コルトが全グランツールでステージ優勝を達成、雨のステージで逃げ切る|ジロ・デ・イタリア
福光俊介
- 2023年05月17日
ジロ・デ・イタリア2023は第2週がスタート。その初日となった5月16日は、196kmによる第10ステージを実施。強い雨が降る中、序盤から逃げていた3選手がリードを保ってそのまま優勝争いへ。最後はマグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト、デンマーク)が競り勝ってステージ優勝。コルトはこれで、すべてのグランツールでステージ優勝を達成。個人総合首位の証であるマリア・ローザは、この日から着用したゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)が集団でレースを終えて、ジャージをキープしている。
未出走、リタイアが続発した第2週初日
雨の多かった大会第1週を経て、この日からは中盤戦へ。第9ステージを終えた時点で個人総合トップだったレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)は、新型コロナウイルス感染によって大会を離脱。ほかにも感染者や新型コロナとは別に体調を崩す選手も相次いでおり、このステージだけで9選手が未出走となっている。
スカンディアーノからヴィアレッジョまでの196kmに設定されたレースは、星2つの平坦ステージだが、前半から中盤にかけて2級と4級のカテゴリー山岳が待ち受ける。これを上ってからの約70kmはおおむねフラット。この日も強い雨に見舞われ、場所によっては気温10度を下回る寒さが選手たちの走りを難しくする。
リアルスタート直後からアタックが頻発する中、20kmほど進んだところでデレク・ジー(イスラエル・プレミアテック、カナダ)とアレッサンドロ・デマルキ(チーム ジェイコ・アルウラー、イタリア)が抜け出すことに成功。少しおいてコルトとダヴィデ・バイス(エオーロ・コメタ、イタリア)が追走を始めて、やがて前を走っていた2人に合流。メイン集団ではモビスター チームを中心にコントロールを開始しており、逃げる4人が先頭グループを形成して進んだ。
途中のチェックポイントは、1回目の中間スプリントでバイスが1位通過し、その後やってきたメイン集団ではポイント賞争いのトップに立つジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)が先着。全体の5位通過としている。長い上りの先に置かれた2級山岳ポイントもバイスが1位通過し、トップにつける山岳賞で得点を伸ばしている。
一層強まる雨に、集団ではチームカーまで下がってレインジャケットやグローブを交換し寒さ対策に努める選手たちの姿が多くみられる。悪条件も絡んで、2級の上りで遅れる選手が続出。イネオス・グレナディアーズがつくるペースについていけない選手の中には、個人総合6位でスタートしていたアレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)も。ウラソフは結局レース続行が不可能となり、リタイアを余儀なくされている。
その後の下りでは、多くの選手が慎重にバイクをコントロールするが、一方でミランやダミアーノ・カルーゾ、アンドレア・パスクアロン(ともにイタリア)のバーレーン・ヴィクトリアス勢、さらにパヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ、フランス)が集団を飛び出して、先を急ぎ始める。ここにロレンツォ・ロータ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、イタリア)も加わり、前を目指す機運が高まるかに思われたが、集団を率いるイネオス・グレナディアーズが冷静に対処。この日のカテゴリー山岳をすべて終える頃にはカルーゾらを引き戻し、リードするのは逃げメンバーだけの状況に戻している。
先頭グループでも動きがあり、山岳ポイント収集のミッションを終えたバイスがダウンヒル区間で離れて3人逃げに。最大で4分30秒ほどあったリードは少しずつ減っていき、フィニッシュまで20kmを残して集団が1分後ろまで近づいてくる。しかし、ダウンヒル区間で集団が分断したことで人数を大幅に減らしていたことなどが関係してか、終盤に入って集団を牽引するチームが現れない。残り10kmで45秒差まで縮まったのを境に逃げの3人がリードを守れる状勢となり、逃げ切りムードが高まっていった。
フィニッシュまで2kmとなった時点でも45秒差を保ち、3人の逃げ切りは濃厚に。ステージ優勝をかけた勝負は、残り1.6kmでジーがアタックし動き出すと、最終1kmのフラムルージュ通過と同時にコルトが追いつく。デマルキも何とか再合流して、3人のままスプリントへ。ここはコルトに一日の長があり、残り150mで前へ出るとあとの2人に並ぶことも許さず、一番にフィニッシュラインを駆け抜けた。
コルトはジロ初勝利、グランツールのステージ通算では9勝目。そして、グランツールすべてでのステージ優勝者となった。逃げにスプリントに幅広く力を発揮する30歳が、得意とする少人数での争いを制した。
コルトから51秒後にメイン集団もフィニッシュへ到達。結果的に40人ほどに絞られ、残ったスプリンターたちがステージ上位を競った。ここはマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)が先着し、ステージ4位。マリア・ローザのトーマスら個人総合上位陣はおおむねこのグループでレースを終えて、順位を維持している。
