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雪国の孤島「粟島」でSUPラウンドトリップ

雪国の孤島「粟島」でSUP

新潟県佐渡島から北東へ約90㎞の日本海に浮かぶ粟島。SUP(スタンド・アップ・パドル)に衣食住を積み、周囲23㎞の小島をぐるっと一周した夏のあの日。

文◎森山伸也 Text by Shinya Moriyama
写真◎大森千歳 Photo by Chitose Omori
出典◎フィールドライフ No.55 2017 春号

日本海にポツンと浮かぶ雪国の孤島

水面を歩くように旅する
粟島を時計周りで半周して、釜谷キャンプ場に到着。水中めがねを常に装着し、暑くなったらダイブする。名勝、クジラ岩が夕日をキャンバスに浮かび上がった。

あれは2年前の夏だった。A&Fカントリー安曇野店の店長シゲさんにSUPをやろうと誘われた。はじめはぜんぜん乗り気じゃなかった。

だってSUPといえばサーフィンの延長線上にある湘南あたりのロンゲがぱちゃぱちゃやるアレではないか。われわれが好む汗みどろで泥臭く、長期間社会から隔絶される旅には耐えられない代物で、なにしろ不釣り合いだ。どーしたんだ、坊主頭のシゲさん!?

透明度が高い。美しい海こそSUPなのだ。

しかしだ。いいから一回乗ってみろとシゲさんが持ってきたのはアメリカのコロラドで作られている「HALA」というブランドのツーリング用SUPだった。これなら荷物をドカドカのせて、川や海、湖を自由に旅できる。立ったり、あぐらをかいたり、寝転んだり、暑くなったら水に飛び込んで、立って竿も振れる。

犬もデッキで騒げる。空気を抜けば背負って持ち運べるインフレータブル式。重量は約13㎏。こりゃ、おもしれーと即入手し、海や川、湖へ遊びにいく夏がはじまった。

岩船港からフェリーに乗ること1時間30分。

毎夏、ここだけは外せないという遊び場ができた。新潟県の粟島だ。
2015年の8月、僕らはSUPと3日分の食料、ビールをたんまり背負ってフェリーに乗り込んだ。SUPで島を一周してみようじゃない。

周囲23㎞はカヤックには物足りないが、SUPにはちょうどいいサイズ感だ。
上に立っている僕たちを、島人はみな怪訝そうに見た。
「それ、なんだ? 海を歩いているかと思ったよ」

三条市から来た釣り人は甲板で麻雀に熱狂。

日本で沖縄本島に次いで大きい島、佐渡島。その影に隠れている小島が粟島だ。新潟県のカタチを描けという課題に、その小さな点を描ける人は限りなくゼロに近いだろう。それくらい目立たず、控えめな小さな島であるが、アウトドア志向の強い旅人にとって、そこはまさに楽園だ。

その楽園へは新潟市内から車で約1時間、村上市の岩船港から船で渡る。フェリーと高速船があるが、もちろんフェリーだ。甲板にゴザを敷き、茹でてきた枝豆を肴にビールをゴクゴクやる。潮風が気持ちいい。

キャンプ? ミニトマト持ってけ
ラジカセで演歌を鳴らしながら畑から帰ってきたおばあちゃん。とびきり甘いトマトをいただいた。島人はみなフレンドリー。

ぼんやりしていた島影がどんどんくっきりしていく。島旅のはじまりはこうでなければいけない。しかし佐渡汽船などは古いフェリーをどんどん高速船に買い替えて、時間短縮&全席リクライニングシート&全室冷房完備を大きな声でうたい、それがあたかもタダしいサービスだと誤認し、乗客を船内に閉じ込めることに躍起になっている。勘違いも甚だしい。甲板で潮風を浴びながらゆっくりのんびり島へとずんずん近づくフェリーこそ、旅人が求めている旅情そのものなのである。汽船会社はすぐに方針をあらためていただきたい。

