世界が広がる お気軽ソロキャンプ|シンガーソングライター・ケイシタナカが体験!
フィールドライフ 編集部
- 2021年08月07日
INDEX
キャンプ好きで知られるミュージシャン、ケイシタナカが挑戦した初めてのソロキャンプ。木々に囲まれたサイトにソロ用の幕体を張り、小さなリビングを設えてひとりチェアに腰を落とせば、だれにも気兼ねすることのない、どこまでも自由な時間がゆったりと流れていった。
文◉ヤマシタユウスケ(あすなろ組) Text by Yusuke Yamashita
写真◉後藤武久 Photo by Takehisa Goto
スタイリング◉近澤一雅 Styling by Kazumasa Chikazawa
撮影協力◉道志の森キャンプ場
出典◉CAMP TOOLS 2020
なにをするもしないも自由。それこそがソロキャンプ
さわやかな風が吹くと木々から葉擦れの音が立ち、サイト脇を流れる小川のせせらぎとのアンサンブルが奏でられる。そのバックトラックに鳥たちのさえずりが重なったときの耳心地の良さは、さながらインプロビゼーションな音楽のようだ。
そんな自然の音色に耳を傾けながらハンモックに寝そべって揺れに身を任せていると、持参した文庫本の文字を追う目の動きも鈍くなり、まぶたが徐々に重くなっていく。いまここに、そのまどろみをじゃまする者はいない。そのまま睡魔に誘われてもいいし、景気づけに冷えたビールを流し込み、夜に備えて焚き火や炭の火点けに精を出してもいい。午後3時の林間サイトではたくさんのキャンパーが思い思いにすごしているが、そのなかでひとり、ぽつねんと佇んでいる自分を意識する。だれかになにかをしてあげることも、だれかになにかを強要されることもない。自分がやりたいことを自分のやりたいときにやればいい自由。ソロキャンプの醍醐味をひとことにするなら、そう表せるかもしれない。
サイト設営も焚き火の火起こしも全部自分で賄うのがソロの醍醐味だ!
「普段の生活のなかでは、とくに目的もなくひとりですごす時間ってなかなか少ないですよね。その意味でソロキャンプって、ひとりの時間のためにわざわざ自然のなかにまで移動するわけで、時間的にも精神的にもぜいたくな娯楽だと思います」
ソロミュージシャンとして活躍するケイシタナカさんは、初めてのソロキャンプで真っ先に感じた魅力を満面の笑みを交えて表現してくれた。
ケイシさんがキャンプに目覚めたのは4年ほど前。北海道に生まれ、幼いころから家族でキャンプを楽しんでいたが、ひとり暮らしを機にいったん中断。上京してバンド活動が軌道に乗り、その後ソロのミュージシャンとして活躍し始めたころにキャンプを再開した。登山も趣味とし、専門誌で連載ももつほどの生粋のアウトドアマンなだけに、キャンプにハマるのに時間はかからなかった。
「登山と比べてキャンプがイージーとは思わないし、自然と触れ合う楽しさはいっしょですね。なによりキャンプはリラックスできるのがいい。その癒しは、次の曲作りのテーマを探す原動力にもなるんです」
気の置けない仲間と連れ立ってキャンプに行き、バーベキューを楽しんだり、焚き火を囲んで語らったり、その子どもたちと野原を駆け回ったり。SUPなどのアクティビティも経験して、ファミリー&グループキャンプの楽しさもひととおり味わってきた自負がある。そのうえで満を持してのソロチャレンジとなったのだが、そのきっかけが生まれたのは、全国ツアーの真っ只中だった。
兵庫県神戸市でライブを終えてから、次の広島県福山市のライブまでぽっかり空いた2日間。普段どおりに街を散策してホテルに泊まるのではなく、知らない土地でのテント泊を思い立ち、近くに住む友人に声をかけて淡路島で1泊2日のキャンプをした。そのとき、ソロキャンプへの興味が「やってみよう」の決意に変わったのだとケイシさんは言う。
「このキャンプが思いのほかリフレッシュできて、ツアーにも良い影響を与えてくれた。同時に、ツアーの移動車の荷室にキャンプ道具を積んでおけば、ライブで周る日本中のどこでもソロキャンプができると気づいたんです。荷物の量も無理しないですむソロならピッタリだなって」
本業はもちろん音楽なので、楽器のスペースを十分に確保したうえでクルマの荷室に収まるよう、コンテナ1台にキャンプ道具をこぢんまりとまとめた。とはいえ多くのキャンパーのご多分に漏れず、ケイシさんだって大のギア好きだから、持って行く相棒たちはこだわりの品ばかりだ。スナグパックのスコーピオン2やモンベルのダウンハガー800#2、プリムスのP‐153など、登山と兼用できるギアが混じるあたりに、山男の片鱗が見て取れる。
サイト設営も焚き火の火起こしも全部自分で賄うのがソロの醍醐味だ!
