アッカーマンが4年ぶりステージ優勝、ゲイガンハートが落車リタイア|ジロ・デ・イタリア
福光俊介
- 2023年05月18日
ジロ・デ・イタリア2023は現地5月17日に第11ステージが行われ、スプリントによるステージ優勝争いをパスカル・アッカーマン(UAEチームエミレーツ、ドイツ)が制した。ジロ通算では3勝目、今シーズンの初勝利でもあった。この日は途中での落車が相次ぎ、個人総合3位でスタートしたテイオ・ゲイガンハート(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)が負傷リタイア。マリア・ローザを争うゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)とプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)も巻き込まれるなど、波乱のステージになった。
総合とスプリントを両立するUAEチームエミレーツ、アッカーマンの勝利で勢いづくか?
前日から第2週に入り、プロトンはイタリア北部へ進行している。ここまで連日のように雨が降っているが、同国内の一部では記録的な豪雨により大洪水となっているところも。幸い第11ステージは雨には降られなかったものの、引き続き不安定な天候には注意が必要だ。
レース距離は今大会最長の219km。途中3カ所のカテゴリー山岳を越え、終盤の約40kmは下り基調。ステージ優勝の行方はスプリントで決まるとの大方の予想だ。
この日はスタートを前に8選手が出走を取りやめ。そのうち6人に新型コロナウイルス感染が認められ、残る2人も体調不良。スーダル・クイックステップに至っては4選手が走れない状態で、3人でのレースを余儀なくされている。
そんな状況下で始まったレースは、リアルスタートから2kmで4人が飛び出し、さらに2人が後追いで合流。6選手の逃げで全体が落ち着き、すぐにトレック・セガフレードやアスタナ・カザクスタン チーム、モビスター チームが集団コントロールを始めた。
形勢そのままで各種チェックポイントへ到達。62.1km地点に設置された1回目の中間スプリントはヴェリコ・ストイニッチ(コラテック セライタリア、セルビア)が1位通過。少しおいてメイン集団もやってきて、ポイント賞のマリア・チクラミーノを着るジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)がマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)に先着。それぞれ全体7位と8位での通過としている。
以降もストイニッチの動きが冴え、80km地点と143km地点に設けられた2つの3級山岳をどちらも1位で通過した。
2~3分程度のタイム差を維持して進んできたメイン集団にアクシデントが起こったのは、残り68km。雨の影響で路面が濡れていた下り区間でアレッサンドロ・コーヴィ(UAEチームエミレーツ、イタリア)がタイヤを滑らせ、これを避けきれなかった選手たちが次々と地面に叩きつけられてしまう。近くを走っていたトーマスやログリッチは巻き込まれながらもすぐに再出発したが、ゲイガンハートは倒れ込んで動けない。個人総合3位と好位置につけていたが、ここで無念のリタイアとなった。
さらにはオスカル・ロドリゲス(モビスター チーム、スペイン)が前走者のタイヤに接触し、コントロールを失ったままコース外側の道路標識とコンクリート壁に衝突。こちらもレースを再開できず、リタイアとなっている。
逃げる選手たちはリードを少しずつ減らしながらも先を急ぎ続け、169.7km地点に置かれた2回目の中間スプリントポイントではストイニッチが再び1位通過。この日最後の上りである4級山岳で先頭グループが崩れ、1位通過したストイニッチにローレンス・レックス(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、ベルギー)が追いついて2人逃げに変化。この頃にはメイン集団も動きが出始め、チーム ジェイコ・アルウラーのペースアップによって有力スプリンターのカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク、オーストラリア)が脱落。マーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタン チーム、イギリス)は上りで苦しんだものの、その後の下りでアシストたちとともに前線復帰に成功している。
終盤に突入し、メイン集団は下り基調も相まって一気にスピードアップ。前との差は数十秒まで縮まる。逃げではレックスがストイニッチを引き離して独走に持ち込んで、逃げ切りへわずかなチャンスにかける。しかし、複数のチームが代わる代わる牽引を行うメイン集団の勢いには勝てず、残り5kmで長い逃げは終わりを迎えた。
スプリントに向けては、トレック・セガフレードやボーラ・ハンスグローエ、チーム ジェイコ・アルウラーが激しい主導権争い。残り3.4kmでチャーリー・クオーターマン(コラテック セライタリア、イギリス)がアタックしたものの、集団の動揺を誘うまでにはならない。最後の1kmとなって、トレック・セガフレードが先頭に。残り900mではライアン・ギボンズ(UAEチームエミレーツ、南アフリカ)がその位置を奪うと、そのまま残り500mの最終コーナーに。これを抜けたところで再びトレックが前に出て、ピーダスンのスプリント態勢を整えた。
早めに仕掛けたピーダスンだが、これをチェックしたカヴェンディッシュがフィニッシュ前150mでかわして先頭へ。その両サイドからはアッカーマンとミランが急加速。両者は残り50mでカヴェンディッシュをパスして、ほぼ同時にフィニッシュラインを通過した。
写真判定に持ち込まれた両者の争いは、ほんの数センチ差でアッカーマンに軍配。これでジロでは4年ぶり、キャリア通算では39勝目とした。今大会はジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)で個人総合を狙うチーム事情もあり、アシストとしての仕事もこなしながら平坦ステージを託されていた。ようやく手にした今季初勝利に喜びを爆発させ、チームメートと劇的な勝利を共有した。