個人総合上位陣のうち、6位でスタートしたアンドレアス・レックネスン(チーム ディーエスエム、ノルウェー)が集団からわずかに遅れてトーマスとのタイム差が広がっているほか、同11位につけていたジェイ・ヴァイン(UAEチームエミレーツ、オーストラリア)が下りで落車後に集団復帰ができず、11分19秒差でのフィニッシュにより大きくランクダウンを喫している。
新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)は、レース前半に集団内での位置取りなど役割をこなし、その後はグルペットへ。23分2秒差でステージを完了している。
現地17日に行われる第11ステージは、今大会最長の219km。前後半それぞれに3級と4級の上りが控えるが、全体的には難易度は低め。スプリントフィニッシュが見込まれている。
ステージ優勝 マグナス・コルト コメント
「ジロは昨年初めての出場だったが、ステージ優勝を逃していた。2回目の挑戦で成功できてとてもうれしい。すべてのグランツールで勝つことは長年夢見てきたこと。今年の目標でもあった。今日のステージは前半90kmのほとんどが上りだったので、とてもハードだった。逃げている間はデマルキの強さに助けられた。最後の1時間はパワーを保てずどこかで脚が止まるのではないかと思ったが、何とか最後まで行くことができた」
個人総合時間賞 ゲラント・トーマス コメント
「思わぬ形でマリア・ローザに袖を通すことになり、今日の天気もジャージを楽しめるようなものではなかった。ただ、レースに敬意を表してジャージを守りたいと思った。レムコについては残念だと思うが、誰かがマリア・ローザを着なければならないのなら、私は喜んで責任を果たしたい。強い選手がひしめいているが、ジャージがあることでうまくレースを運べると考えている。本当の戦いは山岳なので、それまではリードを守っていきたい。まだ11ステージ残っており、気象条件がレースに影響を与える可能性があるが、できるだけ良いコンディションで走りたい」
ジロ・デ・イタリア2023 第10ステージ結果
ステージ結果
1 マグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト、デンマーク) 4:51’15”
2 デレク・ジー(イスラエル・プレミアテック、カナダ)ST
3 アレッサンドロ・デマルキ(チーム ジェイコ・アルウラー、イタリア)+0’02”
4 マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)+0’51”
5 パスカル・アッカーマン(UAEチームエミレーツ、ドイツ)ST
6 ステファノ・オルダーニ(アルペシン・ドゥクーニンク、イタリア)
7 ジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)
8 マーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタン チーム、イギリス)
9 ミルコ・マエストリ(エオーロ・コメタ、イタリア)
10 フィリッポ・フィオレッリ(グリーンプロジェクト・バルディアーニCSF・ファイザネ、イタリア)
147 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス、日本)+23’02”
個人総合時間賞(マリア・ローザ)
1 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)39:26’33”
2 プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)+0’02”
3 テイオ・ゲイガンハート(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+0’05”
4 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)+0’22”
5 アンドレアス・レックネスン(チーム ディーエスエム、ノルウェー)+0’35”
6 ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)+1’28”
7 レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)+1’52”
8 パヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ、フランス)+2’15”
9 エディ・ダンバー(チーム ジェイコ・アルウラー、アイルランド)+2’32”
10 テイメン・アレンスマン(イネオス・グレナディアーズ、オランダ)ST
150 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス、日本)+2:13’17”
ポイント賞(マリア・チクラミーノ)
ジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)
山岳賞(マリア・アッズーラ)
ダヴィデ・バイス(エオーロ・コメタ、イタリア)
ヤングライダー賞(マリア・ビアンカ)
ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ 118:19’48”
▼ジロ・デ・イタリア2023スタートリスト&コースプレビューはこちら
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。