となりで同郷の三条市からやってきたおじさんたちが麻雀をはじめた。
漬け物、枝豆、ビールが手もとに置かれ、陽が当たらないナイスポジションを陣どっている。甲板でのすごし方がこなれているではないか。聞けば毎夏、粟島を訪れ民宿に泊まりながら釣りを楽しむという。僕がはじめて粟島を訪れたのは小学生のころ、家族旅行で。2回目は学生時代に仲間とキャンプをしにきた。新潟県民にとって粟島は、知る人ぞ知る夏休みの避暑地という位置づけである。いわずもがな、雪が舞う冬になると島は閑散とするのだが。

SUPはHALA / NASSを愛用。艇長は比較的長めの381㎝。重量13㎏。2017年はカーボンシートが追加されモデルチェンジされる。詳細はA&Fカントリー各店頭でチェック!

フェリーが内浦港に着岸すると観光客は民宿の送迎車に吸い込まれていった。僕らは漁船が停泊する港へ移動し、SUPを膨らます。台車にのせたラジカセから演歌を流すおばあちゃんがやってきた。

「トマト食べる? どこいくの?」
「海を回って、釜谷までです」
「こっちは凪いでいても、西っかわは風が吹くからね。気をつけなきゃいかんよ」

いま畑で採ってきたというミニトマトを差し入れにいただいた。
粟島は日本海から山が突き上げたような岩々しい島である。とくに西海岸は断崖絶壁や奇岩で海岸線が覆われ、周回道路があるにはあるが途中でのエスケープが困難だ。内浦港を出たら、約10㎞先の釜谷集落に上陸するか、戻るしか選択肢はない。

周囲23㎞、島民365人。時間が止まった孤島へタイムトラベル

SUPは波や風に弱いので、カヤックの気分で海に出てはいけない。
幸い、今日は波も風も穏やかなので釜谷キャンプ場まで行けそうだ。予備パドルとしてカヤック用のダブルパドルを持参している。風が吹いたら座ってコイツで漕げばなんとかなるだろう。とりあえずやってみよう。

わっぱ汁食ったか? うんめぞ
釜谷港で出航の準備をしていた民宿「渡佐」のおじさん。偶然2016年の夏にも再会し、だいぶお世話になった。今度は宿にも泊まります。

衣食住を積んで海や川を旅するツーリングSUP。新しい遊びだ。フライフィッシングやMTBが日本に入ってきたときもみんなが「なんだこれ?」と手探りにはじめて、少しずつ受け入れられていった。新しい道具を使って、日本に合った新しい遊び方を自分たちで模索していく。
これほど楽しい遊びはない。

荒波で海岸が洗われ平地が狭くなっていた釜谷キャンプ場。流木で水平にした2枚のSUPにテントを載せて就寝。SUPがあればどんな凸凹、どんな斜面でも安眠を得られるのだ。

内浦港から南西へ海岸線に沿って漕ぎ進む。ストロークを長く、全身を使いゆっくりと疲れないように。
暑くなったら水中めがねをつけて、ジャボンと落ちてクールダウン。SUPのいいところは、このように落水しながら水面を旅できることだ。

遊び終わったらデッキによじ登って、何事もなかったように旅を続けられる。旅が滑らかになっていく。

漁師さんからいただいたサザエ。ビールがグイグイ進み、翌日買い出すハメに。

海水は養分を含んだ緑っぽい色だが、透明度が高く、約5m先の海底まではっきりと見渡せた。指をくわえてわんさか落ちているサザエを見下ろす。漁業権のないわれわれ旅人が乱獲してはいけないのである。