大接戦のミランが2位に入り、好位置から勝負に加わったカヴェンディッシュが3位で続いた。
メイン集団では残り1.6kmのところでクラッシュが発生。これで多くの選手が足止めとなったが、フィニッシュ前3km以内でのトラブルに対する救済措置により、ステージ124位までがトップと同タイム扱いとなっている。
個人総合上位陣ではリタイアしたゲイガンハートのほか、8位でスタートしたパヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ、フランス)も負傷し大きな遅れを喫した。これにより少しばかり順位に変動があり、首位トーマス、2位ログリッチに続いてアルメイダが22秒差の3位に上がっている。
また、新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)もメイン集団内でレースを終えて69位。前日に傷めた右目の不安もなく、ステージを完了している。
なお、救急搬送されたゲイガンハートは大腿骨転子部骨折との診断。11ステージを終えた時点でのリタイアは36人を数え、プロトンには140人しか残っていない状況となっている。
18日に実施する第12ステージは、179kmの丘陵ステージ。フィニッシュまで約28kmで頂上となる2級山岳コッレ・ブライダ(登坂距離9.8km、平均勾配7.1%)がレース展開を左右するポイントになりそうだ。
ステージ優勝 パスカル・アッカーマン コメント
「グランツールに戻るまで時間を要し、ステージ優勝に至っては3年ぶり(2020年のブエルタ・ア・エスパーニャ以来)。今年こそ勝ちたいと思って全力で走ってきて本当に良かった。昨年尾てい骨を骨折し3カ月レースを離れたが、復活を証明できた。ここ数日は総合系ライダーがメインで、私個人へのサポートは得られない状態だった。しかし、今日は最大限助けてもらって、ライアン(ギボンズ)は完璧なリードアウトをしてくれた。きっと次のスプリントステージも同様のサポートをしてもらえると思う。フィニッシュラインでは勝利を確信していたし、家族が見守る中で勝つことができて幸せだ」
個人総合時間賞 ゲラント・トーマス コメント
「テイオ(ゲイガンハート)を失うのはショックだ。彼がリタイアしたと聞いたときは悲しかったし、パヴェル(シヴァコフ)も傷んでいる。ジロは決して簡単なものではないということ。昨日、私たちはチーム内に強い選手がそろっていることを確認し合ったが、一瞬にして状況が変わってしまった。これもサイクリング。いまあるものを受け入れ、ポジティブに取り組んでいかないといけない。(落車時は)前を避けることができなかったが、彼(コヴィ)の上に落ちるような感じだった。彼の近くを個人総合のトップ3が走っていて、みんな巻き込まれてしまった。もちろん彼を責めるつもりはない。ジロはチームの夢でもあり、今日の出来事は残念ではあるもののチャンスはまだ残されている」
ジロ・デ・イタリア2023 第11ステージ結果
ステージ結果
1 パスカル・アッカーマン(UAEチームエミレーツ、ドイツ) 5:09’02”
2 ジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)ST
3 マーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタン チーム、イギリス)
4 マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)
5 ステファノ・オルダーニ(アルペシン・ドゥクーニンク、イタリア)
6 ヴィンチェンツォ・アルバネーゼ(エオーロ・コメタ、イタリア)
7 マリウス・マイヤーホーファー(チーム ディーエスエム、ドイツ)
8 ダヴィデ・バッレリーニ(スーダル・クイックステップ、イタリア)
9 シモーネ・コンソンニ(コフィディス、イタリア)
10 アルネ・マーリッツ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、ベルギー)
69 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス、日本)
個人総合時間賞(マリア・ローザ)
1 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)44:35’35”
2 プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)+0’02”
3 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)+0’22”
4 アンドレアス・レックネスン(チーム ディーエスエム、ノルウェー)+0’35”
5 ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)+1’28”
6 レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)+1’52”
7 エディ・ダンバー(チーム ジェイコ・アルウラー、アイルランド)+2’32”
8 テイメン・アレンスマン(イネオス・グレナディアーズ、オランダ)ST
9 ローレンス・デプルス(イネオス・グレナディアーズ、ベルギー)+2’36”
10 オレリアン・パレパントル(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、フランス)+2’48”
139 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス、日本)+2:13’17”
ポイント賞(マリア・チクラミーノ)
ジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)
山岳賞(マリア・アッズーラ)
ダヴィデ・バイス(エオーロ・コメタ、イタリア)
ヤングライダー賞(マリア・ビアンカ)
ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ 133:46’54”
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。