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<国境の島、未来の海>「盾」であり「窓」である対馬を、シーカヤックで旅する。【後編】|Paddle on the WILDSIDE -全天候型放浪記-

九州の北方に浮かぶ対馬は朝鮮半島からわずか50kmに位置する“国境の島”だ。
古代から重要な防御拠点であり、同時に大陸と日本とを繋ぐ文化の架け橋でもあった。
そんな「盾」であり「窓」である対馬を、シーカヤックで旅した。

文◎ホーボージュン
写真◎山田真人
協力◎対馬観光物産協会

【前編】では…

フェリーで対馬に渡った中年パドラー5人組が旅の準備を整え、いよいよシーカヤックの旅へと漕ぎ出す。ところが、途中のK島で目にしたものは、プラスチック容器などおびただしい数の漂着ゴミに覆われたビーチの姿だった…。

<国境の島、未来の海>「盾」であり「窓」である対馬を、シーカヤックで旅する。【前編】|Paddle on the WILDSIDE -全天候型放浪記-

<国境の島、未来の海>「盾」であり「窓」である対馬を、シーカヤックで旅する。【前編】|Paddle on the WILDSIDE -全天候型放浪記-

2025年03月07日

防人が守った浅茅湾をクルーズ

3日目は浅茅湾内まで漕ぎ進み、あそうベイパークに上陸してキャンプを張った。ここは総面積56ヘクタールもある広大な自然公園。芝生のキャンプサイトには爽やかな風が吹き抜け、無料の温水シャワーもある。一行はここでのんびり休んで、英気を養った。

そしてツーリングの4日目には「対馬カヤックス」の中澤文博さんと「対馬エコツアー」の上野芳喜さんと合流し、おふたりのガイドでさらに浅茅湾を漕ぎ進んだ。複雑に入り組んだ入り江は油を流したようなベタ凪で、ここが天然の良港だということがわかる。大船団による海戦が主だった時代には、諸国とも喉から手が出るほどほしかっただろう。

このツーリングの途中で案内して貰ったのが金田城という古い城趾だった。深い森のなかに見事な石塁が築かれている。これは白村江の戦い(663年)に敗れた中大兄皇子が唐・新羅の侵攻に備えて築いた山城で、ここにはおもに東国(関東)から徴兵された農民が送り込まれ、防さき人もりとして警備と哨戒にあたっていた。もし敵の船団が現れたら山頂で狼煙を上げ、はるか太宰府へ知らせる。いまでいう自衛隊のレーダーサイト(?)みたいなものだ。防人のことは日本史や古典の教科書で習ったが、そうか、彼らはこんなところにいたのか……。

人里離れた山城は静寂に満ちていて、あまりの静けさに耳鳴りがするほどだった。「防人の兵役は3年交替でしたが、遙か遠くの東国から送り込まれた若い人が多かったので、ずいぶん淋しい思いをしたようですね」と中澤さんが教えてくれた。

「我が妻はいたく恋ひらし飲む水に影さへ見えてよに忘られず」(僕の妻はいまごろ僕のことを思い焦がれているに違いない。だから井戸の水を飲もうと思って水面をのぞくとそこに彼女の姿が映ってしまうのだ。それをみると僕もどうしても忘れられなくなる。ああ、なんてこった)

僕は高校の古文の授業で習ったそんな短歌を思い出した。『万葉集』に収められている防人の歌だ。内容があまりにセンチメンタルだったので(そしてティーンエイジャーというのはセンチメンタルが大好きだ)印象に残っていたが、いまのいままで完全に忘れていた。それが40年以上の時空を超えてとつぜん脳裏に蘇った。古文なんて大嫌いだったし、赤点ばかりだったのに……。それはこれまで経験したことのないことだった。なんだかんだと、旅というのはおもしろいものだ。

▲群青色の外海と明るい緑色の内海が美しい。魏志倭人伝の人々も、万葉集の人々も、この海の色を愛でていたのだろうか。
▲リアス海岸の入り江を漕ぐ。複雑な地形のおかげで島の海岸線長は900kmにもなる。
▲明治34年に旧日本海軍が戦艦航行のために掘った人工瀬戸とそれにかかる万関橋。流れが速い。
▲おいおいおい!話が違うぞ、話が!
▲海に直結したオートキャンプ場「あそうベイパーク」に上陸。貸し切りだった。当たり前のように大宴会。
▲飛鳥時代の667年に築かれた金田城の石塁。総延長は2.2 ㎞もあり、日本の古代における国家プロジェクトだった。ここに防人が駐在した。

海の未来は、僕らの未来だ

ツーリングを終えて対馬エコツアーの拠点に到着した僕は、上野さんに2日前に僕らが行ったK島について聞いてみた。上野さんは対馬の海洋環境保全活動や環境スタディを行なっていて漂着ゴミにも詳しいからだ。