写真担当大森千歳が畑で育てた枝豆。海水でゆでるとちょうどいい塩加減に。

粟島の最南端、八幡鼻を回り込むと演歌おばあちゃんの言葉通り西から風が吹いてきた。ダブルパドルに切り替えるほどではないが、横風を受けると真っすぐ進むのが難しい。

SUPは船底がフラットなので、カナディアンカヌーのように小回りがきく。悪くいえば、直進性がなく、くるくる回る。右を7、左を3のチカラ配分で漕ぎ進んだ。

釜谷の周辺は奇岩や洞窟、断崖絶壁がありツーリングに持ってこいの海岸線だ。

SUPは全身運動だ。まる一日真面目に漕ぐと、翌日体の奥、いわゆる体幹てヤツがバキバキになる。カヤックは上半身がメインだが、S UPはどこの筋肉もサボれない。

背後に冷たい沢水が流れ火と満月を肴に酒を交わす。これ以上なにを望めというのか。

漕ぎはじめて3時間後、今日の目的地釜谷キャンプ場に到着した。水場に近い平地には何組か先客あり。

流木が集まるゴロタ岩にテントを張った。SUP2枚に流木を噛ませて水平をだし、そのうえに自立式のテントを置く。SUPをスリーピングマットにすれば、マットいらずで凸凹の地面でも快適に眠れるというわけだ。マットのほか、ベンチにしたりテーブルにしたりSUPはキャンプシーンでいろいろ使える。
(メーカーは推奨していないので、併用は自己責任で!)

昨夏は2回も粟島に上陸しました
釜谷集落で唯一の売店「きんべい」から離れないアラフォーオヤジ。このロケーションで飲む生ビールのうまさたるや。「来年は1 泊だけでも民宿に泊まろう」背後に冷たい沢水が流れ火と満月を肴に酒を交わす。これ以上なにを望めというのか。

焚き火で海水を沸かし、枝豆を茹で、ビールで乾杯。鏡のようなべた凪の日本海に夕日が沈んでいく。これほどシアワセな時間を夕日とともに共有できる無料キャンプ場をぼくは知らない。このシアワセの要素には背後に冷たい沢水が流れ、流木が豊富で、徒歩15分に生ビールあり! が含まれている。

夕飯にむけてカニカゴをあげにいくおばあちゃん。

2日目は停滞日として、釜谷周辺を散策することにした。のっぺりとした東海岸と違い、こちら西海岸は洞窟あり、奇岩あり、絶壁ありとSUPツーリングにはもってこいの海岸線だった。少し沖に出て漕いでいると、漁船をとめ漁師が海に潜っていた。サザエを獲っているのだろう。近くに寄って尋ねる。

通い慣れてすっかり顔なじみとなった売店「きんべい」のお母さん。やだ、写真? 恥ずかしい!

「なに獲ってるんですか?」
「サザエだよ。食べるか?」
すかさずわれわれは釜谷集落へ吸い寄せられていった。生ビールを一杯飲んで、宴に向けて缶ビールを追加購入。

置いていかれると思うのか? 出発の用意をするとSUPから離れない犬のモリコ。釧路川、天塩川、仁淀川も下ったSUP犬だ。

すると民宿に泊まっていると思われるおじさんが、手にアワビを持って海からあがってきた。
「これどうやって食べるの?」
アワビを手にしたオヤジが得意げな顔で売店のおばさんに聞いている。

やや波が立つ向かい風のなか、残りの北半周をスタート。岬を回ると風が強くなり、ダブルパドルに切り替える。フェリーの時間に間に合うか!?

あなた密漁者ですよ。それ犯罪ですよ。それで島の人たちは生活しているのですよ。と喉まで出かけたが、おばあちゃんは彼を咎めることなくニコニコしながら話している。

夏の島旅カヤックには戻れません
いつでも飛び込めるのがSUPのいいところ。犬も自由に駆け回れてうれしそうだ。

「このまま焼いて、醤油ぶっかけて食べるとうんめよ」
アワビ捕獲を容認している。なんておおらかな島なのだ。
焚き火に置いたサザエのつぼ焼きを肴にビールをグイグイやった。今日も静かに沈んでいく太陽。イカ釣り漁船が水平線に輝いている。今晩もシアワセ一直線だ。

