(モビスター チーム、スペイン)+0’02”
3 アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)ST
4 ジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファヴィニル、フランス)+0’05”
5 ダニエル・マルティネス(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)+0’07”
6 マイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック、カナダ)ST
7 ルーベン・ゲレイロ(EFエデュケーション・イージーポスト、ポルトガル)
8 ルディ・モラール(グルパマ・エフデジ、フランス)
9 ワレン・バルギル(チーム アルケア・サムシック、フランス)
10 アレクシー・ヴィエルモ(トタルエナジーズ、フランス)
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。