上野さんは僕の話を聞くと深く頷き、「じつは対馬には大陸から年間3万7000㎥、25mプール約100杯分もの漂着ゴミが流れ着いていて、たいへん深刻な問題になっているんです」と、僕にレクチャーをしてくれた。

まず最初に見せてくれたのは北と南が反対になったアジアの地図だった。単純に地図を回転させただけなのだが、大陸からの視線で太平洋を見ることができ、僕にはとても新鮮だった。おおげさにいえば世界観が根底から覆る感じがした。

「これを見て、どんな印象を持たれましたか?」上野さんの質問に僕は答える。

「朝鮮半島は大陸からちょろっと飛び出した岬で、日本海は内海、そして日本列島はそこを守る防波堤みたいに見えますね」

「仰るとおり、広大な中国大陸から見たら日本海は内海のようなものです。そして海水の出入り口に当たる西の対馬海峡も、東の間宮海峡もとても狭い。対馬はその狭い海峡の真ん中にあるので、海流に乗って流れてくるゴミをもろに浴びてしまうのです。とくに強い偏西風の吹きつける冬は漂着ゴミの量もかなり増えます」

しかしこのゴミは台風や低気圧で定期的に洗い流されるので、そのときだけは一時的に浜はきれいになる。でもいつわりの美しさだ。ゴミはなくなったわけではない。それは日本海へと流れ込んで見えなくなっているだけだからだ。真の問題点はここにある。

「日本海には西からは暖かい対馬暖流が、東からはオホーツクの冷たいリマン寒流が流れ込んでいます。このふたつは海水温と塩分濃度の違いから密度に差が生まれ、それが大きな渦を作り出します。この渦が日本海の栄養分布に影響を与え、プランクトンを増殖させ、豊かな漁場を形成している。日本海に魚が豊富なのはこの対流のおかげです」

しかしその一方でこの渦が悲惨な状況を生んでしまう。中国大陸や朝鮮半島から流入したおびただしいゴミがこの渦にのり、出口もなくグルグルと回り続けてしまうのだ。まるで洗濯機に放り込まれたように。

「そのゴミはどうなるんですか?」僕の質問に、上野さんの表情は固い。

「半永久的に留まり、回り続けます。人間の手で除去しない限り、プラスチックゴミが自然に戻ることはありませんから」

いったん海中に入ってしまったゴミを除去するのは非常に困難だ。だから対策としてはゴミが陸上から河川を通じて海に流れ込むのを食い止めるしかない。そのためには日本がいくらがんばってもしょうがない。中国を始めとするアジア諸国がそれぞれ自国を厳しく律しなければ日本海へのゴミの流入は止まらない。

僕は今日見た山城の石塁のことを思った。かつての防人は外敵の襲来から共同体を守るために高い石塁を築いた。だがいまの僕らは石ではなく知恵を積み上げ、武器ではなく科学を動員して対馬の海、そして日本海を死守しなければならない。海の死は国家の滅亡よりもっと恐ろしいことだと思う。

旅の終わりはちょっとシリアスな感じになってしまった。でもゴミのなかで一晩をすごさなければ、知るよしもなかった。インターネットやAIサーチではわからないリアルな地球を僕は見た。

対馬の海がいつまでも美しいままであってほしい。日本海がいつまでも豊かなままであってほしい。
では、僕らは未来に向けてなにをするべきか。
そんなことを考えた島旅であった。

▲最終日は地元のベテランカヤッカー、中澤文博さん、上野芳喜さんと漕いだ。
▲上野さんから対馬の海洋環境についていろいろと教わった。
▲南北が逆さまの日本地図。大陸から見ると日本海はこんなふうに見えるのだ。

4泊5日対馬シーカヤックツーリング全装備[HOBO’S Packing List]

