ポガチャルがグラベルの激坂制して2連勝! ヴィンゲゴーは強力アタック実らず|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2022年07月09日
ツール・ド・フランスの第7ステージが現地7月8日に行われ、1級山岳プロンシュ・デ・ベル・フィーユの頂上を征服したタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)がステージ優勝。前日に続く2連勝は、最終局面の激坂グラベル区間でアタックしたヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)をかわしてのものだった。前のステージで手にしたマイヨジョーヌの座を固め、引き続きトップを走る。
ユンボ包囲網を打ち破るマイヨジョーヌ、ポガチャルの驚異的走り
前日行われた第6ステージは、短い急坂でのスプリント勝負になり、ポガチャルが今大会1勝目を挙げた。マイヨジョーヌにも袖を通し、大会3連覇へ向けて早くもエンジンが温まった印象を観る者に植え付けた。
迎える第7ステージは、トンブレンヌからラ・スペル・プロンシュ・デ・ベル・フィーユまでの176.3km。最後に上る1級山岳プロンシュ・デ・ベル・フィーユは、ここ10年で6回目の登場。ツールではおなじみになった上りは、20%前後の激坂区間が大きな特徴。過去5回のうち4回は、ここでマイヨジョーヌに袖を通した選手がそのまま個人総合優勝に輝いている。もっと言うと、2020年大会の第20ステージで催された山岳個人タイムトライアルでポガチャルが世紀の大逆転を演じた地、といえば思い出す方も多いのではないだろうか。そんな激闘の山に、今年は主催者が“ラ・スペル(Super)”のタイトルをつけた。
サッカーのフランスリーグ「リーグ・アン」に所属するASナンシーのホームスタジアム、スタッド・マルセル・ピコを見ながら出発をしたプロトン。リアルスタートまでのニュートラル区間でポガチャルが2回メカトラに見舞われたほか、チームメートのジョージ・ベネット(ニュージーランド)、マルク・ソレル(スペイン)もチームカーを呼んでバイク確認を施すなど、UAEチームエミレーツ勢にとっては慌ただしい序盤戦を過ごす。
レースは出入りが連続した中から、40km地点でのシモン・ゲシュケ(コフィディス、ドイツ)のアタックをきっかけに11人が先行。このうち、ディラン・トゥーンス(バーレーン・ヴィクトリアス、ベルギー)とジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード、イタリア)は、プロンシュ・デ・ベル・フィーユを上った2019年の第6ステージで、ステージ優勝とマイヨジョーヌ着用を分け合っている。
2分30秒前後のタイム差で推移した先頭グループとメイン集団。101.2km地点に置かれた中間スプリントポイントは、逃げていたうちのマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)が1位で通過。約2分の差でメイン集団が到達し、ポイント賞のマイヨヴェールを着るワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)が先着。全体11位で通過をしている。
また、2つの3級山岳も先頭グループの選手によるポイント収集となり、ゲシュケが得点を稼いでいる。
先頭のメンバーは逃げ切りにかけて最後の上り、プロンシュ・デ・ベル・フィーユへと急ぐ。残り7kmから上りが始まると、レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)がペースアップし人数を絞り込んでいく。続いてゲシュケがカウンターアタックを繰り出すと、少しおいてケムナが合流。2人で進むかに思われたが、残り5kmとなったところでケムナがゲシュケを引き離し、独走で頂上を目指した。
メイン集団は、リーダーチームのUAEチームエミレーツが長くコントロールを続けたが、残り10kmからはイネオス・グレナディアーズが前線へ。スピードアップを図ると、その勢いのまま最後の上りへ。2012年にこの山を制したクリストファー・フルーム(イスラエル・プレミアテック)、個人総合成績が期待されたベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストラリア)、このステージの勝利に意欲的だったティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ、フランス)といったビッグネームが脱落する中、残り4kmとなったところで30人ほどまで人数が減った。
最後の3kmに入ってからは、ヤコブ・フルサン(イスラエル・プレミアテック、デンマーク)、アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)、アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・カザクスタン チーム、カザフスタン)といった活躍が期待された選手たちも遅れ始める。個人総合2位につけていたニールソン・ポーレス(EFエデュケーション・イージーポスト、アメリカ)も、残り2kmを前に集団から姿を消した。
この頃には集団は再びUAEチームエミレーツのコントロール下に。ブランドン・マクナルティ(アメリカ)、ベネットときて、最終山岳アシストのラファウ・マイカ(ポーランド)が引き始めると、そこに続けたのは10人程度。上りの始まりで1分以上あった先頭との差は、残り1kmで35秒まで縮まった。
逃げるケムナは、フラムルージュを過ぎて最後の難所である激坂グラベル区間へ。まっすぐ進むことさえままならない上りを、懸命に突き進んだ。かたやメイン集団は、牽引役のマイカが役目を果たして、真打ちポガチャルにバトンタッチ。牽制することなく集団先頭に立ったポガチャルを、ヴィンゲゴーとプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)のユンボ・ヴィスマ勢がチェックに急いだ。
しばし前に立ち続けたポガチャルだったが、最も勾配が急になる残り400mでヴィンゲゴーがアタック。わずかながらポガチャルに対しリードを得て最後の直線へとやってきた。長時間トップを走り続けたケムナは、残り100mで無念。ステージ優勝は前に出たヴィンゲゴーか、追うポガチャルに絞られた。
