レムコ、ログリッチらが春の王者目指し熱戦 前半戦レビュー|パリ~ニース
福光俊介
- 2024年03月07日
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寒さ残るフランス北部から、温暖な同国南部へと向かう様から“太陽へ向かうレース”とも呼ばれるステージレース「パリ~ニース」。第82回目となる大会は、3月3日に開幕し10日までの会期で行われている。“プレ・ツール”にも位置づけられ、ツール・ド・フランスにもつながっていくとされる春の戦いを、2回に分けてレビューしたい。まずは第1~4ステージまで。スプリント、タイムトライアル、山岳とハードな戦いが日々繰り広げられている。
豪華メンバーが集結する“仮想ツール”
パリ~ニースは、ツールなどと同じA.S.O.(アモリ・スポル・オルガニザシオン)が主催する主要レースで、前記のとおり今回で82回目を迎える。実際のところパリで開幕することはほとんどないが、今回は郊外の街レ・ミュローから約1週間の戦いがスタート。日を追うごとに南下し、終盤の2日間、第7・第8ステージでニースを走る。
同時期に開催されるティレーノ~アドリアティコと並び、多くの選手が春の目標レースのひとつに位置づけ、実際にここで活躍した選手がツールなどのビッグレースで名を上げることが多い。前回大会はタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)が、前々回大会はプリモシュ・ログリッチ(当時ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)がそれぞれ個人総合優勝に輝いている。
今年も豪華メンバーが集結し、ログリッチのほか、レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)、ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)、エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)、ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)、ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)といったグランツールでおなじみのメンバーがそろう。春の王者争いは、いつも以上に熾烈を極めそうだ。
なお、例年どおり全8ステージで構成され、総距離は1220.6kmとなっている。
第1ステージから総合系ライダーがアクティブな構え
レムコら総合系ライダーは大会初日から攻めの姿勢を見せている。
4つの3級山岳を越えた第1ステージ(158km)は、フィニッシュ前18kmの地点に置かれた中間スプリントポイントめがけビッグネームが動き出す。最大勾配10%の上りをこなして1位通過の6秒ボーナスを獲得したのはマッテオ・ヨルゲンソン(ヴィスマ・リースアバイク、アメリカ)。レムコが続き、2位通過の4秒ボーナス。さらにはベルナルが3位通過で2秒ボーナスをゲット。
その勢いのままレムコらが数人のパックを組んでペースを上げるが、集団も見逃さない。この日最後の3級山岳でもレムコやベルナルが仕掛けたが、どれも決定打にはならなかった。
結局65人ほどでフィニッシュへとなだれ込む形になり、オラフ・コーイ(ヴィスマ・リースアバイク、オランダ)がマッズ・ピーダスン(リドル・トレック、デンマーク)らとの競り合いを制してステージ優勝。大会最初のマイヨ・ジョーヌ着用者となった。
第2ステージ(179km)は、前日以上にスプリンター向けの1日。前半2カ所の3級山岳を目指して逃げが生まれたものの、通過後はみずから集団へ。その後は一団でフィニッシュ地を目指す流れとなって、やがてスプリント態勢へと移った。
前日勝ったコーイが不発に終わった一方で、この日冴えたのはUCIプロチームのチューダープロサイクリング。リードアウトトレインが機能し、最後はアルノー・デクライン(オランダ)を放つ。他選手の追い上げをかわし、初のステージ優勝を決めた。
チームTTではUAEが2年連続勝利
今大会2つの平坦ステージを序盤のうちに済ませ、大会3日目以降は個人総合成績にもかかわる重要ステージが続く。
第3ステージは、26.9kmのチームタイムトライアル。前半2カ所の丘を越えて、コース後半は下り基調。最後の約1kmで3%ほどの上り基調となってフィニッシュラインを通過する。チームTTといえばチーム内4番手または5番手でフィニッシュした選手のタイムが有効となることが多いが、この大会では前回から一番手ライダーのタイムがチーム記録となる。それゆえ、エースクラスの選手を長く温存させ、最終局面で“発射”させるロケット作戦に出るチームも見られる。前回大会では、UAEチームエミレーツによる“ポガチャル発射”が大きなインパクトとなった。
そのUAEチームエミレーツが今回も快走。丘陵地では山岳アシストが牽引し、アルメイダら総合系ライダー4人がまとまってフィニッシュ。31分23秒(平均スピード51.429km)で走破した。
