河津川の源流から河口へ。ひと筆書き毛鉤釣り・後編
フィールドライフ 編集部
- 2021年11月28日
河津川上流でアマゴを釣ったら、河口へ下りながらヒラスズキを狙う。1本の川を毛鉤ひとつで楽しむ釣りは、渓流と河口でまったく異なる手応えを感じることができる。
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取材・文◎遠藤 昇 Text by Noboru Endo
写真◎隈 良男、狩野イサム Photo by Yoshio Kuma & Isamu Kano
出典◎フィールドライフ 2018年秋 No.61
渓流魚ではとうてい味わえないパワーとスリル
釣り随筆などの著作も多くペンネームからもその釣り好きがわかる作家・井伏鱒二も、『河津川筋』という随筆を書いている。そのなかで鱒二の釣りの師匠である佐藤垢石(こうせき)が「アユ釣りのメッカである長良川の釣り師たちが、伊豆の釣り師にはかなわない。その理由は、釣りの技術も優れているが、釣る姿も優れている。釣る心境も立派で、その三つが揃わなくては、立派な釣り師とはいえない」という口述がある。鱒二も河津川では“カワセミのおっさん”という老人に手ほどきを受けているのだが、そのなかで「お前さん、(釣りは)川に食らいつかなくっちゃ、いけねえ」とたしなめられている(参考文献『伊豆の国・第1集』木蓮社)。見た目はラフだが地元の釣り師たちは、そうした強い気概をもって河津川に臨んでいるかと思うと、みな名人に見えてしまうから不思議だ。
* * *
アユ師を見ながらさらに下流に向かい、河津川の河口に着いたのは午後5時過ぎだった。
海用のサーフウェイダーに着替え、ロッドも渓流用3・4番から8番に。ラインもフローティングラインから、ゆっくり沈むインターミディエイトというラインへ変更し、ヒラスズキに挑む。
河口右岸の砂浜に立ち込み、流れの手前から対岸を目指して、エビを模したフライをキャストする。ラインが流れにとられフライがターンしたあたりから小刻みにリトリーブし、海方向に一直線になったラインが、残すところ10mほどになった瞬間だった。
フライがスッと吸い込まれたかと思うと、先ほどのアマゴとは大きく異なる強い衝撃がロッドをしならせた。釣り上げてみればサイズは30〜40㎝ほどだが、何度もエラ洗いを繰り返すスタミナと8番ロッドしならせるパワーには、渓流魚ではとうてい味わえないスリリングさがある。その日は23時まで粘ったが、上げ潮のヒラスズキ2匹をキャッチすることができた。
ヒラスズキはルアーゲームとして2〜3月、あるいは11〜12月に磯場で行なわれるのが一般的だ。しかし、伊豆半島東海岸では、6〜9月かけてヒラスズキが河口に集まる。場所も時期も釣り方も大きく異なる理由は、全国平均2倍以上になる河津川流域の降雨量が関係しているのかもしれない。
前線や台風による降雨は、季節風と北にそびえる天城連山の影響により、河津川が位置する伊豆半島東部に集中する傾向にあり、大水が出るたびにアユをはじめ川魚が河口に流される。そうした川魚や手長エビなどのベイトを求め、ヒラスズキが集まって来るのではないだろうか。
伊豆半島、世界ジオパーク認定のキーワードは「南から来た火山の贈りもの」だ。
このヒラスズキと源流のアマゴが毛鉤ひとつで楽しめるのも、地形的な特徴が生み出した、”南から来た火山の贈りもの”に違いない。
遠藤 昇(えんどう のぼる)
編集者、ダンス・オン・ザ・グラウンド代表、1961年横浜生まれ。『アウトドア・イクイップメントマガジン』(ネコパブリッシング)創刊編集長。ネイチャー・クォリティーマガジン『SOLA(ソラ)』(日刊スポーツ出版)創刊編集長。環境雑誌『ソトコト』(木楽舎)副編集長などを経て現在『Fishing Cafe』(木楽舎)編集統括などを努める。沖縄本島で釣ったイソフエフキが2012年4月4日付けで、『JGFA』クラス別世界記録に認定された。
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取材・文◎遠藤昇Text by Noboru Endo
写真◎隈良男、狩野イサムPhoto by Yoshio Kuma & Isamu Kano
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PROFILE
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2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。
2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。