すべてが決したのは最後の50m。一度は差をつけられたポガチャルだったが、驚異の粘りでヴィンゲゴーをかわすと、そのまま一番にフィニッシュラインへ。右手を高らかに掲げて勝ち名乗りを上げた。一方のヴィンゲゴーは、フィニッシュと同時にその場に足をついてしまうほど出し切った様子。また今回も、プロンシュ・デ・ベル・フィーユは激闘の舞台となった。
ポガチャルはこれで、ツールのステージ通算としては8勝目。マイヨジョーヌの地位を固めると同時に、山岳賞ランキングでも2位へ。ヤングライダー賞と合わせて、3部門でトップに立つ可能性も出てきている。
今大会最初の本格山岳ステージとあり、個人総合順位も活躍が期待されるオールラウンダーで占められてきた。ポガチャルから35秒差でヴィンゲゴーが2位へ。ステージ5位のゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)が、1分10秒差の3位に浮上。1分18秒差でアダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)が4位、1分31秒差でダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)、1分32秒差でロマン・バルデ(チーム ディーエスエム、フランス)と続いている。
現役ツール王者によるステージ2連勝に沸く大会。翌日の第8ステージは、ドールからローザンヌまでの186.3kmで争われる。このツール4カ国目となるスイスに入国する1日は、丘陵ステージに数えられ、逃げ狙いの選手やパンチャーが力を発揮しそう。ローザンヌのフィニッシュは、3級山岳の上りに設定される。
ステージ優勝、マイヨジョーヌ、マイヨブラン タデイ・ポガチャル コメント
「ステージ優勝が今日の目標だった。ヨナス(ヴィンゲゴー)のアタックは本当に強かった。でも、チームメートが1日を通して働いてくれた後だったから、何としてもプッシュしないといけないと自分に言い聞かせた。今日はフィアンセがフィニッシュラインで待っていて、家族も上りの入口で見守ってくれた。さらには、今日がん研究財団を立ち上げた。それに関連してスペシャルシューズで走ったので、このステージを勝つべき理由がたくさんあったんだ。
2020年にこの上りで成功を収めて、今日も勝つことが最大の目標だった。ヨナスは私にとって最大のライバルだと感じている。最強のクライマーの1人だし、彼のチームは非常に強力だ。でも、私もここまではうまく走れている。サイクリングは1秒ごとに状況が変わるスポーツだから、気を抜くつもりはまったくないよ」
ツール・ド・フランス2022 第7ステージ結果
ステージ結果
1 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア) 3:58’40”
2 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)ST
3 プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)+0’12”
4 レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)+0’14”
5 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)ST
6 ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)+0’19”
7 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+0’21”
8 ロマン・バルデ(チーム ディーエスエム、フランス)ST
9 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+0’29”
10 セップ・クス(ユンボ・ヴィスマ、アメリカ)+0’41”
個人総合時間賞(マイヨジョーヌ)
1 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア) 24:43’14”
2 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)+0’35”
3 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+1’10”
4 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+1’18”
5 ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)+1’31”
6 ロマン・バルデ(チーム ディーエスエム、フランス)+1’32”
7 トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+1’35”
8 ニールソン・ポーレス(EFエデュケーション・イージーポスト、アメリカ)+1’37”
9 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+1’43”
10 ダニエル・マルティネス(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)+1’55”
ポイント賞(マイヨヴェール)
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)
山岳賞(マイヨアポワ)
マグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト、デンマーク)
ヤングライダー賞(マイヨブラン)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ 74:13’25”
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TEXT:福光俊介 Photo:A.S.O./Charly Lopez A.S.O./Hervé Tarrieu
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。