UAEの後に控えていたチームは、レース途中から降りだした雨に苦戦。レムコ擁するスーダル・クイックステップは中間計測こそUAEを上回ったものの、後半に失速しフィニッシュでは22秒遅れ。ログリッチ率いるボーラ・ハンスグローエは54秒遅れ、ヴィスマ・リースアバイクも38秒届かなかった。
勝ったUAEチームエミレーツは、主力ライダーが個人総合でも一気に順位を上げ、このステージを終えた時点でブランドン・マクナルティ(アメリカ)が首位に立った。
いよいよ第4ステージ(183km)からは、山岳地帯へ。しばし逃げた選手たちは残り35kmまでに集団がキャッチし、すぐ先に待つ中華スプリントポイントへ。ここをレムコが1位通過して6秒ボーナスをつかむ。ログリッチも2位となって4秒ボーナスを得る。
この日6つ目のカテゴリー山岳となる1級の上りで、ルーク・プラップ(ジェイコ・アルウラー、オーストラリア)が集団から抜け出す。これにサンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス、コロンビア)が続き、終盤に入って2人逃げの態勢に。頂上フィニッシュが置かれる2級の上りに入ったところで、その差は40秒。フィニッシュまでの3kmを急いだ。
平均勾配7.7%の最終登坂で力が勝ったのはブイトラゴ。最大勾配13%区間でプラップを引き離して独走態勢に持ち込む。メイン集団は総合系ライダーに絞られた状態で前の2人を追う。アシストが役目を終えたところでレムコがアタックするが、集団が完全に崩壊するところまでは至らない。
ブイトラゴは最後まで逃げ切ってステージ優勝。バーレーン・ヴィクトリアスは同日のティレーノ~アドリアティコ第3ステージでフィル・バウハウス(ドイツ)も勝っており、大成功の1日とした(ティレーノについては別記事で紹介)。プラップも粘って10秒差で終えると、約30秒置いてメイン集団が駆け上がってきた。レムコのアタックを封じたマティアス・スケルモース(リドル・トレック、デンマーク)が3位。同タイムの4位でレムコが入り、その2秒後にベルナルやフェリックス・ガル(デカトロン・アージェードゥーゼールラモンディアル、オーストリア)、ログリッチ、ヨルゲンソンと続いた。
前半4ステージを終えてプラップが個人総合トップ
半分の4ステージを終えた時点での個人総合首位はプラップ。13秒差でブイトラゴが2番手に位置している。
チームTTを勝ったUAEチームエミレーツは、マクナルティが総合タイム差27秒で3位、さらに2秒差でアルメイダが4位とする。
大注目のレムコはプラップから30秒差の5位、同40秒差の6位にベルナル。ログリッチはチームTTでの遅れが響いており、1分10秒差の15位。大会後半での巻き返しが必要だ。
後半戦は、丘陵地を行く第5・第6ステージを経て、第7ステージで1級山岳オロンの頂上フィニッシュ。これが今大会のクイーンステージと目されている。そして、最終・第8ステージでは1級と2級、合計5つのカテゴリー山岳を越えて、ニースの街へとフィニッシュ。今年のツールで登場するコル・ド・エズなど、要所も通過する。
後半4ステージの模様は、改めてレビューします。
パリ~ニース2024 途中経過(第4ステージ終了時)
個人総合時間賞
1 ルーク・プラップ(ジェイコ・アルウラー、オーストラリア) 13:15’04”
2 サンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス、コロンビア)+0’13”
3 ブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツ、アメリカ)+0’27”
4 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)+0’29”
5 レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)+0’30”
6 エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)+0’40”
7 クリス・ハーパー(ジェイコ・アルウラー、オーストラリア)+0’46”
8 マッテオ・ヨルゲンソン(ヴィスマ・リースアバイク、アメリカ)+0’52”
9 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・イージーポスト、コロンビア)+0’54”
10 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ、スペイン)+1’02”
ポイント賞
ローレンス・ピシー(グルパマ・エフデジ、ニュージーランド)
山岳賞
マチュー・ビュルゴドー(トタルエネルジー、フランス)
ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
ルーク・プラップ(ジェイコ・アルウラー、オーストラリア)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ 39:48’08”
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。