「荷物を小さくまとめたいソロキャンプでは、登山用と道具が被ってくる。そうなるとキャンプで重視したくなるデザイン性と、山で大事な機能性のどちらを取るべきかで悩みますね。もっとも、ソロだったらファミリーキャンプのように華やかでなくていい。気楽さが第一なので、無骨でかまわないと思っています」
キャンプの楽しみのひとつである食事も、少量しか作らなくていいソロではやはり気楽なものだ。肉はまるごと調理してあとから切ればいいし、自宅で下ごしらえしておいた野菜や調味料を添えるだけであっという間に料理が完成する。実際、昼食のカオマンガイはいつもどおりのお米を炊くクッカーへ鶏モモ肉を丸ごと放り込んだだけだし、夕食のローストビーフは塊肉を炭火で焼いてからアルミホイルに包んで寝かせただけ。カレーにいたっては既製品の缶詰だ。見た目の “映え” とは裏腹にシンプル極まりない。手を抜くところと力を入れるところ、そのさじ加減を工夫するのも、気合いを入れて全力で楽しみがちなファミリー&グループキャンプとは違う、気楽なソロらしさなのだろう。
「料理上手でもないし、リラックスするためのキャンプでがんばって疲れるのも本末転倒じゃないですか。ソロだと、それがより顕著になるのかもしれないですね。ただ朝に飲むコーヒーだけはこだわっています。コーヒーを生活の句読点という人もいますが、そのとおりですよね」
生活の句読点。日々の営みの途中途中で、ふと息を尽きたくなったとき、ケイシさんのかたわらにはコーヒーがある。好みの豆をていねいにミルで挽いて淹れた一杯は、忙しい毎日のなかで気持ちを切り替えるスイッチとなってくれる。多くのキャンパーが起き抜けに飲む一杯のコーヒーを愛してやまないのも同じ理由だろう。そして1日という小さな視点で見たときの句読点がコーヒーなら、大きな視点で俯瞰したとき、つまり人生における句読点は、やっぱりキャンプになるのかもしれない。
1泊2日、短いながらも初めてのソロキャンプを終えたケイシさんに、改めて感想をたずねてみた。彼は、ファミリー&グループキャンプとの違いをどう感じたのか。
「ソロキャンプ、とても楽しかったです。僕の場合、ファミリー&グループキャンプをすでに経験していたことが、ソロの魅力を増してくれたように思います。たとえば僕は焚き火が大好きで、火をいじっているだけですぐに時間が経ってしまうのだけれど、その焚き火ひとつをとっても、みんなで囲んで団らんするのと、ひとりで炎を眺めているのとでは没入感がまったく違う。ひとくくりにキャンプといっても、大勢で料理や遊びを作り上げるファミリーやグループでのキャンプと、ひとりですべてをまかなうソロとでは、楽しさが変わることがわかりました」
うれしそうに話すケイシさんに「まるで音楽の話みたいですね」と、水を向けずにはいられなかった。バンドとして3枚のアルバムを作り、ソロになって最初のミニアルバムは全楽器を自分で演奏。そして現在は弾き語りをしつつも、腕利きのミュージシャンを集めてバンドセットのサウンドも作り上げている。キャンプでも音楽でも、ケイシさんがひとつのことをさまざまな角度から楽しんでいるのは同じに思えたからだ。
「言われてみればたしかに(笑)。じゃあファミリー&グループキャンプを経てソロも満喫したあとの僕は、ソロキャンパーが集まったキャンプをしたくなるのかも。各自が思い思いのキャンプを堪能しつつ、ここぞというときに集まってみんなでしかできないことするキャンプ。いまっぽい距離感で楽しそうですよね。次の目標はそれで決定かな」
ひとりで火と向き合っているときって、本当は自分自身と向き合っている時間なのかも――。
“人生の価値は快楽の量ではなく感動の量で決まる” とは、ケイシさんのフィロソフィだ。キャンプでも音楽でも、楽しみ方が変われば感動は多様になって総量が増え、人生はますます豊かになる。ソロでもファミリーでもグループでも、キャンプが我々によろこびを与えてくれることはわかりきっているのだから、それを堪能しないのはもったいない。
さて、次のキャンプは何人で出かけようか?
PROFILE_ケイシタナカ
ミュージシャン。2019年に4thアルバム『Breath』をリリースしたほか、最近ではnoteで新曲を発表するなど、時代に呼応した精力的な活動でも話題に。1982年、北海道生まれ。
- TAG :
- BRAND :
- フィールドライフ
- CREDIT :
-
文◉ヤマシタユウスケ(あすなろ組) Text by Yusuke Yamashita
写真◉後藤武久 Photo by Takehisa Goto
スタイリング◉近澤一雅 Styling by Kazumasa Chikazawa
撮影協力◉道志の森キャンプ場
SHARE
PROFILE
フィールドライフ 編集部
2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。
2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。