今回の旅は猛暑の最中で、気温、水温とも非常に高かった。そのため熱中症対策を重視したセレクションになっている。

PICK UP PADDLING & CAMP GEAR

・シーカヤック:FeatherCraft/ウィスパー
・メインパドル:AT paddle/エクセプションSL 220cm
・予備パドル:NIMBUS/スクアミッシュ240cm
・ライフジャケット:palm/リフ
・ビルジポンプ:FeatherCraft/ショートサイズ
・パドルフロート:harmony/インフレータブル
・レスキューナイフ:spyderco/大海人(波刃)
・デッキバッグ:GRIT/デッキバッグ
・ダッフルバッグ:GREGORY/スタッシュ95
・ドライバッグ:SealLine/ドライサック各種
・テント:HOBO WORKS/ホーボーズネスト2.1
・グランドシート:玄海灘男/ホーボーズネスト2用
・サンドアンカー:自作/木製4枚
・ハンモック:AMOK/ダブルサイズ
・マット:NEMO/テンサーインシュレーテッドマミーM
・寝袋:mont-bell/ダウンハガー800サーマルシーツ
・バーナー:SOTO/ST-310(CB缶現地)
・調理クッカー:GRIT/タクティカルライスクッカーセット
・食器:belmont/ステンレスダブルボウルx2
・カップ:lemmel kaffee/ククサ
・カトラリー:mont-bell/野箸+MSR/折り畳みスプーン
・ヘッドランプ:mont-bell/マルチパワーヘッドランプ
・ナイフ:MORAKNIV/ガーバーグ・ステンレス鋼
・マルチツール:LEATHERMAN/ウェーブ
・焚き火台:tent-Mark DESIGN/焚き火グリル・とん火
・水筒:NALGENE/広口1ℓ
・水タンク:MSR/ドロメダリーバッグ8ℓ
・ランタン:CARRY THE SUN/LEDソーラーランタン
・ダイビングギア:フィン、ブーツ、マスク、シュノーケル
・魚突き道具:ヨッチ/カーボン銛
・補修用品:黒ビニールテープ、ゴリラテープ
・細引き:パラコード7芯x30m
・カラビナ:カラビナ2枚+スリング
・洗面セット:洗面セット(歯ブラシなど)
・タオル:PackTowl/オリジナル
・クスリ:ロキソニン、ロキソニンテープ、鎮痛剤
・チェア:HELINOX/チェアワン
・コット:CAPTAIN STAG/アルミコット
・ソフトクーラー:SEATLE SPORTS/フロストバック各種
・スポーツジャグ:THERMOS/真空断熱スポーツジャグ3.0L

PADDLING & CAMP WEAR

・ボードショーツ:patagonia/ストレッチ・ウェーブフェアラー
・パドリングシャツ:patagonia/キャプリーン・クール・デイリー・フーディ
・シェルジャケット:MILLET/ティフォン・STジャケット(プロト)
・ダイビングウエア上:mont-bell/クリマプレン・パドリングタンクトップ
・ダイビングウエア下:mont-bell/ライト・クリマブレン・タイツ
・ラッシュガード:mont-bell/アクアボディL.S.シャツ&タイツ
・ハット:WaterShip/ビンヤードヘヴン
・サングラス:mont-bell/ランブラーグラス
・キャンプ用パンツ:patagonia/ウェーブフェアラー・ハイブリッド・ウォーク
・Tシャツ:ウール×2枚
・スマホ:iPhone12Mini
・充電関係:充電器、TypeCケーブル、モバイルバッテリー(10000+5000)
・アウトドアウォッチ:Amazfit/T-レックス3

PICK UP GEAR

今回僕らが対馬ツーリングに出かけた2024年の夏は全国的な猛暑続きで、熱中症で搬送される人があとを絶たなかった。だから日影のない海上やビーチキャンプでは熱中症対策が大きな課題となった。

そこで役に立ったのが大型のスポーツジャグだ。野球少年やサッカー少年がグラウンドで使っているような真空断熱の製品で、氷を入れておけば炎天下でも冷ことができた。おすすめである。

調理はいつものように焚き火で行なった。直火でもいいのだが、たくさんの料理をテキパキ作るなら燃焼効率のいい焚き火台がほしい。僕や灘男が使う「とん火」というグリルは、プロのカヤックガイドが無人地帯で使うために設計した本物中の本物。海旅だけでなくキャンプでも使いやすいのでぜひとも試してみてほしい。たい水が飲める。これを使って小まめな水分補給と体温の冷却を心がけた。

ソフトクーラーも炎天下で役に立った。狭いコックピットに収納できるように小型のクーラーを複数使うのが僕らのスタイル。今回はこの内側に発泡スチロールのクーラー(いわゆるトロ箱)を入れて保冷力を上げてみたのだが、板氷が丸2日間溶けず、無人島で冷えたビールを飲む。

フォールディングカヤック

カナダのフェザークラフト社の製品で高い漕破力を持つ。すでに廃番となっているが、今回は3人ともフェザークラフトを使用した。

大型スポーツジャグ

灼熱の海上では水分補給が絶対必要。大型の保冷ボトルを各自が持参した。灘男は自作カバーを作って被せていた。ナイス。

万能ソフトクーラー

旅系カヤッカーの絶対的定番がソフトクーラーだ。肉や野菜の保冷だけでなく、食器や調理道具入れとしても活躍してくれる。

最新アウトドアウォッチ

アマズフィット社の新作でパドリング中の航行時間や平均速度、心拍数などを記録してくれる。最大27日間もバッテリーが持つのがスゴイ。

プロ御用達の焚き火グリル

カヤック旅では焚き火調理が基本。これは僕らの師匠である沖縄カヤックセンターの仲村忠明氏が考案した折り畳み式グリル。

錆びないアルミダッヂ

焚き火調理に欠かせないのがダッヂオーブンだが、鋳鉄製は錆びてしまうので使えない。そこで僕はアルミ製を愛用している。

防水透湿ジャケット

ミレーの新型ティフォンをテスト。耐水圧30,000mm、透湿性50,000g/ ㎡/24h という圧倒的なスペックなのに着心地がとてもよかった。

※※※

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PROFILE

フィールドライフ 編集部

フィールドライフ 編集部

2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。

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