ヒルバーグのタープに蚊帳を吊ったシゲさんの寝床。昼間はモリコの休憩所。

唯一不快なことがあるとすれば、裏のヤブに潜む蚊の大群だ。風が止み、油断すると攻撃してくる。これは釜谷キャンプ場に泊まるだれもが耐えなければいけない試練である。
蚊取り線香とハッカ油は必携だ。

3日目、最終日は北を半周してスタート地点の内浦港をめざす。ちょっと風が強く、波もあるが行けるところまで行ってみよう。島の北端、鳥崎を回り込むと予想外の展開が待っていた。風が東風の向かい風に変わったのだ。とっくに座ってダブルパドルにしているが漕いでも漕いでも進まない。SUPをロープで引きながら岸を歩いて帰還も考えたが、波が高いので岸には近づきがたい。

ただ後退はしていないので、いつかは到着するという事実を心の支えに下を向いて漕ぎ続けた。フェリーの最終便は15時20分。間に合わなかったら内浦キャンプ場でもう1泊だ。
漁火温泉横の公園にようやく着岸し、素早くSUPをたたんで、フェリーに乗り込んだ。

ホントは教えたくない。これぞ世界に誇れるニッポン漁村アイランド。

汗だくの僕らを甲板で待っていたのは、島民による見送りのイベントだった。大漁旗が振られ、馬が4頭行ったり来たりしている。炎天の下、人も馬も暑かろうに。ビール代くらいしか島にお金を落としていない僕らとしては、なんだか申し訳ないくらい立派な送別の催しだった。

風が強いときはこうして座ってカヤック用のダブルパドルで漕いだ。推進力が低く、風に弱いのがSUPの弱点である。

あと10、20年したらこの島はどうなってしまうのだろう? この旅で何度もこう自問した。粟島だけに限ったことではないが、高齢者が営む民宿や売店がなくなれば港町の風景は一変するだろう。ややもすれば廃村ということもありうるかもしれん。だからこそ、いまこの体で何十年、何百年と続いてきた粟島の人々の営みを感じておきたい。

内浦港のフェリー出航風景。大漁旗と馬が旅人を見送る。粟島には昭和のはじめまで野生馬が生息していたという。

「さようなら。またくるよ」
僕は心の中でそう言った。
それから1年後。2016年の夏、新たな友達を誘って粟島へ再び渡った。ほんとはだれにも教えたくない。自分たちだけの遊び場であってほしいからだ。

来年は民宿にも泊まるねー
島人のあたたかい見送りで名残惜しさがさらに募る。「見送る人」と「見送られる人」。海を隔てた島への旅は、両者を鮮明に意識させる。だから島はいい。

しかし粟島が粟島らしくあるためにはこれからも観光客のチカラが必要だ。だからここで自信を持っておすすめするのだ。

Island Data

新潟県・粟島ってどんなとこ?

新潟県の北部、日本海に浮かぶ周囲23㎞の島。最高峰は標高265mの小柴山で、海から突き出た島のほとんどが山地となる。観光客の半分くらいが釣り人。島には内浦と釜谷のふたつの集落があり、それぞれにキャンプ場を持つ。カヤック、SUPなどで一周するにはちょうどいいコンパクトさ。

アドバイス

マイカーを持ち込めないので、装備はできるだけコンパクトにまとめよう。内浦の商店でも食料は買えるが、村上市で済ませたほうがよいだろう。東海岸が凪いでいても、西海岸は荒れることが多い。一周する場合は、西から吹く風に留意すること。また断崖絶壁が続く西海岸は着岸できるポイントが限られる。漁船や観光船にも配慮し、明るいウエアを着るように。

アクセス

新潟県村上市の岩船港からフェリー(所要時間1時間30分)と高速船(55分)が運行している。ふたつの集落、内浦と釜谷はバスで結ばれる。バスは民宿のお客が優先で、ハイシーズン中、荷物が多いキャンパーは乗車を拒否されることも(体験談)。その場合は、民宿に送迎を直談判しよう。

出典

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フィールドライフ 編集部

フィールドライフ 編集部

2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。

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